おじろよんぱく、何者?

月芝

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300 獣王武闘会 第二試合 出陣!

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 芽衣たちが気づいている弱点について、当の桔梗が把握していないわけもなく。
 また聡明な彼女がこれをいつまでも放置するはずもなかった。

 その場にて高く飛び上がった桔梗。
 宙にて地面へと向けて放ったのは「狐崑九尾羅刃拳、九尾」なる技。篠突く雨とも呼ばれる拳打。精確さを捨て手数に偏重し敵を圧倒する。
 拳のゲリラ豪雨が石舞台に降り注ぐ。
 ばかりか、ゆっくりと移動を開始。
 じきに多紀理の全身が拳の雨の中へと。

 頭上の死角からの猛攻。
 ふつうであればとてもしのげるものではない。
 だが多紀理はこれをも涼しい顔にて受け流してみせる。もしかしたら彼女は土砂降りの雨の中でもわずかに濡れることなく、すべての雨粒を手玉にとって平然と歩き続けられるのかもしれない。

 起死回生を狙ったとおぼしき桔梗の攻撃は不発に終わる。
 もはや打つ手なし。万事休すかと思われたとき異変が起きた。
 唐突に拳の雨がピタリと止む。
 攻撃から解放された多紀理は「あら、もうおしまいですの。つまらないですわ」と余裕の表情。
 けれども自分の周囲の景色が様変わりしていることに気がつくなり、すぐに笑みを消した。
 石畳が砕け、ひび割れ、崩れ、へこみ、ところどころが隆起さえしている。
 まっ平に整えられた舞台が半壊し、荒地のごとき様相。

 不利な状況?
 だったら自分に有利な状況へと変えるだけのこと。
 障害物や遮蔽物がなければ作ればいい。
 それが出灰桔梗が導き出した答え。

 自分で作り出した戦場に身を潜めた桔梗。己の得意とする戦い方を展開していく。
 もしもこのとき生じた遮蔽物の高さが、あと五センチほども高ければ勝敗の行方は変わっていたのかもしれない。

  ◇

 ただいま大会は中断している。
 つい先ほど終わった第一試合の大将戦にて、すっかりズタボロになった石舞台を整備するためだ。
 試合結果は一勝三分けにてチーム・四国連合の勝利。
 出灰桔梗の自分が得意とするバトルフィールドを己の手で産み出すという発想はよかったが、いかんせん破壊力が少々足りなかった。
 もしも芽衣やトラ美ぐらいの膂力があれば、彼女の持ち味がフルに発揮出来る環境を得られたのであろうが……。
 宙に浮き踏ん張りが効かない状態から放った九尾なる技。本来の威力の六割程度の出力に留まる。これにより誤算が生じる。
 想定していたよりも場が荒れなかった。
 桔梗は多紀理を遮蔽物や障害物を利用して攻め立てるも、地を這うような低い姿勢を余儀なくされる。これでは速さを維持し続けるのがムズカシイ。下半身にかかる負担が尋常ではなく、いかに鍛錬を重ねた身とて全力で動ける時間は限られていた。
 そして足が鈍った瞬間を多紀理は見逃さない。
 ほんのわずかにつんのめった桔梗。
 いっきに距離をつめる多紀理。

「屋島蓑山流四十八霊、人崩しっ!」

 相手の重心を崩し、狂わせ、不明とし、まともに動けなくする技。
 多紀理の手の動きに合わせて大気がふるえた。空気が渦を巻き収縮、歪む視界。
 わずかな床の傾き、トリックアートなどで活用される錯視、数多の錯覚……。目で見ていることが必ずしも正しいわけではない。
 現実と視覚や他の感覚との間に齟齬が生じたとき、脳は激しく混乱する。ときにはつじつま合わせにて己を誤魔化しさえもする。
 なれど鍛えあげた武人であれば、それはほんのつかのまのこと。
 けれどもまばたき数度の刻が勝敗を決するのもまた武の世界。
 気がついたとき、桔梗は天井の照明をぼんやりと眺めていた。手足はピクリとも動かない。どうやら投げられ、受け身もとれずに激しく背中から叩きつけられた模様。
 状況を理解した桔梗。自然とその口からもれたのは「参りました」という言葉であった。

  ◇

 試合に勝つと次はあんなおっかない屋島のタヌキどもの相手をするのか。
 だったらいっそのこと初戦敗退でもしちまったほうが、探偵本来の仕事が捗るような気がする。
 なんぞとおれがぼんやり考えていたら、トラブル勃発!
 発端は次のおれたちの試合。
 第二試合の対戦相手はチーム・海獣。
 こちらとしては対戦形式に勝ち抜き戦を申し出るつもりであったのだが、先鋒を誰が担当するのかで芽衣とトラ美が喧々。
 二人ともに修行を経てきており、その成果を試したくってしようがない。
 でもって桔梗の奮闘を目の当たりにして血がたぎる。うずうず、興奮が抑えきれない。

「わたしがやる!」
「いいや、あたいだ!」

 タヌキ娘とトラ女、双方一歩も引かず譲る気もさらさらなし。

「さっきからギャンギャンやかましい。どっちでもいいじゃん。おれにさえお鉢が回ってこなければそれで良し!」

 おれは身もふたもない本音をぶちまける。

「譲ったが最後、きっと回ってこないから問題なの」と芽衣。
「そうだ。目の前にエサをぶら下げられて、おあずけとか冗談じゃない」とトラ美。

 二人はおれとは逆に自分に出番が回ってこない可能性こそを問題視していた。

「ではいっそのことお二方で仲良く半分に分ければ」

 勝ち抜け形式にて前半と後半で交代すればいい。
 頼まれて参戦したものの、さほど戦闘行為に興味がない零号が無難な折衷案を提示。
 だがしかし……。

「そうなると今度は先に出たほうがわざと負けなくちゃならないじゃない」
「武人の矜持に反する。なにより相手に失礼だ」

 とたんに意見が一致しこちらに牙をむく。めんどうくさいタヌキとトラである。
 おかげでいつまでも話がまとまらない。そうこうしているうちに係の人が顔を見せて、はや舞台の準備が整ったとの報せが来てしまった。

  ◇

 広々とした円形の石舞台。
 さすがは直径五十メートルもあるだけのことはある。
 けれどもそこに立つハメになったおれはやや呆然。

「どうしてこんなことに……」

 舞台上にて敵味方がずらりと勢ぞろい。
 モメていたのはうちだけじゃなかった。チーム・海獣も似たり寄ったり。なまじ腕っぷし自慢が集まっているから、全員が全員「自分が一番強い」とうぬぼれている。
 そのせいで戦う順番がちっとも決まらない。

「やっぱり大将がえらいのだろう」
「えらいのならば強い者がなるべきだ」
「しかし大将になったらろくに戦えないぞ」
「そいつは困る。だからとて誰かの下につくなんて」

 意地が高じてついには取っ組み合いのケンカとなり、「上等だっ、まとめてかかってこいや!」となるまでにさして時間はかからなかった。
 チーム・海獣、まさかのバトルロイヤル形式を提示。
 これに「「のった!」」と芽衣とトラ美がパクっと喰いつく。
 もちろんおれは全力で阻止しようとした。
 けどダメだった。このバトルジャンキーどもめっ!
 かくして巻き込まれたおれは初戦から舞台にあがることに……。


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