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206 グリーンの衝撃
しおりを挟むピンポンレンジャー対尾白探偵事務所の五番勝負。
二番目の対戦相手はピンポングリーン。
「林のグリーン」と名乗るぐらいだから、対戦場所はてっきり木々が生い茂るわりと自然が豊かな地域の棟を選ぶのかと予想するもちがった。
グリーンが指定したのはその真逆のような場所。
運動場と広場に公園、それから駐車場などに面しており周囲がひらけている三十三棟。
隣近所の棟と距離があいており、ポツンと一軒家感が漂う屯田団地内でも珍しいところ。
ではピンポングリーンがどうしてこのような場所を選んだのか?
その理由は二番目の勝負がはじまってすぐに判明する。
パン、パン、パパン!
鋭く鳴ったのは足下に散らばっているかんしゃく玉。
叩きつけたり、踏んだりしたら大きな音が鳴るアレ。投げ玉とかクラッカーボールともいう。
三十三棟へと赴くなりピンポングリーンの姿を発見し、すぐさま捕縛へと動いた探偵と助手。
その行く手を阻むのはかんしゃく玉の地雷原。
「おのれこしゃくな」「なにくそ」
シュル、シュル、シュル、シュルルン、パーン!
負けじと地雷原を超えたおれたちを待ち受けていたのは、ネズミ花火の集団。
火花が渦を巻き、ギュルギュル回転しては火の粉を散らし、足下を縦横無尽に飛び跳ね襲いかかってくる。
くっ、だがこの程度ならば……。
と、油断したところに飛来するはロケット花火たち。
足下の攻撃から逃れようと、ひょこひょこしているところにビュンビュン容赦なく突っ込んでくる。
天と地と、二段構えの苛烈な攻め。
「わっ、バカ、あぶねえ、やめろ! ふざけんなよ、こら。説明書きに人に向けちゃダメってちゃんと書いてあるだろうがっ!」
ロケット花火をポコポコぶつけられて、すっかりお冠のおっさん探偵。
「ギャー、髪が焦げたっ、服に穴があいたーっ」
哀れ、泣き叫ぶ助手のタヌキ娘。現役女子高生にとっては肉体的なダメージよりも、髪や服を傷つけられるほうがこたえるらしい。
その隙に悠々『ピンポン、ピンポン、ピンポン』と呼び鈴を鳴らすグリーン。
「どこが林のグリーンなんだよ。これじゃあ完全に火じゃねえか! あと自然、ぜんぜん関係ねえ!」
おれの抗議にグリーンは平然と「林は苗字由来にすぎない」と答える。「でも安心してくれ。この花火は環境に優しい特別製だから」
衝撃の事実が発覚。
なんとピンポングリーンは中の人が林さんだったから、グリーンに任命されただけであった。
あと地球に優しい仕様なのは感心するけど、だったらおれたちにも優しくしてくれ。
「しようもなっ!」
芽衣があきれているうちにも、グリーンは着々とピンポンダッシュを続ける。
だが三戸連続コンボをおれたちはからくも阻止。
勢いのままにヤツの身柄も抑えようとしたが、それは失敗に終わる。
お気に入りのシャツに穴を開けられてぶち切れたタヌキ娘が「ウガーッ」と踊りかかるも、それを迎え撃ったのは三十連発手持ち花火。
ピンポングリーンはこれを十二本束にして一斉に発射するという暴挙に出る。
合計三百六十発!
怒涛のポン、ポン、ポポン、ポン、ポポン。
大量に射出される色とりどりの光の玉。
至近距離にて洗礼を浴びた芽衣は轟沈。
あげくの果てには七色の煙玉による煙幕にて華麗にバックレられてしまった。
だがピンポンダッシュのコンボは成立させなかったので、今回はおれたちの勝ちだ。
ピンポンレンジャー対尾白探偵事務所の五番勝負。
二番目は尾白探偵事務所の辛勝。
◇
ピンポンレンジャー対尾白探偵事務所の五番勝負。
三番目の対戦相手はピンポンレッド。
レッドが対戦場所に指定してきたのは一号棟。
屯田団地百棟の先陣を飾った記念碑的建造物。
とはいえ外見は残り九十九棟とまったく同じなのだが、横壁面上部に燦然と輝くイチバンの数字が、何やらありがたく見えてくるから不思議である。ナムナム。
ブルーが奇策を用いるタイプならば、グリーンは暴策を躊躇なく使えるタイプ。
そしてレッドなのだが、彼は戦隊ヒーローのリーダーばりに王道を地でいくタイプであった。
肉体派にて小細工なしの真っ向勝負。
おれたちが最初に遭遇したピンポンダッシュ犯の正体は彼であったのだ。
先の二連戦にてけっこうボロボロとなっているおれたちを、腕を組み仁王立ちにて出迎えたレッド。
「ねえねえ、おっちゃん、何してんのぉ?」「なんかヘンなカッコウ……」「ボク知ってるよ? これってコスプレっていうんだよね」「ペチペチ、いい太ももしてんなぁ」「ケツ筋もすごいぞ、ムキムキだ」
足下にてキャッキャとじゃれつく小さなお子さまたちには目もくれずされるがまま、だというのにレッドは威風堂々としたたたずまい。
そんなお子さまたちも、じきにいなくなった。
そろそろ暮れ七つとなる。良い子はとっくに家に帰って晩御飯の時間。その証拠に、どこぞよりカレーのいいニオイが漂ってきている。
あー、腹減ったぁ。こんなことならさっき焼きイモを買っておくべきだったと、勝負を前にしておれは内心でちょっと後悔。
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