おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
267 / 1,029

267 判決

しおりを挟む
 
 いきなり「おまえ死刑」とか言われたら、誰だって文句のひとつもわめきたくなるもの。
 だからおれたちはこぞって大ブーイング。

「納得いかねえーっ! むしろこっちは被害者だぞ、こらっ!」

 ことの発端はやたらと自惚れ屋のホワイトタイガー姫路白峰が、一方的に弧斗羅美に懸想したあげくに、穏便にお断りしたいからと恋人役を頼まれたおれに難癖をつけ、嫉妬のあまり憎い恋敵を拉致するという暴挙におよんだせい。
 ぶっちゃけ慰謝料、もしくは口止め料を請求したいぐらいだ。

「ケンカ両成敗が天下の法のはず。だったら銀色の夜明け団や守備隊の面々も全員まとめて獄門首にすべし」

 芽衣がむちゃくちゃを言っている。
 死なばもろともとか、それ以前に極刑の判決そのものがおかしいというのに。噛みつくところが致命的にズレているうちのタヌキ娘。

「まさか身内可愛さにすべての罪をこっちにおっかぶせるつもりかい? はんっ! そっちがその気なら、こっちにだって考えがある」

 啖呵を切った弧斗羅美。言うなり金色の瞳が爛と光り、両の拳よりトラの鋭い白爪をジャキンと生やす。
 滅爛虎慄紅武爪術、一の段、徒花あだばな
 両手足よりツメのみを獣人化して武器とする技。

 法廷で得物を抜いたもので、佐藤晋太郎をはじめとする周囲の警備員たちもすぐさま臨戦態勢となる。
 たちまち空気がピリピリ。
 現場が一触即発となる中、ふたたび「カンカンカン」と木製のハンマーを激しく打ち鳴らしたのは裁判官・志筑蘭。
 イーグル老女史が「一同静粛に」と一喝。「まだ話は終わっていません。最後まで聞くように」

 で、またしても最高判事である北大樋炭五郎の呪文が「ふがふがふがふーが、さーが、れじぇんど、ぷれみあむ、たんたんめんはのどにくる、かるるす……」と始まった。
 これには殺気立っていた面々もすっかりやる気を削がれてしまう。
 うーん。なんてすごい呪文なんだろう。
 催眠効果だけでなく猛るトラの戦意まで喪失させるだなんて。

 やがて呪文から補佐役の草加道子の超翻訳へ。

「えー、本来であれば極刑もしくはゲート・アンダーセブンの修繕費用三億円を請求するところではあるが、情状酌量の余地もあるからして、特別にボランティアに従事することで相殺とする」

 とどのつまりはかんべんしてやるから、その分タダ働きをしろということ。
 この時点で、おれは首をひねる。
 ずいぶんと持って回った物言い。言いがかりにも等しい。極刑だの罰金だのを盾に取って、いったいおれたちに何をさせたいのか。
 何やら事情があるみたいだが、それならそれで素直に依頼してくれたらいいのに。
 ここでおれは「ハイッ」と挙手。
 発言の許しをもらって疑問を口にする。

「判決内容はわかりましたけど。肝心のボランティアとはいったい……」

 するとこれまでごにょごにょ、通訳を介さねばろくすっぽ聞き取れなかった最高判事が、いきなり声を張り上げてはっきりこう言った。

「その方らが獣王武闘会の西国予選に出場することである」

  ◇

 獣王武闘会。
 それはケモノたちの、ケモノたちによる、ケモノたちのためだけ武の祭典。
 腕に覚えありの猛者どもが集い、磨きあげた武芸を存分に披露し競い合う。老若男女、無手得手が入り乱れて戦う。
 なお今大会は四人一組の団体戦。東西にて予選トーナメントを行い、双方の優勝チームによって最強を決定する。
 諸事情によって前回大会より長らく中断されていたが、ひさしぶりに開催されることになった。
 なお西国予選を執り仕切るのは姫路アニマルキングダム。会場も当園内に設置される予定になっている。

 そういった大会がかつてあったことはおれも知っていた。
 前回優勝者にも心当たりがある。
 芽衣の祖母である葵のばあさんだ。
 でもって、長らく中断されていた原因もたぶん葵のばあさんのせいだろう。

 切った張ったの逸話は数知れず。生きる武神伝説。蒼雷との異名を持つ洲本葵。
 お肌ぴっちぴち全盛期の頃。出場した大会でオールストレートの一本勝ちを決め、試合に興奮して「おれもまぜろ」と乱入してきた豪州牛巨人をも単身でボコって退ける。あまりの強さに震えあがった東国のチャンピオンが雲隠れしてしまった。
 おかげで賭場は大荒れ。大会運営側や胴元は破産に追い込まれて、ちりゴミと化したハズレ賭け札が紙吹雪となり、関わった面々はみな散々な目にあったらしい。
 あまりの大惨事ゆえに、以来だれも大会を主催することに名乗りをあげず、それっきりとなっていたはず……。

 そんないわくつきの大会が復活する。
 まぁ、それはべつにかまわない。もともと動物たちはお祭りが大好きだ。熱しやすくて冷めやすい。その場しのぎの刹那的な生き方にて、踊る阿呆に見る阿呆。
 だが、それに参加しろという意味がわからない。
 どうしておれたちを巻き込む。
 なんだ? いったい何をたくらんでいやがる。

 知らず知らずのうちにシリアス顔。
 おれは眉間にシワを寄せて裁判官たちをにらんでいた。
 すると補佐役の草加道子がやや頭を下げる。

「特に深い意味はありません。しいて理由をあげれば『枠が余っていたから』としか」

 大会出場枠は八チーム。
 現在、すでに七チームまでは決定しているが、残り一チームがなかなか。
 最悪、一チームだけシードあつかいでお茶をにごそうかと考えていたところに飛び込んで来たのが、トラとタヌキとよくわからない珍動物ご一行。
 おっさんはアレだが残り二人の実力は申し分なし。
 畿内では名の通っている荒事師と伝説の継承者となれば、大会を盛り上げる話題になるだろうから、むしろウエルカム。
 だがやはり解せぬ。

「芽衣とトラ美はともかくとして、どうしておれまで?」

 だっておれは武闘派じゃなくて頭脳派探偵。
 不意をつかれたらジャッカルの若者たちにすらあっさり拉致られる、か弱いおっさん。
 そんなおっさんに戦いの舞台にあがれとか、あんまりにもご無体な。
 えっ、数合わせにつきたいして期待はしてない。
 せいぜい得意の化け術で舞台を盛り上げて欲しいと。
 はぁ、さようで……。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】 少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。 次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。 姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。 笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。 なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

処理中です...