307 / 1,029
307 獣王武闘会 第三試合 示威
しおりを挟む妙技の応酬にて白熱した四国連合と裏千社選抜による第一試合。
まさかのバトルロイヤルを選択。終始、奇天烈な内容であった海獣と尾白探偵事務所による第二試合。
続く第三試合は優勝候補の本命とも名高いチーム・姫路アニマルキングダム選抜と、海外からの招聘選手による混合チーム・外来の対戦。
選択した試合形式は勝ち抜き戦であった。
そして両チームの先鋒が舞台へと姿を見せたときに、会場中がどよめく。
なんと姫路アニマルキングダム選抜側からは、いきなりチームリーダーの拳闘士が登場。
彫りの深い顔立ち。
闘志を秘めた瞳はオニキスの宝石のよう。
焼けた肌、鍛えあげられ均整のとれた体躯、醸し出すオーラ……。
男の存在が、ただそこにあるだけで他者を圧倒する。
マウンテンゴリラの佐藤晋太郎(さとうしんたろう)。
独岩龍拳闘術の遣い手にして、姫路アニマルキングダム近衛師団の階位は三。
独岩龍拳闘術(どくがんりゅうけんとうじゅつ)。
その歴史はとても古く、最古の流派のひとつとされている。文字通り素手で殴り合うことを前提にした動物のためのボクシング。
ただし近代ボクシングのようにスポーツとしての要素は皆無。
グローブにヘッドギア、マウスピースにリング、時間制限もなければ、インターバルもない。ゴングが鳴ったが最後、どちらかが倒れるまで勝負は続く。
その拳は岩のように固く、その肉体もまた岩のごとし。
◇
第三試合には歓声の類は一切なし。
なぜならあまりにも一方的な展開であったから。
ゴリラ拳闘士が動いたとおもったら、すぐに対戦相手がぐしゃりと崩れ落ちる。
先鋒戦、開始直後にアゴ先にゴリラ拳闘士の一撃をもらって、ヘラジカ男の首が九十度にカクンとかしげる。
ヘラジカといえば雄々しく立派な角が特徴的にて、すごいのになると二メートルを超えるモノもある。そんなシロモノを支える頭部や首もまたごつく太く頑強。すらりとした奈良のシカたちとは完全に別物。
それがたったの一撃、それも軽いジャブのような拳により、膝がガクガク笑うことになる。
左のジャブを見舞い、相手の膝が落ちたところで振り下ろし気味の右の拳がヘラジカ男の耳のうしろあたりを打ち、これが決定打となった。
次鋒戦、雄叫びとともにタックルを放ったのはチーム・外来のアメリカバイソン男。まるでダンプカーが猛スピードで突撃するかのような迫力!
己がすべてをパワーへと転換する行動。技と呼ぶにはあまりにも乱暴。だが、だからこそ強い。
これをひらりとかわしたゴリラ拳闘士。
すれちがいざまにバイソン男の後頭部へと振り下ろしたのは右の前腕。
ギロチンのような一撃にてバイソン男は白目をむく。にもかかわらず足は止まらず、そのまま舞台の端まで駆けていき落ちた。
中堅戦、舞台上を黄褐色の風が疾走する。
それはピューマの女戦士。ぐるぐるとゴリラ拳闘士の周囲をまわっては攪乱。隙をみて斜め後方の死角より襲撃。放ったのは手刀。狙いは首筋の急所。さながら暗殺でもするかのような必殺の攻撃。
だが、ゴリラ拳闘士はわずかに身をひねるだけでこれをかわす。
ピューマの女戦士が「誘われた?」と気づいたときには、太ももに衝撃を喰らっていた。まず足をつぶされ、よろけたところを仕留められてしまう。
大将戦、グリズリーの巨漢に対して、ゴリラ拳闘士は真正面から立ち会う。
しかしこの戦いで発せられた拳は、ただの三発のみ。
グリズリーの左右の打ち下ろしを、左右のカチあげで打ち返したゴリラ拳闘士。
両腕をはじかれバンザイの姿勢となったグリズリー。
その鳩尾にめり込むゴリラ拳闘士の拳にて勝負あり。
総試合時間、十分ちょっと。
べつにチーム・外来が弱かったわけじゃない。
大鉈のように淡々と振るわれる拳。
マウンテンゴリラの佐藤晋太郎があまりにも強すぎたのである。
その実力を目の当たりにして会場中がシーンと静まり返っていた。
◇
第三試合を見物していたおれは「やっぱ強いな、アイツ」とぼそり。あまりの試合内容に、くわえているタバコの先がぷるぷるしちまう。
いっしょに観戦していた零号がうなづく。
「あのチカラを誇示するような戦いぶり、示威行為でしょうか」
示威行為。
己の意気込み、気合いっぷりを他に示すこと。デモンストレーションともいう。
零号の言葉に「だろうな」とおれも同意。
おそらく第三試合は佐藤晋太郎、もしくはその背後にいる近衛師団や姫路アニマルキングダム側からの決意表明。
『聚楽第ども。コソコソと何をたくらんでいるのか知らないが、あんまりおいたがすぎると、こんな風にプチっとひねりつぶすぞ』
