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221 乱入っ!
しおりを挟む「おまえらーっ、メイドさんは好きかーっ?」
「オーッ!!!」
司会者の声に客席がドッと湧き立つ。
ついに始まった『メイド王決定戦!』
司会進行は高月市内にある結婚式場から派遣されたオバちゃん。その道うん十年の大ベテランは盛り上げ上手、客転がしもお手の物。
審査員席に座るのは四名の人物。
呉服店「阿紫屋」の女主人である出灰竜胆。
真田動物病院の院長である真田誠一郎。
バー「フェール・アン・ドゥトール」のマスターである柴田将暉。
高月東高校の教師である芝生綾。
しっかり者のキツネの美熟女、イケメンなシベリアオオカミ獣医師、渋いハスキー犬ダンディ、いにしえの忍びの血を受け継ぐヤバい人間の女性。
審査にある程度の説得力を持たせるべく用意した人選。
ただし芝生綾だけは想定外。
本来、あそこに座るはずだったのは教頭先生。でも急遽予定が入ってキャンセルになってしまう。それで代役としてやってきたのが綾ちゃん先生だった。
お祭会場には人間に化けた動物どもが多数紛れ込んでいるので、アニマルメロメロフェロモンがムンムンな彼女の登場によって、ステージはさらに高潮の度合いを高めていく。
審査員らの紹介が済んだところで、いよいよメインたちの登場。
宇陀小路瑪瑙と零号の二人がそろってステージに登場したところで、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。足踏みにて地面が揺れ、電柱やら電線に照明灯までがぐらぐら。
あまりのうるささに舞台袖に隠れていたおれはたまらず両耳を抑えた。
それこそ暴動に発展しかねないほどの勢いにおれは冷や汗がたらり。
芽衣のヤツはまだ顔を見せない。いざというときには演者のボディガードをさせる予定だったのに。タヌキ娘め、どこをほっつき歩いていやがる。
内心ヒヤヒヤもののおっさん。
だというのに「どうどう」と手慣れた様子で観客たちをなだめる司会者はたいしたもの。まるで動じていない。すごいステージ度胸だ。
「それではこれより本大会の内容についてざっくり説明しまーす。まずはこちらにご注目を」
言うなりステージ上にて布に覆われてある物体を指し示した司会者のオバちゃん。
大きさはちょっとしたタンスほどもあろうか。布の端を掴むなり、いっきにこれを取り払う。
姿をみせたのは巨大なガチャガチャの器械。
「メイドさんなんだから料理にお茶に行儀作法なんぞが出来るのは当たり前。もちろんそれらの優劣を競うお姿も尊い。けれども今日はなんといってもお祭りだ! どうせならば観る側も参加する側も楽しまないとね。そーこーでー、コイツの出番でーす」
器械のなかには色とりどりのカプセルがごろごろ。
カプセルにはそれぞれに紙が入っている。その紙にはいかにも「メイドさんの仕事っぽいこと」から「これはちょっとちがうんでないかい?」と首をかしげるものまで、いろんなユニークな競技が記されてある。
ガチャを回して何が出るかはお楽しみ。
そいつで勝敗を決しようではないか、という嗜好。
「三本勝負で恨みっこなしよ。それじゃあまずはステキなメイドさんの二人でじゃんけんをして、勝ったほうがガチャを回して」
「意義あり! その勝負、ちょーっと待ったぁーっ!」
突如として声が上がったのは客席の後方にて。
軽快な司会者の進行を邪魔したのは、頭から全身すっっぽりローブにて隠したナゾの五人組。
◇
五人組が真っ直ぐにズンズンとステージへ向かってくる。
あまりにも異様な風体。その迫力に押されて自然と割れる客の海。
不審者の接近を許すまじと立ちふさがろうとした警備員たち。
しかし先頭を歩くローブ姿が何ごとかをつぶやくなり、警備員たちはみな急に後ずさり。連中を易々と通過させてしまう。
ステージへとあがった五人組が一斉にバッとローブを脱ぐ。
あらわれたのは五人の見目麗しいメイドたち。
これを率いるであろうポニーテールの人物が、ちょいちょいと司会者を手招き。どうやらマイクを寄越せと言っているみたい。
予定外の出来事。
どうしたものかと判断に迷っている司会者が舞台袖にいるこっちを見たので、おれはコクンとうなづいた。
マイクを受け取ったポニーテールのメイドが喋りだす。
「我ら『梁山泊』を差し置いて『メイド王決定戦!』ですって? ふん、片腹痛いわ」
千祭那津と名乗ったポニーテール。
梁山泊、それは百と八人のメイドたちで構成された団体。
主な活動内容は昼はメイドカフェ、夜はメイドキャバクラ。メイドグッズの通信販売。出張メイドサービス。メイドプレイが楽しめる大人のお店などなど。
いろんなメイドが選り取り見取りのメイドワールドを全国展開中。「おかえりなさいませ、ご主人さま」
でもって千祭那津は「自分たちも飛び入り参加をさせろ、そしてメイド王の称号は我らがいただく」との主張。
地方のアマチュアの大会に、よもやの商業団体が乱入!
想定外の展開にてどよめく会場。しかしプロレスみたいでちょっとおもしろい。
大会運営側としてはイベントが盛り上がればいいわけで、協議の結果「べつにいいんじゃね」となる。
そこでさっそくおれがゴーサインを出そうとしたところで、「ちょっと那津、あんた、こんなところで何やってんのよ!」との声。
男にしてはやや甲高い声。誰かとおもえばおれとは商売敵にて「貧乏雑種!」「腐れ駄犬!」と呼び合う仲の千祭史郎である。
うん? あれ、千祭って……。
「何って、お兄ちゃんがいつまでたっても連絡を寄越さないから、わざわざこっちから出向いてやったまでのことじゃない。ったく相変わらず使えないんだから」
「あんたが来たら絶対にややこしいことになるから報せなかっただけよ。誰よ、この子にもらしたのは? あーん、もうっ!」
モメる二人を横目におれは密かにムムムとうなる。
兄妹ともに多角経営で成功しているとはな。おそるべし千祭兄妹。
かくして波乱含みで始まろうとしている本大会。
はたして栄冠は誰の手に。
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