おじろよんぱく、何者?

月芝

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325 獣王武闘会 裏祭

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 突如として一方的に中断された準決勝第二試合。
 かわりに始まったのがアニマルロボと遊ぶ裏祭。

「参加はご自由にてお代は無料。友人知人ご家族同僚などなど、お誘いあわせのうえでふるってご参加を」

 ケラケラ笑いながら好き勝手ほざくオコジョくのいち・かげり。
 でもそんな言葉は真っ赤なウソ!
 なぜならアニマルロボ・カブト軍団が動き出すのに前後して、会場内の照明がほんの一瞬落ちたとおもったら、あちこちの通路の防火シャッターやら柵などが、ガラガラと勝手に閉じてしまったのだから。
 どうやらハッキング攻撃を喰らって場内設備のコントロールを奪われた模様。
 これにより会場は封鎖された。
 しかもたんに閉じ込められただけじゃない。
 逃げ惑うにしろ、戦うにしろ、会場内の主だった場所を目指そうとすれば、どうしたって中央の石舞台を横切らなければいけないように経路が計算されていた。
 それすなわち否が応でもアニマルロボットと遊ばなければいけないということ!

  ◇

「おいおい、マジかよ。聚楽第の連中、何を考えていやがる」

 おれは騒然とする現場に困惑を隠せない。
 西日本動物界の重鎮たちやら、招待された賓客らがこぞって来場している場所で、こんなだいそれた騒ぎを起こすだなんて。
 それすなわち動物界全体にケンカを売っているようなもの。
 聚楽第は動物至上主義を掲げる秘密結社。敵はあくまで大地を穢し続け、母なる星をも蝕む人間のみであったはずなのに……。

「いったいどういった了見だっ! 答えろ、かげり」

 客席の縁にへばりつき舞台に向かって声を荒げるおれに、オコジョくのいちがにやり。

「どうもこうもないよ、探偵さん。これぞ原点回帰。強ければ生き残り、弱ければ死ぬ。それが大自然の掟。ぬるま湯に浸かってのほほん、馴れ合うだけなんてつまらないわ。身につけた牙を、爪を、宿る獣性を解き放つ。
 あっ、それからもちろんデータ収集も大事だから。なお今回のイベントにて得られた各種情報は、今後のアニマルロボ開発にきちんとフィードバックされますので、どうぞご了承ください」

 ますます人間社会に迎合し、文明との馴れ合いを深めるばかりの動物界。
 聚楽第は問う。

 本当にそれでいいのか?
 このままでいいのか?
 おまえたちはそれで満足なのか?
 化け術にて街にまぎれ、こそこそ隠れ住むばかりの現状が?
 一方で術が使えずに怯えて暮らす者どもの嘆きに耳を塞ぐのか?

 さぁ、いま一度思い出せ、己が何者なのかを!

  ◇

 投じられた一石。
 それが会場中を巻き込んでのバトルロイヤル。
 なにせこれだけの大会だ。出場選手はもとより、観客席の中にも有名無名を問わず達人級がちらほらまぎれ込んでいるはず。腕利きの警護の者たちも大勢いるだろう。
 かげりはそれらのデータをも根こそぎさらうつもりなのか。
 いいや、ちょっと待てよ。
 資金集めから関係各所への働きかけ、および大会開催へと至るまで、ここまで入念にお膳立てをしていることからして、なんのかんのと理由をつけては意図的に実力者たちを集めている可能性の方が高い。もしかしたらチケットの高騰すらもが釣り餌だった可能性もある。

 ひさしぶりに獣王武闘会開催決定!
 話題沸騰、イエーイ、おおいに盛りあがる動物界隈。
 参加者募集と選定。
 観戦チケット即ソールドアウト。
 たちまち高騰してプレミアム化。
 取引価格に愕然!
 あー、さすがにこれはちょっと手が出ないかぁ。
 諦めていたそのとき、手元に届く招待状。

 ……フム、とんでもなく美味そうな餌である。
 おれならば即パクリと喰いつくな。せっかくだから行ってみようぜとかなるな。
 もしかしたらウハウハ入れ食い状態なのかもしれない。
 にしても言ってることもやってることもムチャクチャだ。
 牙や爪の重要性を声高に唱える一方で超ハイテクロボット頼みだなんて。

「っていうかロボじゃん! 野生の誇りとやらはどこへ行った? あと、ここのところバトル要素がちょっと多すぎる。おれはあくまで頭脳労働を専門とする街のニヒルな探偵屋さんなのに!」

 あれよあれよという間に、ずんずんスケールアップしまくるお話。どうすんだよ、これ? どうなっちゃうだよこれ?
 動物界とか人間界とか知ったこっちゃねえよ! やりたきゃ他所で勝手にやってくれ! もう、おっさんしんどい! ついていけない! あと腰もちょっと痛いし、ここのところストレスでお腹も少し緩くなってる!

 探偵が恥も外聞もなく全力で愚痴ると、助手の芽衣が「そうかな? うちの場合、八割方、事件は拳で解決しているような気がするけど」と首をかしげ、トラ美が「尾白さん絡みだとだいたいオチはこうだよな?」とうんうん独りごち、零号が「高月名物、尾白のから騒ぎ」とぼそり。
 ガクリとうな垂れるおれの頭を「よしよし」と撫でるのは、憑いてる白い腕。
 やべえ、泣きそう。おれはいま猛烈にイモ焼酎が呑みたい気分だ。


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