おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
266 / 1,029

266 査問会

しおりを挟む
 
 被告人席におれこと尾白四伯、タヌキ娘の洲本芽衣、トラ女の弧斗羅美の三名が並んで立たされる。
 その周囲をゴリラ男の佐藤晋太郎をはじめとする警備員たちがずらりとかこむ。「もしも怪しい動きをしたら即座に取り押さえる」と言われている。

 これから始まる裁判ゴッコにおれが内心ドキドキしていたら、奥の扉がギィイィィィと開いた。
 重々しい扉の向こうから姿をみせたのは黒い法服姿。
 本日の法廷を執り仕切る三名の裁判官たちとその補佐役が一名。

 ゆでタマゴのごとく脳天がつるりと見事にハゲあがっており、眉毛も長いアゴひげも耳毛も真っ白。サンタクロースを日干しにしたようなヨボヨボ。腰が斜め四十五度に曲がったじいさん。
 彼こそが最高判事・北大樋炭五郎きたおおひたんごろう
 姫路アニマルキングダムの生き字引にして、数多の難題を裁いてきた御仁。その正体はモグラである。

「えっ、モグラ? だったら目がろくに見えてないんじゃないのか」

 地中に暮らすモグラといえば目が悪い動物の代名詞みたいなもの。
 おれが「大丈夫なのかよ」と心配していたら、ぼそりと背後の佐藤。

「問題ない。あの方は心眼の達人だ」

 心眼。
 それは物事の真実の姿を見抜くココロの目のこと。
 古来より数多の武辺者たちが、その眼力を得ようと四苦八苦してきた。
 そんな伝説級のシロモノを身につけているというのだから、このじいさん、只者じゃない。

 北大樋炭五郎の両脇にいるのもまた老境に差し掛かっているであろう人物たち。
 右隣りにいるのはやたらと目つきがキツイ老婆。
 裁判官・志筑蘭しづきらん
 姫路アニマルキングダム随一のインテリ女史で、次期最高判事との呼び声も高い。その正体はイーグル。
 古代ローマの皇帝が紋章とし、以降数多の帝国が旗印として取り入れ、現代でも大国の国章に用いられている大鷲。天空の覇者ならば、しゅっとした凛々しい立ち姿も納得。なにげに名前も舞台役者みたいで格好いい。粋でいなせな老女である。
 左隣りにいるのは対照的にほんわかした雰囲気の初老。
 裁判官・多田康夫おおたやすお
 人のよさが全身からにじみでており、年功序列にて自然といまの地位についたっぽいけど、じつは……。
 なんて勘繰りたくなるほどに影がないのがかえって不気味かも。そんな彼の正体はフクロウ。

 猛禽類に挟まれているモグラ。
 なかなかにシュールな光景。
 だがそれよりもおれの目を惹いたのは、最高判事のモグラの背後にて、ややうつむき加減で静かに控えている人物。
 パッと見にはどこにでもいそうな事務員のおばちゃん。体型はほどよくだらしない寸胴。
 補佐役・草加道子くさかみちこ
 ご高齢にてあちこちガタがきている北大樋炭五郎につねに寄り添い、これをよく支える女性。しかしそれだけではない。
 もしも法廷にて目に余る不埒な言動、乱暴狼藉におよぶ者あらば、たちまちゲンコツを落として黙らせるという。そんな彼女の正体はサイ。
 ことあるごとにガンガン頭をぶつけ合っては決着をつけようとする、頭突き自慢のヤギやウシどもすらが一発で轟沈するという鉄拳とオカン気質の持ち主。

「最強裏番長説がつねにつきまとう方だ」

 チラチラおれが彼女を気にしていたら、佐藤晋太郎から「ゆめゆめ失礼のないように」と注意を受けた。
 おれはコクコク素直にうなづく。

  ◇

「むにゃむにゃ、ぼそぼそ、はらひれ、うんじゃかもんじゃか、はむはむ、むーんりばー、えろいむえろいむえろえろ、やくるとちっちゃい、むーんらいとちょっとたかい、べぎらま、ばぎらごん、たぴおかまじぃ、ぱんけーきたよりない、だいたいよのなかぽんぽこぴ、ふがふが……」

 長い。
 さっきから怪しげな呪文を延々と口にしているのは最高判事・北大樋炭五郎。
 とにかく声が小さい。活舌もひどい。どうやらご老体は入れ歯を忘れたらしい。
 おかげでさっきから何を言っているのかさっぱりだ。
 おれは芽衣とトラ美に「わかるか?」と目配せするも二人は首を横に振る。
 困惑しているうちにようやくナゾの呪文が終了。
 するとモグラの爺さまの背後に控えていた補佐役の草加道子が「では開廷します」と通訳した。
 ギュギュっと濃縮要約。
 これを前にしておれたちは声をあげずにはいられない。

「みじかっ!」
「はしょりすぎっ!」
「いくらなんでもソレはない!」

 超翻訳に三人で一斉にツッコんだとたん、「カンカンカン」
 木製のハンマーを打ち鳴らしたは志筑蘭。
 ギンっとこちらを鬼のひとにらみ。

「静粛に。被告人は勝手な発言を慎むよう」

 理不尽な厳重注意を受けて、おれたちはふくれっ面となる。
 ちなみにあの木槌の正式名称は「ガベル」という。

  ◇

 モグラ最高判事が延々と呪文を唱え、サイの補佐役が詠唱を短縮しだいたん意訳、ときおりワシの裁判官が弁舌鋭くまともなことを言ったと思ったら、これを「まあまあ」とフクロウの裁判官がなだめる。
 終始、こんな感じで進行していく査問会。

「ねえ、四伯おじさん。なんだかドラマで見たのとずいぶんちがうんですけど」
「そりゃあ、あれはドラマだからな。かといってこれが真実だとは、おれにはとても思えんが」
「あたいも査問会なんて受けるのははじめてだからなんとも。ひょっとしたらこれが本当の姿なのかもしれないよ」

 おれと芽衣とトラ美は「なにやら怪しい」「うそくせえ」とヒソヒソ。懐疑心を募らせるばかり。
 そんなおれたちをほぼほぼほったらかして審議は着々と進む。
 で、いきなり補佐役兼通訳の草加道子から告げられたのは「よって極刑に処す」という判決だった。
 想像の斜め上を突き抜けるあまりの超展開。
 おれたちはそろってあんぐり。
 開いた口がふさがらない。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】 少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。 次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。 姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。 笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。 なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

処理中です...