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231 悪魔のサラダ油セット
しおりを挟む「それでは皆様ご唱和下さい。『イエスメイド、ノータッチ』、さん、はいっ」
天高く拳を突きあげ司会者のオバちゃんが威勢よく叫ぶ。
その声に応じて会場中のそこかしこから雄々しい復唱が起こる。
意味がわかっている者もわかっていない者も、ノリノリで「えいえいおー」といった感じでマネをする。
「イエスメイド、ノータッチ」「イエスメイド、ノータッチ」「イエスメイド、ノータッチ」
ロックフェスタばりのどんちゃん騒ぎ。
舞台袖から眺めつつ、おれはほっと胸を撫で下ろす。
みんな楽しそうでなにより。
高月城北・中央商店街を騒がせたメイド騒動問題。
解決の一助となればと立ち上げた企画ではあったが、この様子ならば悪いようにはならないだろう。もっとも根本的な解決にもならないだろうけど……。
初代王者に輝いたのは宇陀小路瑪瑙。
第三ガチャ競技・メイド徒競走は零号が首位。これに瑪瑙とティナ嬢の順に続く。
なお瑪瑙とティナ嬢はゴールこそ同着ではあったが、運んだティーカップの中身の量が二人の勝敗を分けることになった。
かくして『メイド王決定戦!』の全競技が終了。
最終成績は以下の通り。
宇陀小路瑪瑙、一勝一敗一分け。
零号、一勝一敗一分け。
梁山泊、三敗。
よもやの同率首位。
こうなったら延長戦に突入して、とことん白黒をつけさせてやる!
と意気込みたいところではあったが、あいにく予算と時間の都合がちょっと。いわゆる大人の事情というやつである。
それにただでさえ押しているタイムスケジュール。「むしろじゃんじゃん巻いてくれ」と祭の進行担当から泣きつかれた。
悩んだ末に運営側は判断を観客に委ねることにする。
司会のオバちゃんに「どっちがメイド王にふさわしいでしょうか?」と客席に問いかけさせて、拍手の多い方を優勝とした。
観客参加型といえば聞こえはいいが、ようは責任転嫁である。
本当は審査員たちに協議してもらってビシっと決めるのが筋なれど、「それはちょっと……」「さすがにそこまではめんどうみきれない」「伝手で頼まれて引き受けただけだし」「あくまで教頭先生の代理ですから」と断られたのだからしようがない。
でもって不特定多数の支持を集めたのが宇陀小路瑪瑙であった。
まぁ、そりゃあそうだろう。
誰だってロケットパンチで拝殿の屋根を吹き飛ばすロボ娘よりも、ちゃんとした大人のデキるメイドさんにお世話されたいのに決まっているもの。
◇
お祭りのステージ、最後のイベントはビンゴ大会。
とはいえ参加できるのは『メイド王決定戦!』最終競技の順位予想を的中させた、当たり札を持つ者のみ。
おれは瑪瑙さんに賭けていたから参加できない。
でも芽衣は零号にはっていたので見事的中! よって参加できる。
こうなればあとはタヌキ娘の運を頼みとするしかない。どうか三等の有馬温泉二泊三日の旅をゲットしてくれ。
「ビンゴっ! そろったわ」
真っ先に手をあげたのは誰あろう千祭那津。
営利目的のメイド集団・梁山泊を率いるポニーテールが当てたのは、二等の多機能大型冷蔵庫。地元の家電量販店提供の品。シルバーメタリックボディが近未来的なデザインで、なんとベラベラおしゃべりをするらしい。
いきなり目玉商品をかっさらうとは、とんでもない引きの強さ!
しかし真に恐るべきは仲間のティナ嬢ではなくて、ちゃっかりライバルに賭けていたところ。なんという慧眼の持ち主にして非情なる女であろうか! くっ、これがデキる多角経営者という生き物なのか。
梁山泊の快進撃はまだまだ続く。
一等の国内外で使える旅行券三十万円分をツインテールメイドのアンが、四等の豪華ディナー付き高級ホテル宿泊券を豊胸の持ち主であるジョロウグモのバーバラがビンゴ!
梁山泊の面々、メイドの技能はさっぱりなくせしてビンゴ運がめっぽう強い。
これによりおおいに存在感を示した梁山泊は面目躍如。
でもティナ嬢がちょっと不憫だ。
次々と手をあげてはビンゴが成立していく。
そのたびにとられていく景品たち。
おれは北を向いて手を合わせつつ必死に天神さまにお祈り。「神さまおねがい」
するとその願いが届いたのか、ついにうちのタヌキ娘が「やった、ビンゴ!」と声をあげた。
ひゃっほうと浮かれる探偵と助手。
でも喜んだのもつかのま。
当たったのは十等のサラダ油セットだった。
しかも賞味期限がたったの二か月しかないという悪魔のトラップ付き。
ちくしょう、誰だよ。在庫処分がわりに提供したのは。
油なんて目玉焼きと食パンの耳を揚げるのに使うぐらいのおっさん。
芽衣はレンジでチンするかグツグツ煮る専門。
なのに二か月で六本ものサラダ油をどうしろと?
天神さんのいけず!
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