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271 海洋ファイト!四十五分一本勝負
しおりを挟む明石焼きを食べ終えて店を出たら、ほんのり視界にモヤがかかっていた。潮風に乗って漂ってくる。どうやら海の方で霧が発生している模様。
なんとなくイヤな予感を抱きながら船着き場へ。
チケットを購入しようと受付に声をかけたら案の定だ。おばちゃんから「しばらく運休だよ」と告げられた。
でもって、ちょいちょい手招きされたもので耳を近づける。おばちゃんがこっそり教えてくれた。
「兄さんたち、ご同輩だろう? だったら教えてあげる。なぁに心配はいらないよ。いつものアレさ。八津神と鯛魔神の四十五分一本勝負」
この海域には古くから主と呼ばれる巨大海洋生物が生息している。
明石海峡大橋より西は播磨灘の奥底にて蠢く、八津神さま。
数多の船乗りたちを震撼させてきたバカでかいオオダコ。足の一本の直径が二メートルほどもあり、吸盤はマンホールのフタよりもなお大きい。西洋ではクラーケンと呼ばれるバケモノ。だがいちおうは海洋生物の範疇に含まれているらしい。
明石海峡大橋より東は大阪湾の西部域を根城とする、半魚巨人・鯛魔神。
山の巨人ダイダラボッチとかは有名だが、比べて海の巨人の知名度はいまいち。ましてやタイの魚体にムキムキの手足が生えているとなれば、きっとウィキペディアにも載ってない。
不可解かつ理不尽な容姿からして、こちらはたぶん妖の仲間かと思われる。
だが誰も関わり合いになりたくないのでちゃんと調べたことがないから詳細は不明。
八津神と鯛魔神。
かつてはしょっちゅう丁々発止をやらかしていたものだが、大橋が出来て以降はその回数がめっきり減った。
どうやら橋が境界線の役割を果たし、いい感じで住みわけが発生したおかげらしい。
そうそう。明石海峡大橋なのだが、一説ではこの二大海洋生物の争いに巻き込まれても耐えうるようにと強度設計がなされているとかいないとか。おかげで大地震がきてもビクともしない。
で、話を戻すがこの二大海洋生物たち。
海流に身をゆだねてフラフラ漂っていると、年に何度か接近することがある。
とたんに海域に濃霧が垂れ込めカーンとゴングが鳴り、四十五分一本勝負がスタート。
こうなるともう誰にも止められない。
すべての船はただちに運行を停止して、騒ぎが収まるのを待つしかない。
唯一の救いは毎度の争いが、まるで計ったかのようにきっかり四十五分で終わること。
濃霧が晴れて、波が収まるのも待たなければならないので、正味一時間半ほどの足止めを喰らうことになる。
◇
ただぼーっと待っているのも芸がない。
腹ごなしにいっちょ戦いを見物に行くか。
おれと芽衣は最寄りの高台……はなかったので、海沿いにあるいい具合の高層マンションへ。
目当てのマンションはオートロックにて部外者の立ち入りお断り。
けれども蛇の道はヘビにて、探偵さんにはこの手のガードなんてたいした障害にはならない。
ドロンと化け術にてカギ爪のついたロープに変身。芽衣がこれを外の非常階段の柵へと向けて「ていや」と投げる。あとはササッと不法侵入して階段をそそくさ、上へ上へとのぼるばかり。
あっというまに屋上に到着。
ここから文字通りの高みの見物としゃれこむ。
とはいえ濃霧のせいでろくすっぽ見えやしないけど。
霧の向こうで薄っすら、巨大な影が暴れているらしき姿がほんのり映っている。
「うーん、もうちょっとはっきり見えるといいんですけど」
不満を口にする芽衣。
「なんちゃらスクリーンみたいに強力なライトとかで照らしたら、影絵みたいに浮かびあがるかもな」
タバコをくわえながらおれは適当を言った。
すると芽衣が「やってみましょう!」とその気になる。
せがまれるままにおれはふたたび変化、ドロンと投光器になった。
電源とか細かいことは気にしない。ここだけの話、男には誰しも自家発電機能が備わっているのだ。タヌキの悶々パワーには遠くおよばないものの、ちょっと灯りを点けるぐらいならば造作ない。
準備が整ったところで、霧の彼方に向けてビカッと照射。
夜の灯台のごとき極太な光の柱が霧の奥へと突き刺さる。
浮かび上がるは巨大な二つの影と、ギラリとこちらをにらむ大きな目。
その数、三っ!
黄金色の地に黒の横棒が入ったような二つの瞳。
これはおそらくオオダコ・八津神さまのものだろう。
だとすれば残りのひとつ。ぱっちりまん丸お目め。少し淀んだ水晶の中に黒い穴をあけたような瞳は鯛魔神のもの。片方しか見えていないのは平べったい魚体の構造上の問題。
三つの瞳が一斉にこちらをぎょろり。
目は口ほどに物を云うとはどこの誰が言い出したことか。
それはどうやらバケモノ相手でも通用するらしい。瞳にありありと浮かんでいたのは不快げなご様子。勝負に水をさされてご立腹っぽい。
ばっちり目があった芽衣とおれはギョギョギョッ!
「なぁ、芽衣さんや」
「なんですか、四伯おじさん」
「おまえ、あいつらをどうにかできそうか?」
「ムリ」芽衣、即答。
「そうか、わかった。なら……」
あわてて変化を解いて光源を消し、探偵と助手はその場から逃げ出す。
だってあんなバケモノ同士の場外乱闘に巻き込まれたらたまらないもの。
こけつまろびつ。非常階段を駆けおりたおれたち。そのままマンションを離れる。
ある程度、距離をとったところでふり返ったらマンションが巨大海洋生物たちに襲われて……。
なんてことはなかった。
どうやら見逃してくれたらしい。
ふぅ、危うく怪獣映画の登場人物、しかも早々に犠牲になるモブ役になるところだったぜ。
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