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315 獣王武闘会 準決勝第一試合 ちりちりアフロ
しおりを挟む次鋒戦、四国連合からは戸佐森弓弦が、こちらからは零号が舞台へとあがる。
「また女の子か。何げに女の人の参加者が多いな、この大会」
思春期真っ盛りにて周囲の女子に振り回されっぱなしの悩めるタヌキ青年、戸佐森弓弦が「どうにもやりにくい」とぶつくさ。
対峙するネコ耳メイド型アニマルロボは無言のままである。
やがて審判が試合開始を告げると、零号がぺこりとお辞儀をしたもので、つられて戸佐森弓弦も頭を下げる。基本的に彼はいい子なのだ。
そんなタヌキ青年に零号が「こちらはお近づきの印です。よろしければどうぞ」と差し出したのは一本の細長い筒状の缶。
表面をペンキで白く塗りつぶされており、何の缶だかわからないようにされた品。
眉をひそませる戸佐森弓弦。しかし敵に塩を贈るの古事の例もある。無下に扱うのはどうであろう。何より愛らしいメイドさんからのせっかくの贈り物。これを受け取らないのは男としてありえない、と考えたのか「これはこれはご丁寧にどうも」と受け取った。
戦いそっちのけ、二人の奇妙なやりとりに観客たちはざわざわ。
しかしおれと芽衣はそろって「「げっ」」と声をあげのけ反り、あわてて舞台に背を向ける。
その態度を目にして、とっくに女人の姿に戻っていたトラ美が「二人ともどうしたんだい?」
おれはすぐに事情を説明しようとするも、ちょっいとばかり遅かった。
このタイミングでタヌキ青年の手の中にあった缶がボンっ!
ビカビカッと激しい閃光を発する。
見た目こそはジュースの缶っぽいが、アレの正体は閃光弾である。スタングレネード、フラッシュバン、などとも呼ばれるシロモノ。
不良刑事のカラス女こと安倍野京香が好んで使用する制圧武器にて、おれと芽衣は何度も痛い目に合っているものだから、すぐにピンときた。
けれども舞台中央にいた戸佐森弓弦をはじめとする、会場中にいた大半の者たちには馴染みがないシロモノにて、じつに大勢の者たちが閃光を凝視し目をやられてしまうことに……。
頭くらくら、涙ぼろぼろ、耳や鼻の奥がツーン。
煙と光のダメージにて「目が、ぼくの目がーっ」と激しく動揺する戸佐森弓弦。
そんな彼の手をそっと優しく握ったのは、誰あろう零号。白煙にまぎれてこそっと接触に成功。
「安心してください。じきにおさまりますから」
しかし耳がよく聞こえない戸佐森弓弦は「えっ、何、何だって?」状態。
彼は聞き直そうとするもそれはかなわない。
直後に全身を電流ビリビリショックが襲ったからである。
超ハイブリッド駆動機構零式を搭載している、ネコ耳メイド型アニマルロボ零号。
ボディ表面に仕込まれた体皮型ソーラーパネルにより太陽光を取り込み、体内にて生じる流動体の流れや稼働しているパーツの回転を活用しつつ、歩く震動をもエネルギーに変換。水だけで発電する高性能水電池や、水素バッテリー、いざという時用のゼンマイなどなど。
次世代を背負って立つクリーンエネルギーのスターたちで構成された、夢のドリームチーム。それが超ハイブリッド駆動機構零式。
脅威の燃費の良さはコップ一杯の水があれば楽々二十四時間戦える。
おれのちっぽけなシコシコ自家発電とは雲泥の性能を誇る零号発電。たぶん村どころか町ひとつぐらいならば楽々まかなえるのではなかろうか。
当然ながら瞬間最大発電量も、そりゃあもうえげつない。
もしも全力でやっていたらタヌキの丸焼きがこんがり仕上がっていたことであろうが、さすがにそこまではしない。
けれども哀れ、戸佐森弓弦。
初体験の電気ショックにたまらず人化の術が解けて、本来のタヌキ姿となり、全身の毛がちりちり、くるくるアフロ状態に。
光の衝撃からようやく回復した一同は、青年の無残な姿を目にして「うわぁ」とおおいに同情し、ヨヨヨと涙を誘われる。
動物にとって体毛とは特別なモノ。
人間だって髪の毛が抜けてはげたらショックを受けるように、いいや、それ以上に毛並みを台無しにされることのダメージがでかい。
肉体をこんがりされ、精神的にもズタボロにされた戸佐森弓弦は気がつくなり「わーん」と泣きながら舞台から逃げていった。
次鋒戦はネコ耳メイド零号の勝利。
まさかのチーム・尾白探偵事務所が快進撃。
連勝にて星ふたつ。
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