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349 暗黒騎士
しおりを挟む「なぁ、明星ちゃんや。おじさんが聞いてた話とずいぶんちがうんだが……」
「あっれー、おっかしいなぁー。みんな出払っているから、この経路なら楽々帝王のところにまで行けるって。たしかに仲間が言ってたんだけど」
「ちょっとぉ、二人とも! いまは口より手を動かしてっ」
おれと明星が現状にそろって首をかしげていると、芽衣の怒声が響く。
第三次大遠征への対応で帝国陣営がてんやわんやしている隙をつき、大金星をあげるべく潜入を試みたレジスタンスの突撃強襲部隊。
しかし事前に得ていた情報とはちがって、けっこうな数の守備ダンボール戦士たちに囲まれて大ピンチ!
ダンボールの軽鎧衣に身をつつみ、両の拳にダンボールのナックルダスターを装着した拳闘士スタイルのダンボール戦士と化した芽衣が一人奮戦するも、その動きは従来のものとはほど遠い。
タヌキ娘の激しい動きに装備の方が耐えられないのだ。
ダンボール戦において、装備が壊れればその時点で敗北となる決まり。
動きに枷をつけられ、得意のパワーも発揮できない。狸是螺舞流武闘術の奥義? とんでもない! 発動した瞬間に装備が壊れちゃう。
対する帝国の守備兵たちはよくよく心得たもの。ちびちび装備のつなぎ目や脆いところを突いては、確実にこちらを削り追い込んでゆく。
多勢に無勢。
装備にも練度にも差があり過ぎる。
じりじりと狭まる包囲網。
おれも手にしたダンボール製ゴム銃でぺちぺち応戦するも、敵の厚い防備に阻まれて虚しくぺちりぺちり鳴るばかり。
危うしレジスタンス。
だが突如として敵勢の猛攻が止んだ。
幾重にもこちらをかこむ人垣がザッと割れ、奥から姿を見せたのは漆黒の暗黒騎士。頭の天辺から足の先まですべてが黒に覆われている。
あぁ、もちろんオールダンボール製だ。ところどころちょっと角ばってはいるものの、塗装にムラがない。ご丁寧に艶消しも使われているのか。専用の塗料により漆塗りのごとく丹念に仕上げられた逸品。某SF超大作映画に登場するアレっぽくて、ぶっちゃけちょっとカッコいい。
まぁ、だからとて着たいかといえば、おれはノーと答える。ハイボール三杯やったあとのノリならばギリいけるか……。
気合の入ったコスプレっぽい暗黒騎士の登場。
おれと芽衣がポカンとなっている一方で、明星たちレジスタンスのメンバーは驚愕の表情を浮かべていた。
「そんな、どうしてあなたがここにいるの? 帝王の右腕にして最強のダンボール戦士であるジルド卿が」
暗黒騎士ジルド卿。
出処、正体不明。明らかなのはその卓越した実力ばかり。
ハイゼルコバ帝国、第十一代目・カイザーガジーの側近中の側近にして懐刀。
帝国という組織内において正式な地位はなく、あくまでカイザーガジーの私兵扱いながらも、その影響力ははかりしれない。
宰相はもとより軍部を掌握している八名の特級騎士たちすらも、彼を前にしては首を垂れひれ伏す。それゆえに第二の帝王とまで陰で囁かれている人物。
ケヤキ自由連合の第三次大遠征。
主力同士がぶつかり合う大一番において、最大戦力といっていい猛者が居残っている。
この事実に激しく動揺するレジスタンスの面々。
しかしさらなる衝撃が彼らを襲う。
前線にて勇ましく戦っていた仲間の女。急に得物をすっとさげ、スタスタと無防備に暗黒騎士の方へと歩いていくではないか。
そして彼を前にして片膝をつく。
この姿が意味していることは、ただひとつ。
裏切り。
いいや、ちがう。
はじめからスパイ目的にてレンジスタンスに潜入していた工作員。それが彼女の正体……。
今回の侵入経路についても彼女からもたらされた情報。
とどのつまりは、明星たちは最初っから帝国の手のひらの上で踊らされていたということ。
恐るべしハイゼルコバ帝国! 恐るべし暗黒騎士ジルド卿!
彼らは今回の第三次大遠征にてケヤキ自由連合を一蹴するだけでなく、これを機に内部に潜むネズミたちをも炙りだす算段であったのだ。レジスタンス狩りもまたその一環。
あっけにとられ立ち尽くすレジスタンスの面々がいる一方で、感情を爆発させる者もいる。
「おのれっ!」
「せめてひと太刀なりともっ!」
レジスタンス陣営より二人の若者が剣と槍を手に飛び出す。レジスタンスのメンバーの中でも主力格の実力者たち。
狙うは暗黒騎士の首。
左右同時攻撃による不意打ち。
だがそれを薙ぎ払ったのは無情なる大剣。
剣と呼ぶにはあまりにも大きい。タタミ一畳よりもなお大きなシロモノ。
風が轟と唸る。
ただの一閃にて若者たちの武器が折れ、装備が打ち砕かれた。
ダンボール戦士、鉄の七か条
掟その二、ダンボール戦士たる者、武具が失われし時は潔くあるべし。
掟その三、ダンボール戦士たる者、防具の七割が損壊した時は潔くあるべし。
これらに抵触し、戦場から強制退場となった若者たち。
倒れ伏した相手を無言のまま見下ろす暗黒騎士。
その鈍く黒光りしている仮面からは、いかなる感情も読み取れない。
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