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265 世界一周旅行
しおりを挟むアンパンをかじりながら「芽衣はどんな風にやられたんだ?」と不躾な質問をする。
するとムスっと不機嫌面にて同じくアンパンをかじっていた芽衣は「バナナをくれたら教えてあげる」と言った。
厨房で料理人たちが悲鳴をあげるぐらい大量の中華料理をしこたま喰ったくせに、もう食欲が復活している。ひょっとしたらタヌキ娘の胃袋は異次元にでもつながっているのかもしれない。
えっ、戦うとお腹がとっても減る?
あー、はいはい。まぁ、そういうことにしておいてやるよ。
昨日の酒が残っているおれは痛むこめかみを指でぐりぐりしながら「ほらよ」と要望どおりにくれてやる。
ひったくるようにしてバナナを受け取った芽衣は、皮をむきむき。
「あいつ、ヒドイんだから。立ったまま気を失っている自分の仲間を利用したの」
弁慶の立ち往生のごとき田中仁蔵。
だが芽衣もけっこうボコられてヘロヘロ。勝ったというよりも勝ちを譲られたみたいな戦いの内容に、いくぶんココロも動揺していたのだろう。
そこにどこからともなくあらわれた黒い疾風。
いきなり一撃を見舞ったのは田中仁蔵の膝の裏。
硬直状態のところで膝カックンをされて、ぐらり巨漢がかたむき倒れる。
これにあわてたのは芽衣。ただの転倒とて意識のあるなしでは危険度がまるで異なる。ましてやゾウ男は超重量級。自身の重さがそのままダメージとなって跳ね返りかねない。へんな倒れ方をしたら大きなケガを負うことも。
だからとっさに支えようとした。
が、芽衣が自身をつっかえ棒としてどうにかしようとした矢先のこと。
両腕がふさがったところを、背後から後頭部をガツンと一撃。
「まったく、首がもげるかと思ったよ」
ぷりぷり怒りながら、バナナをパクつく女子高生。モグモグ。
いっしょに話を聞いていたトラ美も苦笑いし、自分のバナナを芽衣に差し出す。
「そいつはたしかにヒドイな」
一方でおれは戦慄を禁じ得ない。
トラ美と芽衣の二人から話を聞いた限りでは、あの佐藤晋太郎とかいう男……。どうやら結果のみを重視するタイプのようだ。
勝ち方とか、武人の矜持などというものは二の次。
ヤツにとっては姫路アニマルキングダムの治安維持こそが第一にて、それを乱す者あらば情け容赦なく、すみやかに狩るのみ。
氷の拳を持つゴリラ拳闘士。おそろしい相手だ。
◇
そんなおっかない佐藤晋太郎が複数の部下を連れて登場。「出ろ」と命じる。
言われるままに従うおれたち。いざともなれば適当な乗り物に変化して二人を逃がすつもりだが、ここはおとなしく従っておく。
拘束こそされていないが前後をがっちり人員に固められて、案内されたのはサファリパーク敷地内は北方面の山間部。
こちらは隣接するテーマパークエリアとなっており、世界中の名所旧跡を模した十分の一スケールの展示物が居並ぶ。
ピサの斜塔、凱旋門にエッフェル塔、万里の長城、ピラミッド、姫路城、タージマハル、大きな時計塔のビッグベン、ノイシュヴァンシュタイン城、ベルサイユ宮殿、マチュピチュ、紫禁城に兵馬俑、パルテノン神殿などなど……。
テーマパークのコンセプトは「手軽に世界一周旅行」というもの。
あいにくとおれは現地に行ったことがないので、実物と比べてどれほどのシロモノなのかはわからない。それでも「へー」「ほー」三人ともに感心しつつキョロキョロ。
「ねえねえ、四伯おじさん」
「なんだよ? 芽衣」
「すぐそばに本物があるのに、どうしてアレを造ったんでしょう」
芽衣がふしぎがっているのは姫路城のこと。
言われてみればたしかにいらない子のような気がしなくもない。
トラ美も「はて?」と首をかしげる。
すると一同を先導している佐藤晋太郎がぼそり。
「テーマパーク建造当時、予算に余裕があったからだ」
いまとはちがって当時はイケイケどんどん。
ケチ臭く予算を余らすぐらいならば、景気よく使い切ることこそが美徳。
そんな夢のような時代の象徴があの姫路城十分の一モデル。
これを横目に歩きつつ、ようやく立ち止まったのはピラミッドの前。
十分の一とはいえ、元が世界屈指の巨大建造物とあってそこそこデカい。ちょっとした丘ほどもある。
自由に石段をのぼれて、裏にあるロング滑り台からシャーッと下りられるとか。子どもならば「ひゃっほう」と小躍りする造りのピラミッド。大人のおれでも「ちょっとやってみようかな」と思ってしまう魅惑のスポット。ふだんは親子連れでにぎわっているそうな。
そんなピラミッドの表面に佐藤晋太郎が触れたとたんに、ガコンと音がして入り口が出現する。
狭く暗い通路を進んだ先、内部は半地下の構造になっており、ドラマとかでよく見かける法廷のような空間があった。
「……のような、ではない。ここは姫路アニマルキングダムの法廷だ。これより昨夜の騒動についての査問会が開かれる。下手な誤魔化しなどせずに、ウソ偽りなく応じることだ」
佐藤晋太郎から査問会にかけられる旨を告げられて、おれと芽衣とトラ美の三人は顔を見合わせる。
まいったな。こいつはめんどうなことになりそうだぜ。
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第六章 西校舎攻略編←今ココ
第七章 リュービ会長編
第八章 最終章
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※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。
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