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212 浮気調査
しおりを挟む尾白探偵事務所との五番勝負を制したピンポンレンジャー。
高月の地にて正式に旗揚げした彼らは、これを機に意気揚々と全国遠征へくり出すそうな。
なんでも各地の団地を巡っては、ピンポンダッシュしまくるんだと。迷惑な話である。
いったい何が彼らをそうまでして駆り立てるのか?
どうしても気になったおれは訊ねるも、明確な解答は得られず。
「何かに夢中になるのに理由がいるのか?」
堂々としたレッドの言い分に、おっさんはぐうの音もでない。
どうやらマジメに深く考えたら負けのようだ。
まぁ、ナゾはナゾのままに「とりあえずグリーンの林さん。あんたの花火だけはダメだ。危ないから使うのはかんしゃく玉までにしておけ」とおれは別れ際にビシッと言っておく。この忠告にグリーンが素直に従ってくれることを切に願う。なにせ火の不始末は怖いからね。
かくして激闘は幕を閉じ、屯田団地と白樺マンションには平穏が訪れた。
いちおうこれで依頼達成となり、後日、報酬もしっかり支払われた。
がんばったかいがあったと、おれと芽衣はホクホク顔。
だがしかし、ちょいと困った後日談がある。
◇
「おーい、変態探偵はいるかぁ」
事務所に顔を見せたのはカラス女である安倍野京香。
不良刑事め、言うにことかいて「変態」呼ばわりはさすがに看過できない。
おれが「誰が変態だ!」とぷりぷり怒れば、カラス女が「誰が、も何もない。巷じゃあ四伯は『変な人と怪奇案件のスペシャリスト』として評判がうなぎのぼり。ぷー、クスクス」と肩をふるわす。
「というわけで、これからはめんどうくさそうな通報は、そっくりおまえさんのところに回すことになったから。警察から民間への業務委託というやつだ。よかったじゃないか、尾白探偵事務所の未来は明るいぞ」
奇人変人にはこと欠かぬ、変態の一大産地である高月の地。
商売繁盛が確定でめでたしめでたし?
◇
ジーンズに紺色のジャケットというこざっぱりした格好の青年。
二十メートルほど離れて彼のあとをついていく。
ただいまおれと芽衣はターゲットを尾行中。
もちろん探偵の業務である。
っていうか、これこそが探偵本来の仕事であろう。
夜な夜な街道を爆走したり、変態たちと追いかけっこをしたり、鬼どもと殴り合いをしたり、ピンポンダッシュ勝負をしたりする方がおかしいのだ。
ターゲットが横断歩道で信号待ち。
エステサロンの立て看板に隠れ、後方より彼を見張るおれと芽衣。
尾行をはじめてまだ一時間ほどしか経っていないが、いまのところ不審な点はない。
「しかし浮気調査なんてひさしぶりだな。近頃じゃあこの手の依頼は、たいてい千祭のところにとられるから、なかなかこっちに回ってこないんだが……」
「予算の都合で仕方なくって依頼人さんが言ってましたよ、四伯おじさん」
「まあなぁ、実際のところあっちは人員を動員するから、その分だけ料金が割高なんだよなぁ」
同業他社にして業界最大手である桜花探偵事務所。
そこの高月支店を任されているのがおれとは「雑種!」「駄犬!」と呼び合う仲の千祭史郎。やたらと血統は鼻にかけるいけ好かないドーベルマンカマ。
あちらはテレビでばんばんコマーシャルを流し、インターネットでも「探偵」と検索をかけたら一番上に表示されるほど宣伝にチカラを注いでいる。
一方で我が尾白探偵事務所ときたら怪しげな雑居ビルの四階にて、細々と活動している零細な街の探偵屋さん。
もしも浮気調査を依頼しようとしたら、ふつうはまず桜花探偵事務所に連絡する。
で、今回の依頼人である女子大学生である緑川操さんも、三十分無料相談、見積もり可という宣伝文句に釣られてドーベルマンカマのところを訪問してみたものの、提示された見積もりにビックリ仰天!
とてもではないが一介の学生に払える金額ではない。
「学割やローンもありますよ」との営業さんの言葉には、小さく首をふり桜花探偵事務所をあとにした緑川操。がっくりうな垂れつつ、駅周辺をぶらついていたら、たまさか見上げた雑居ビルにうちの看板を発見。ダメ元で駆け込んだと。
◇
信号が変わってターゲットが歩き出した。おれたちも続く。
草臥れたおっさんと女子高生の組み合わせ。さすがにカップルは厳しいので、親戚のおじさんと姪っ子というていを装い、さりげなく世間話を交えつつ歩く。
「うーん、見た目はマジメそうですけど。あの方、天本心太さんは本当に浮気をしているんでしょうか?」
「どうかなぁ。しかし外見が好青年だからって中身までもがそうとはかぎらんよ。なにせ大半の詐欺師は愛想が良くて、礼儀正しくて、親切で人当たりもいいからな」
「あー、たしかにそうかも」
依頼人からの情報によれば、天本心太は某有名大学の院生。
スポーツマン体型で高身長の爽やか好青年。いかにも誠実を絵に描いたような風貌にて、物腰も柔らかく、つねに落ちついている。
優しくて思いやりがあって彼氏としては申し分のない相手。
けどなんのかんのと理由をつけては、一度も家に招待してくれたことがないという。それからしょっちゅう携帯電話の電源を切っている。当人は「研究室にこもっているときには切ってあるから」と言うけれども……。
「よくよく冷静になってみたら、案外、彼に秘密が多いことに気がついてしまったと。そんなに悩むぐらいならば、とっとと別れてしまえばいいのに」
「あんまり言ってやるなよ、芽衣。そこは惚れた弱味ってやつだろうさ」
「ふーん、そんなもんですかねえ」
「そんなもんさ。おかげでこちとらメシのタネには困らないんだから、文句を言ったらバチが当たるってもんだ。っと、やっこさん、どうやらあそこに入るみたいだな」
某ファーストフード店に入った天本心太。
おれたちは外でしばし待機。少し時間を置いてから入ろうとするも、その必要はなかった。
なぜなら表から見える二階窓辺の席に女と並んで座った彼の姿を目撃したからである。
二人はここで待ち合わせをしていた模様。
とりあえず芽衣のスマートフォンでパチリと一枚。
おやおや、これは黒か?
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