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290 オカルト自動運転システム
しおりを挟む猛スピードでいきなり突っ込んできたワゴン車。
前方をふさいでいたクルマに激突し、封鎖されていた道を強引にこじ開ける。巻き込まれて警備の者が二名ばかりはじき飛ばされ路上に転がった。
そんな無茶をすれば当然ながらワゴン車の方もただではすまない。
フロント部分はへこみ、右のサイドミラーがもげた。
だがハンドルを握る安倍野京香は気にしない。
「こいつはな。車中に若い女を引きずり込んでは、悪さを繰り返していたゲスどもを去勢してやったときにぶん捕った鹵獲品だ。被害者たちの怨念がたっぷりこもっていやがるから、簡単には止められねえぞ。せいぜい派手に暴れさせてやって、スカっと供養してやらんとな」
さらりとトンデモナイことを口走る不良刑事。
あと更生とか矯正じゃなくて、去勢?
それからいまさらだけど、とんだオカルトカーっ!
◇
ワゴン車あらためオカルトカー。
門扉に激突しこれを押し倒すようにして盛大に突破。
まじで女たちの怨念が乗り移っているのか? めちゃくちゃ当たりが強い。ふつうならばぶつかった衝撃で飛び出しそうなエアバックがピクリとも反応しないし。
レースの織物のように芸術性の高い鉄の門扉。その支柱部分がへし折れ、扉もぐしゃぐしゃ。
オカルトカーは門を超え、敷地内のアプローチ部分を突っ切る。玄関へと肉薄したところでキキーッとブレーキ音を鳴らし後輪を滑らせ、おもむろに直角に曲がって進路変更。
向かうのは芝生が青々としているひらけた前庭部分。
騒ぎを聞きつけて「なんだ!」「どうした?」とぞろぞろ集まってくる警備の者ども。
これを片っ端から跳ね飛ばしては人身事故を量産するワゴン車。オカルトカー大暴れ。
一方で運転席のカラス女はひび割れ邪魔になったフロントガラスを、銃のグリップの尻でガンガン叩き割り粉々に打ち砕く。
視界が良好となったところでトカレフ二刀流、左右でバンバン。銃器を携帯しているとおぼしきヤツを重点的に狙っては、すみやかに仕留めていく。
まるで映画のようなド派手なガンアクション。
女刑事、八面六臂の大活躍。
でも助手席にいるおっさん探偵はたまらない。耳をふさぎ頭をさげてひたすら嵐が過ぎるのを待つばかり。
だというのに後部座席にいる芽衣とミントちゃんは「かっこいい。わたしも撃ちたい」「いいぞ、もっとやれ」と囃し立てるものだから、カラス女が調子に乗って引き金がますます軽くなり、じゃんじゃんばりばり、カラの薬莢が足下に降り積もる。
………………うん。
って、ちょっと待て?
二丁拳銃、だと。
おれは遅まきながらあることに気がつく。
人の腕は二本しかない。左右に一丁ずつ握っていれば、当然ながら両手は埋まっている。
だとしたらさっきからバンバンしまくっているカラス女は、いったいどうやってハンドルを操っているのか。
足? それともちょっとお行儀が悪いけど、肘をついているとか……。
頭を下げた状態のまま首をわずかに動かし横をちらり、運転席に目をやったおれはサッとすぐに顔を伏せた。
ハンドルが勝手に動いていやがった。
いや、より正しくは運転席の下の暗がりからのびている、細くて青白い腕が器用にクイクイっと操作していた。
怨念がすぐそこにおんねん。
オカルト自動運転システムが起動している。
「ちくしょう。ガチもんのオカルトカーじゃねえか。なんてモノを持ち出しやがるっ!」
おれは頭を抱えずにはいられない。
女どもはまだいいさ。けどおれはいちおう男だぞ。
祟られたらどうしてくれんだよ!
◇
外回りにいた連中をあらかたぶちのめしたところで、ようやくオカルトカーは玄関脇へと停車。
ふらふらした足どりにて車外へと降りたところ、こちらにバウバウと吠えながら駆け寄ってくるのはドーベルマンたち。その数七頭。
暴れ回るオカルトカーからはキャンキャン逃げ惑っていたくせして、止まったとたんに襲いかかってきやがった。それも一番弱そうなおっさんに狙いを定めて。
おれは「ばか、ヤメロ!」と声をかけるもなしのつぶて。言葉がまるで通じない。
連中の目を見てすぐに交渉は不可能だとおれは悟る。感情の色が浮かんでいない。
産まれてからずっと人間に育てられて過ごし、がっちり訓練を受けた連中特有の暗い瞳をしていたからだ。
教育という名の洗脳。
こいつをみっちり施された動物に自我はない。人間の命じるままに動くだけ。根底にあるのは使役する者とされる者という絶対の上下関係のみ。ペットと飼い主のような愛情もなければ、狩人と猟犬のような絆もない。
こうなると姿形こそは同じでも、中身はもはやおれたちがよく知るイヌとは完全に別の生き物。
「とはいえさすがに殺すのはしのびない。変化っ」
おれがドロンと化けたのは金糸が織り込まれた丈夫な投網。
襲ってきたドーベルマンたちをばさりと一網打尽とし、ついでに自家発電にて電気ショックによる追撃! ビリビリビリビリ。
ピクピク、仲良く舌を出してのびているドーベルマンたち。
これでしばらくはおとなしくなるだろう。出力は抑えたから命に別状はないはずだ。
外の制圧完了。
おれたちはいよいよ屋敷内部へと乗り込む。
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