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329 獣王武闘会 業を背負いし者
しおりを挟む敵のロボットから「姉サマ」呼ばわりされた零号がコテンと首を右にかしげた。
「シリウスといえば、太陽をべつとして地球上から見えるもっとも明るい恒星のこと。古来より天狼星とも呼ばれています。……だというのに、なぜにネコ頭?」
瞬間、あれほどガシャコンガシャコンと盛大に暴れ、猛威を振るっていたアニマルロボ・カブト軍団がビクリ、全員が固まりその動きが一瞬止まった。
あまりにも不自然な挙動。懸命に対峙していた警備隊の方が戸惑うほど。
これにオコジョくのいち・かげりは「ちっ」と軽く舌打ち。その同僚であろうキタオポッサム忍者は気まずそうにさっと顔をそらす。
そして指摘を受けた当のアニマルロボ・シリウスは天をあおぎ、無念そうにぽつりとつぶやいた。
「博士が徹夜明けのノリでつけまシタ」
実戦投入に足るほどの自律可動型戦闘ロボット軍団を開発した博士。
その超天才的頭脳の根底には中二病の要素も多分に含まれていたようで、「新型機の名前どうしよっかなぁ……。あっ、そうだわ。シリウスなんてどうかしらん? なんだかカッコいい響きだし、よし、これに決めた!」みたいな感じで。
たしかに言葉の響きはカッコいい。
いかにも「むむむ、こいつデキる。ただ者じゃない」みたいな凛々しい名前でもある。
だがしかし、ネコ頭だ。
そこはもうちょっとがんばって欲しかった。
ゴールドメタリック、全身が洗練されたボディデザインにして、能力も申し分ないというのに、どうして最後の最後で手を抜くかねえ。
おれがおずおず「名前の再登録とかは?」とたずねたら、シリウスは悲しそうに首をふる。
「開発者によって最初に入力された起動コードと連動しているため、抹消は不可能デス。どうしても実行するのならば内臓されている半導体チップおよび、バックアップデータのすべてを初期化するしかありまセン」
うーん、ユーザービリティ(使いやすさ)と愛がいささか足りない設計。
これだから技術先行の独りよがりな商品開発はダメなのだ。ちゃんと利用者のニーズを視野に入れないからこんな凡ミスを犯す。いくらすごい機能や性能でも、過ぎれば宝の持ち腐れ。挙句の果てには「ちょっと時代を先取りしすぎたね」とか言われちゃて、スタートダッシュのし過ぎでへたれたところを、周回遅れでやってきた連中にまんまと追い抜かれて、市場をごっそり奪われちゃうんだ。
産まれながらに業を背負わされたアニマルロボ・シリウス。
親に分不相応な名前やらキラキラネームとかをつけられた子どもたちは、みんなこんなにも重たい十字架を担いで、人生という荒野を生きていかねばならぬのか。
ガクブル……なんとおそろしい。これはもはや呪いといっても過言ではあるまい。
そんな業を背負うロボ女シリウスが言った。
「さぁ、零号お姉サマ。博士がお望みですのでおとなしくついてきてクダサイ。抵抗するだけ無駄デスヨ。なにせワタシはアニマルロボシリーズの最新作にして、お姉サマの後継機に相当しているのですカラ」
シリウスの話が事実だとすれば、うちに事務所の納戸にあるボロい掃除機と、大型家電量販店の売り場にある最新の掃除機ぐらいの差があるということ。
たしかに勝ち目はない。
だというのに零号はまたもやコテンと首を左にかしげる。
「さきほどからちょくちょく登場している博士なる人物ですけど、どうもお話をうかがっている印象からして女性のように感じられるのですが……」
ペット業界に君臨し、一代で莫大な富を築いた経済界の巨人・猫守翁(ねこかみおきな)。彼が莫大な私財を投入し秘密裏に開発していたのが、このネコ耳メイド型アニマルロボ零号。
猫守家の一族の総本山である湖国の磨瑠房楼(まるぼうろう)の地下施設にて保管されていた零号を表に出したのは、おれこと尾白四伯探偵とその助手であるタヌキ娘の芽衣である。
零号および地下施設関連の制作者は不明であるが、その人物が残したとおぼしきロゴマークはあった。
スニーカーを履いたカメレオンのイラスト。
同じロゴマークを使用している変態ならばおれにも心当たりがあるものの、どうやらアレとは別人らしい。さりとてまったくの無関係というわけでもないっぽい。どの程度に関与しているのかは現時点では不明。当人に問い質すのが近道なれど、何せ相手は神出鬼没の変態ゆえに……。
零号自身にも自分の生みの親に関する記憶はない。
「それでも端々の情報を拾い集めた印象では、少なくとも女性ではなかったかと思われます」
はっきりそう言い切った零号。
このことから彼女が結論づけたのは、基礎となる設計思想こそは同一人物ながらも、後のアニマルロボシリーズへの派生は各々ちがう人物が携わっているということ。
つまり、零号とシリウスは異父もしくは異母姉妹みたいな間柄。
グダグダとややこしいことを述べたが、ようは「だからそちらの要望に従う義務はない」という拒否権を発動した零号。
この返答を受けてシリウスの両目が赤く光る。
「そうデスカ。ならば仕方がありまセン。手足をもいで連れて行くとシマショウ」
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