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169 ステキなお土産
しおりを挟む立ち合いのあった週明け。
学校に行った芽衣とタエちゃんはそろってアザだらけゆえに、仲良しのミワちゃんをたいそうオロオロさせたらしい。
一方で出灰桔梗は入院こそはまぬがれたものの自宅療養を余儀なくされる。
白薔薇の君が床に伏す。おかげで高月南校は騒然となっているとかいないとか。
あれから四日ほど経って「そろそろいいかな」と桔梗のところへおれは見舞いに。
芽衣たちも行きたがったが、大勢で押しかけるのも先方に迷惑となるため今回は譲ってもらった。
パン屋「森のくまさん」にて購入したドーナツとラスクを手土産に呉服店「阿紫屋」を訪問。
事前に連絡を入れておいたこともあって、すんなり桔梗の部屋へと通される。
うら若き乙女の部屋についてあれこれ語るのは無作法ゆえに詳細は差し控えるが、日当たり良好にて、えもいわれぬいいニオイがする場所であった。
窓際に設置されたベッドにて上体を起こし、おれを出迎えた桔梗。
なかなかのミイラ状態ではあるが、顔色は悪くない。
「大丈夫か? うちのタヌキ娘は強かっただろう」
「ええ、おかげさまで。この通り、けちょんけちょんです」
おれの言葉に答えた桔梗の顔はどこかさばさばしている。
以前にあった凛としたトゲトゲしさが失せている。かわりによりいっそうの落ちつきと静けさを手に入れたっぽい。
やることをやってスッキリ……といったところか。
良家のお嬢さまのことだからおおかたこんなことになっているのではと、おれは予想していた。
まったく、素直というか、自分に厳しいというか。ガキのくせして妙に物分かりが良すぎる。
そんな彼女におれは一冊のノートを放り投げる。
パサリと自分の膝の上に乗ったノートに「これは?」と柳眉を寄せる桔梗。
「いいから、ちょいと中をのぞいてみな」
おっさんに促されるままページをめくったお嬢さま。
紙面に書かれた文字列を追ううちに、涙目となりふるえながら口元をおさえる。ついにはこらえきれずに嗚咽をこぼし始めた。
ノートの中に書かれてあったのは、禍つ風に闇討ちに会った連中やその他からの見舞いの言葉の数々。
しかしそこに恨み節の類は一切ない。
『一回勝ったぐらいで調子に乗んなよ! 次はおれたちがぜってーに勝つ! あとファイトクラブはいつでも猛者は大歓迎です』ウインドサイズ一同より。
『己が未熟を思い知った。鍛え直すので、いずれまた』ヒグマの玄より。
『今回は不覚をとったが、次は負けねえ。勝ち逃げなんぞ許さん』ブルドックの荒巻より。
『好きです。結婚して下さい。ダメならせめてメールアドレスだけでも』高月東高校柔道部部員より。
・
・
・
『元気になったら次はあたいとも遊ぼうぜ』孤斗羅美より。
『またやろう。次は山か海がいいね』洲本芽衣より。
『あいかわらずめんどうくさいヤツだ。グダグダぬかすぐらいなら、とっととかかってこい! いくらでも相手をしてやるから』白妙幸より。
動物は基本的に根が単純だ。
ましては脳みそまで筋肉になっちまっているような武闘派ならばなおのこと。
「仲間をやられた!」とイキリ立っては夜な夜な禍つ風の姿を追い求め街を徘徊していた連中も、怒りは怒りとしてそこにねちっこい感情はなく、「やられたらやり返す。倍返しじゃあ」ぐらいの悪ノリである。
それさえもギャアギャアやっているうちに楽しくなって、途中から本来の趣旨なんて忘れてお祭り騒ぎに興じていた節さえある。
「まぁ、なんだな。そんなわけだから、これからはもうヘンに構える必要はない。指をくわえて眺めているのなんかヤメて、遠慮せずに『遊びましょう』と声をかけたらいいさ」
ノートのページをめくりながらポロポロ泣いている桔梗に、そう告げたおれは席を立つ。
◇
桔梗の部屋を辞去し廊下へと出たところで待っていたのは母親の竜胆。
どうやら外から室内の様子をうかがっていたようだ。
「やれやれ、盗み聞きとはお人が悪い」
「ええ、たしかに。でも尾白さん、父親以外の男性がはじめて娘の部屋に入ったばかりか、二人きりともなれば、母親としては心配で気が気ではありませんから」
「えっ、マジかよ……。そいつは光栄だが、今回のはさすがにノーカンでしょう」
「ふふふ、さぁ、どうでしょう」
しなをつくって妖艶な笑みを浮かべる竜胆。かとおもえば一転してマジメな顔となり、丁寧なお辞儀をする。
「あのようなステキなお土産までいただいて。本当にこの度はうちの娘がお世話になりました」
あらたまっての大人の態度に、おれも「いえいえ、こちらこそ」と頭を下げる。「どうぞお気になさらず。なにせ我が尾白探偵事務所は、他社ではマネのできないアフターフォローなどのキメの細かいサービスがモットーですので。今後ともご贔屓に」
かくして辻斬り事件は終息した。
そして以降、高月中央商店街に降臨する白薔薇の君の姿がときおり目撃されるようになった。
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