おれは得た情報は逐一近衛師団の隊長さんにあげている。
もちろん桜花朱魅から聞いた「オモチャ」についても伝えた。
波乱含みの獣王武闘会、一回戦も残すはあとひと試合。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
御様御用、白雪
月芝
歴史・時代
江戸は天保の末、武士の世が黄昏へとさしかかる頃。
首切り役人の家に生まれた女がたどる数奇な運命。
人の首を刎ねることにとり憑かれた山部一族。
それは剣の道にあらず。
剣術にあらず。
しいていえば、料理人が魚の頭を落とすのと同じ。
まな板の鯉が、刑場の罪人にかわっただけのこと。
脈々と受け継がれた狂気の血と技。
その結実として生を受けた女は、人として生きることを知らずに、
ただひと振りの刃となり、斬ることだけを強いられる。
斬って、斬って、斬って。
ただ斬り続けたその先に、女はいったい何を見るのか。
幕末の動乱の時代を生きた女の一代記。
そこに綺羅星のごとく散っていった維新の英雄英傑たちはいない。
あったのは斬る者と斬られる者。
ただそれだけ。
乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
高槻鈍牛
月芝
歴史・時代
群雄割拠がひしめき合う戦国乱世の時代。
表舞台の主役が武士ならば、裏舞台の主役は忍びたち。
数多の戦いの果てに、多くの命が露と消えていく。
そんな世にあって、いちおうは忍びということになっているけれども、実力はまるでない集団がいた。
あまりのへっぽこぶりにて、誰にも相手にされなかったがゆえに、
荒海のごとく乱れる世にあって、わりとのんびりと過ごしてこれたのは運ゆえか、それとも……。
京から西国へと通じる玄関口。
高槻という地の片隅にて、こっそり住んでいた芝生一族。
あるとき、酒に酔った頭領が部下に命じたのは、とんでもないこと!
「信長の首をとってこい」
酒の上での戯言。
なのにこれを真に受けた青年。
とりあえず天下人のお膝元である安土へと旅立つ。
ざんばら髪にて六尺を超える若者の名は芝生仁胡。
何をするにも他の人より一拍ほど間があくもので、ついたあだ名が鈍牛。
気はやさしくて力持ち。
真面目な性格にて、頭領の面目を考えての行動。
いちおう行くだけ行ったけれども駄目だったという体を装う予定。
しかしそうは問屋が卸さなかった。
各地の忍び集団から選りすぐりの化け物らが送り込まれ、魔都と化しつつある安土の地。
そんな場所にのこのこと乗り込んでしまった鈍牛。
なんの因果か星の巡りか、次々と難事に巻き込まれるはめに!
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。
いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑!
誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、
ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。
で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。
愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。
騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。
辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、
ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第二部、ここに開幕!
故国を飛び出し、舞台は北の国へと。
新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。
国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。
ますます広がりをみせる世界。
その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか?
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から
お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる