319 / 1,029
319 獣王武闘会 準決勝第一試合 震撃の蒼雷
しおりを挟む序盤の凄まじい技の応酬から一転して中盤は静かな戦いとなる。
両者ともにほとんど動きなし。時間ばかりが過ぎてゆくが、これに野次を飛ばすような観客はひとりもいない。
実際に拳を交えずとも、二人が戦っているのは舞台上に満ちている闘志でわかったから。
平多紀理と洲本芽衣、殺気、覇気、闘気、己が体内にあるあらゆる気を勢いよく吐き出しては、激しくぶつけ合っている。
わずかにでも引いたり、押し負けたが最期、いっきに攻め込まれて持っていかれる。
二人にもそれがわかっているがゆえに、いまや表情を取り繕うこともない。
お嬢さまタヌキも、ちんくしゃタヌキ娘も、「シャーッ!」と全力で威嚇。
終盤になっても高まり続ける緊張感。
いつはじけてもおかしくない。
もしくはこのまま三十分がすぎて引き分けに終わるのか?
とおもわれたとき、それは鳴った。
パァーン!
膨らませた紙袋を手でパンと割ったときの音。
何者かの仕業かはわからない。けれども明らかにこの局面を動かすために行われたことと、そこに込められた悪意だけはたしか。
すかさず音に釣られて反応したのは平多紀理。
溜め込んでいた気を一挙に解放し放つのは……。
「屋島蓑山流四十八霊、絶技・冥穴」
地崩しにて地を制し、天崩しにて天を制し、人崩しにて人を制す。
天地人を制し、ついには天地明察にて自在に反転させるに至る。
世界の果てに行きついた先、ぽっかり口を開けて待つのは、あらゆるものを呑み込む冥府へと通じる穴。
平多紀理を中心にして闇が渦を巻く。
かといって本当に穴が出現したわけではない。己が領域内を完全に掌握し支配したがゆえに起こった現象。空気、気流、気圧どころか光すらもが影響を受け反射され屈折していたのだ。そしてこれほどの現象を引き起こす穴は、さながらブラックホールのごとく周囲のものを轟々と呑み込みはじめた。
石畳みの一枚が剥がれてふわりと浮いたとおもったら、穴へと吸い込まれる。
するとたちまち闇にまぎれて粉砕されて塵と化す。
いったい内部にてどれほどの凄まじいエネルギーが暴れているのか。あんなシロモノに喰われたが最期、生身なんてたちまち挽肉にされてしまうことであろう。
◇
絶技・冥穴を前にして、芽衣は両足をしっかり開いて踏ん張り、腰を深く落とす。
内なる昂りを鎮め、呼吸を整え、心臓の鼓動と重ねつつ、体内にタヌキの悶々パワーを巡らせながら、静かにつぶやく。
「狸是螺舞流武闘術、終の型、唯我独尊派生・震撃」
たちまち芽衣のオカッパ頭が逆立ち、全身に蒼光を帯びた。
一度に体内の全闘気を開放、爆発的なチカラを発揮し限界突破をする技が唯我独尊。しかしこれはバケツをひっくり返したような運用方法にて、どうにも効率が悪い。
そこでチカラを解放しつつ量を調整し、より賢く使おうというのが派生・震撃。チカラに指向性を持たせ、自在に操ることで、無駄を失くすだけでなく、瞬間最大出力を飛躍的に爆上げすることも可能。
じょじょに色味を増す蒼さ。強くなる輝き。
やがて直視できないほどにまで眩くなるも、急にその光がしぼみ出した。
ではしぼんだ光たちはどこへ?
答えは芽衣の左腕にあった。肘から先が異様に青白く、眩しいけれども、目が痛くならない。月夜の雪原のようなおだやかな明かり。
左腕に集約された蒼光が煌々と、煌々と……。
◇
互いに準備が万端整ったところで、どちらからともなく叫ぶ。
「「いざ、尋常に、勝負っ!」」
舞台中央にて蠢くは黒い半球体の冥穴。
そこに向かって雷光が疾走する。
たちまち蒼き閃光が闇に呑み込まれて消える。
と思った次の瞬間、冥穴の表面に線が走り真っ二つに斬り裂かれる。
「狸是螺舞流武闘術、断の型、まな板透し」
手刀により一刀両断。切れ味すごく魚のみならず下のまな板ごと斬る。鯛どころかマグロ級でもズバッとね。
唯我独尊派生・震撃の恩恵により高出力ブレードと化した芽衣の手刀。
平多紀理の縦カールのひとつごと絶技を、斬っ!
難攻不落の平多紀理城、ついに陥落す。
その才気ゆえにほとんど他者からの攻撃を受けたことがなかった天才。
生まれて初めて体験する衝撃はあまりにも凄まじく、全身を駆け巡るダメージにて薄れゆく意識。「このわたくしが負ける? そんなバカ……な……」
これにより己の敗北を悟らざるをえなかったタヌキお嬢さま。
しかし最後にひと意地をみせる。
もはや勝敗は決したと油断した芽衣。それだけたしかな手ごたえと自信があったのだろうが、残心を怠った小娘の襟首を倒れながらにむんずと掴んだ平多紀理。死なばもろともとばかりに投げを放つ。
「あっ」
マヌケな声を発したのは芽衣。
気づけばくるくる宙を舞っていた。
で、すとんと見事に着地を決めるも、そこは舞台の外であった。
かくして大将戦は平多紀理がノックアウト、洲本芽衣が場外となり、引き分けとなる。
獣王武闘会、準決勝第一試合。
二勝一敗一分けにより、勝者、チーム・尾白探偵事務所。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー
コーヒー微糖派
ファンタジー
勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"
その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。
そんなところに現れた一人の中年男性。
記憶もなく、魔力もゼロ。
自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。
記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。
その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。
◆◆◆
元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。
小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。
※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。
表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる