おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
245 / 1,029

245 愛と食欲の戦場

しおりを挟む
 
 あちこちでイヌとネコの騎馬同士がぶつかり、熱戦をくり広げている。
 混戦となりつつある合戦模様。
 この状況からいち早く突出したのは芽衣が駆る騎馬。

「カニ、ホタテ、イクラ、うに、ジンギスカン、味噌ラーメン、スープカレー、具だくさんの三平汁、とろ~り熱々チーズを肉や野菜にのせて食べるラクレット、新鮮な牛乳で作ったソフトクリーム、フレッシュなチーズで作ったレアチーズケーキや濃厚フロマージュ、ホワイトチョコ、バウムクーヘン、ジャガイモのいももち、じゃがバター、バターアメ……」

 紅組の大将首を獲ると特別賞の「豪華北海道旅行五泊六日」が授与される。
 すっかり食欲に目がくらんだタヌキ娘。北海道に行ったら食べたい物を次々と列挙しては、騎馬役のネコたちの頭の毛をぶちりぶちり。「やれ行け、そら行け、とっとと足を動かせ」と脅し突撃を敢行。

「うにゃーん、ハゲるにゃん。十円ハゲができるにゃん」
「やめるにゃん、ご無体だにゃん」
「あーっ、ヒゲはダメにゃん! 耳もイヤー!」

 恐怖に支配された騎馬役のネコたち、すっかり涙目。芽衣に命じられるがままに突き進む。
 しかしこれを自由にさせるほど紅組陣営も腑抜けてはいない。

「やあやあ、我こそは下田部町は三丁目にその者ありといわれる、山田サブローである。いざ尋常に……ぎゃっ」

 進路上に立ちふさがって一騎討ちを申し込もうとした山田さん家のサブローくん(雑種犬)。哀れ、名乗りが終わる前にタヌキ娘のラリアットにて首を狩られた。
 なんという悪逆非道。
 だがこの心無い行為がイヌたちをより発奮させることになる。

「戦の流儀も解さぬ無作法な小娘を許すな」

 紅組のイヌたち大興奮。「わおーん」と遠吠えにて、一斉にタヌキ娘に群がる。
 すると自分たちの大将がピンチだと察した白組のネコたちも「させるかにゃあー」と集団で突っ込んでくるから、たちまちしっちゃかめっちゃか。
 しまいにはどちらもハチマキそっちのけ。殴る蹴るひっかくガブリ甘噛み、乱闘状態に。

 喧騒にまぎれてこそこそ離脱するのは、赤いカブトをかぶったおれを乗せている騎馬。
 とてもではないが付き合ってはいられない。しかも白組の大将首を挙げたら貰える特別賞が「犬用ハミガキガム一年分」とかわけがわからない景品ならば、なおさらだ。
 よってここは逃げの一手あるのみ。
 素知らぬ顔にてしれーっと遠ざかっていく。
 けれども逃げた先ではべつの問題が発生していた。

  ◇

 向かい合ったまま微動だにしない二つの小集団。
 周囲の騒ぎをよそにしーんと静まり返っている。
 てっきりにらみ合って牽制でもしているのかとおもえば、さにあらず。
 動かないのではない。動けない。
 というか、これは戸惑っている?
 なにせ双方の集団を率いている山里露実雄と網浜樹理衛が、じーっと見つめ合ったままなのだから。

 黒の柴犬である山里露実雄。その鼻がてらてら濡れていた。
 斑猫である網浜樹理衛。その青銅色の瞳がウルウル潤んでいた。

「僕を倒して手柄にするといい。樹理衛に倒されるのならばむしろ本望だ」
「そんなこと……出来やしないよ。あぁ、どうしてあなたは山里家の露実雄なんだろう」
「キミこそどうして網浜家の樹理衛なんだ」

 柴犬と斑猫。二匹の意味深で不可解なやりとりに、おれが「なんのこっちゃい?」と首をかしげていたら、騎馬役兼お世話役のダルメシアンがこそっと教えてくれた。

「あっちゃあー、やっぱりあのウワサは本当だったかワン。じつはあの二人、前々から怪しいんじゃないかとささやかれていたんだワン」

 高月イヌ会の重鎮である山里家。
 高月ネコ会の重鎮である網浜家。
 両家ともに名門。
 関係上、顔を合わせる機会が多かった露実雄と樹理衛は幼馴染みのようなもの。
 これだけならば種族を超えた友情物語ですんだのだが、いつしか……。

「なるほどねえ。友情物語が愛情物語にかわったと。しかも性別まで超えて」
「まぁ、そういうことなんですけど。困ったことにそれだけじゃないんだワン」

 家柄、種族、性別、この三つだけでもけっこうてんこ盛り。
 だというのに、まだ何かあるというダルメシアンの思わせぶりな口ぶり。
 その理由はすぐにわかった。

「ちょっと、あんたたち、何をグズグズしているのよ! どいつもこいつもぼんやりして、せっかくのチャンスなのに」

 周囲を焚きつけ吠えている勝ち気そうなお嬢さん。黒と灰のトラ縞の牝ネコ。
 両耳をピンと立てた彼女こそが親が決めた樹理衛の許婚にして、名前を田畑董たばたかおるという。
 ここにきて、よもやの許婚の登場。

「おいおい三角関係かよ。ドロドロじゃねえか」

 男男女という奇妙な組み合わせ。
 この展開に目を見張るおれに、お世話役のダルメシアンが「いえ、それがちょっとちがうんだワン」と頬をぽりぽり。
 その言葉の意味もすぐに判明する。

「あなたたち、これはいったいどうしたというのですか? まだ競技中ですよ」

 よく通る落ちつきのある声。姿をみせたのは牝の柴犬。
 彼女こそが親が決めた露実雄の許婚にして、名前を一橋倫子ひとつばしりんこという。いかにもクラス委員とか、クラブの部長とかが似合いそうなしっかり者の雰囲気。
 ここにきてさらなる関係者の登場。
 おれは目をぱちくり。

「まさかの四角関係っ!」

 ドロドロどころかドロ沼の底があるのかも怪しい。歪な愛の底なし沼状態。
 他人の色恋になんぞにはかかわるものじゃない。
 それがより複雑でややこしいモノならばなおさらだ。
 だからこそ周囲の誰もが動こうとはしなかったんだ。
 くっ、これはうかつに動けない。
 うっかり巻き込まれたら、どんなとばっちりを受けることやら。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

稲荷狐の育て方

ススキ荻経
キャラ文芸
狐坂恭は、極度の人見知りで動物好き。 それゆえ、恭は大学院の博士課程に進学し、動物の研究を続けるつもりでいたが、家庭の事情で大学に残ることができなくなってしまう。 おまけに、絶望的なコミュニケーション能力の低さが仇となり、ことごとく就活に失敗し、就職浪人に突入してしまった。 そんなおり、ふらりと立ち寄った京都の船岡山にて、恭は稲荷狐の祖である「船岡山の霊狐」に出会う。 そこで、霊狐から「みなしごになった稲荷狐の里親になってほしい」と頼まれた恭は、半ば強制的に、四匹の稲荷狐の子を押しつけられることに。 無力な子狐たちを見捨てることもできず、親代わりを務めようと奮闘する恭だったが、未知の霊獣を育てるのはそう簡単ではなく……。 京を舞台に繰り広げられる本格狐物語、ここに開幕! エブリスタでも公開しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...