おじろよんぱく、何者?

月芝

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298 獣王武闘会 第一試合 中編

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 第一試合の先鋒同士の戦いは時間いっぱいまでもつれ込み、結局勝負つかず。

「うーん、残念。攻めきれなかったわ」

 マイクを向けるインタビュアーを相手にして、首筋に浮かぶ珠の汗を拭いながら笑顔で答えた御天翠雨。
 そんな彼女だが三十分に渡ってずっと手を休めることがなかった。開始直後から終了までひたすら狐崑九尾羅刃拳、六尾、阿修羅を放ち続ける。かつて出灰桔梗と芽衣が戦った時、桔梗は五分強の間に千近くもの拳を放ったものだが……。
 アレを軽く凌駕する内容からも、御天翠雨の実力のいったんがうかがえるというもの。
 それをしのぎきった安房野弁天もまた見事!
 ではあるのだが、こちらはへたり込んでおり息も絶えだえ。疲労困憊にて当人も悔しげである。

「ちいとも技の勢いが落ちんきに。いなすだけで精一杯じゃった。くそっ、情けなか」

 結果こそは引き分けであるが、内容には雲泥の差がある。あと十分ほども戦いを続けていたらどちらが先に崩れていたのかは明々白々。
 それでも引き分けは引き分けである。
 観客からは両者の健闘を称える拍手が送られた。

  ◇

 続く次鋒戦。
 四国連合からはおじさんタヌキの香川重盛かがわしげもりが、裏千社はツンとしたクール系美女である御天三姉妹の次女、氷雨ひさめが登場。
 試合結果はこれまた引き分け。
 ただし内容は先鋒戦とは逆となる。
 白髪交じりの頭にて人畜無害っぽい中年男、香川重盛。体力こそは十代の安房野弁天におよばないものの、それを補ってあまりある経験値があった。
 なんといっても間合いの取り方が巧い。

「屋島蓑山流四十八霊、地崩し」

 相手の間合いを殺し、踏み込みを狂わせ、ときに踏ん張りをも無効とする技。
 動き自体はシンプルなもの。すり足にて前後左右斜めに移動するばかり。だがその描き出す軌道によって陣取りゲームを制せられた側は、本来の動きとはかけ離れた醜態をさらすことになる。
 拳を放とうとするも先んじて踏み込み先を奪われる。
 間合いを詰めようとしても、踏み出す場所がない。
 なればいったん仕切り直しをしようとしても、つかず離れず。
 ムリを通そうとすれば手痛いしっぺ返し。ようやく隙を見つけたと勇んでみれば、それは罠。

 まだ二十歳過ぎと若い御天氷雨は見た目通りにクールに対処し続けるも、香川重盛の老獪さはその上をいく。

「狐崑九尾羅刃拳、七尾」

 戦いのさなかに御天氷雨が放ったのは、右腕一本にて腰の入った下手突きの連打技。手数はぐんと減るものの、狙い鋭く威力も高い。間合いも通常の打撃より広い。
 グンとのびる槍の穂先のような攻撃。
 しかしそれすらも香川重盛は平然と対処。
 そこで御天氷雨は続けて「狐崑九尾羅刃拳、八尾」なる技へと移行。
 これは七尾の強化版にて左右の腕が襲いかかる。槍の二刀流とでもいおうか。
 だが有効打は入らず。御天氷雨はどうにか自分の陣地となる間合いを一時的に奪い返すので精一杯。
 一方で香川重盛は終始受けに徹し、自ら攻め込むことはなく、制限時間が来るのを待つばかりであった。

  ◇

 妙技の応酬にて白熱してはいるものの、引き分け続きにてすっきりしないまま中堅戦となる。
 四国連合からはおずおずとしたマジメそうなタヌキの若者。
 名前を戸佐森弓弦とさもりゆずるといい、チームリーダーである幼馴染みから強引に誘われての参戦。数合わせ要員ながらも実力はそこそこある。
 裏千社からはこれまたおずおずとしたマジメそうな娘。
 御天三姉妹の末っ子である時雨しぐれ。武才だけならば姉たちをもしのぐと師から云われているものの、いかんせん生来の気質が足を引っ張っている。心根やさしく、騒がしいのは苦手。そして彼女にはもうひとつ苦手なものが……。

「きゃっ」
「あっ、ご、ごめん」

 お色気の権化のような長姉の翠雨とはちがって異性に対して免疫がない時雨は、対戦相手が男というだけでビクビク。
 これには戸佐森弓弦もどうにもやりにくくてしようがない。なにせ彼の周囲にいる女たちときたらどいつもこいつもワガママ放題、やりたい放題だったから。
 自分がよく知っている女性像とはまるで真逆。女の子女の子している時雨の反応に戸惑いつつも、思春期真っ盛りの男子はドッキドキ。
 結果として舞台の上が何やら甘ったるい青春白書みたいになって、先鋒戦、次鋒戦で温まった熱がすっかり冷めてしまった。
 これまた引き分け。
 しかし自陣へと戻った二人を待っていたのは対照的な光景。
 デレデレ鼻の下をのばして戻った戸佐森弓弦は仲間から殴る蹴るでもって迎えられ、涙目で戻った御天時雨は姉たちから「時雨ちゃんはがんばったよ、えらいえらい」と熱い抱擁。
 これにはややシラケていた観客たちも、どっと笑ったり、ほっこりしたり。

  ◇

 四人組による団体戦につき、副将戦は飛ばして大将戦。
 これで決まらなければ両チームから代表を出してのサドンデスへと突入することになる。
 四国連合、大将は金髪縦ロールのお嬢さまタヌキ。

「オーッホッホッホッホッ」

 自信満々に胸をそらしつつ、斜め四十五度上空に顔を向けての高笑い。
 赤いバラとかが似合いそうな豪奢な美少女。
 彼女の名前は平多紀理たいらたぎり。三大化けタヌキの一雄である屋島太三郎狸の直系の娘である。


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