162 / 1,029
162 立ち合い
しおりを挟む高月の市役所前から国道を京都方面へと向かう途中。
ちょいと北の山間部へ入ったところに廃校となった小学校がある。
人口がピーク時に急場しのぎで建てられた小学校にて、こじんまりとしており分校のような扱いであった。だがそれも時代の変遷とともに役割を終える。
すでに取り壊しは決まっているものの、都市再開発計画とかのゴタゴタに巻き込まれて放置されて久しい。
そこが出灰桔梗と洲本芽衣の立ち合いの場となる。
今回の立ち合い、モロモロの事情込みにておれが伝えると芽衣はすんなり受けた。
あんまりにもあっさりだったもので、かえってこっちがいぶかしんだほどである。
タヌキ娘の言うことには「なんとなく気持ちはわかるから」というもの。「自分が大切しているモノを横からかっさらわれたら、誰だって面白くないよ」
うーん、わかるような、わからないような。
おれが首をかしげていたら「だから四伯おじさんはモテないんだよ。乙女心は繊細で複雑なんだから」とあきれられた。
しかしこれから戦いに臨むという時に、モリモリ牛丼を五杯もたいらげる乙女のどこが繊細なのだろう?
おっさんは理解に苦しむ。
◇
週末、時刻は午後の九時半をまわったところ。
夜の廃校に集まっていたのは五名。
今回の立ち合いの発起人であるおれこと尾白四伯。
対戦者である洲本芽衣と出灰桔梗。
勝負の検分役の孤斗羅美。
トラ美に関してはおれが頼んだ。きっと激しい戦いになる。もしものときには二人の間に割って入り止められるだけの実力者が必要だと考えた。
でもって残る一人はタエちゃんこと白妙幸である。
タエちゃんは出灰桔梗がゲストとしてわざわざ招待したらしい。
ふつうならば困惑しそうな状況にあるというのに、白妙幸は仏頂面にて出灰桔梗に向かって「おまえは昔から変わらねえ。あいかわらずめんどうくさい女だ」と悪態をつくのみ。
金髪リーゼントからにらまれた当の才媛は「ええ、私はめんどうな女なのです」とくすり。
ざっと一同の自己紹介を済ませてから、おれが今回の立ち合いについてのルールを説明する。
「戦いは校舎内にて行うこと。あー、ちゃんと許可はとってあるから破損は気にしなくていい。存分にやってくれ。どうせ解体予定の建物だから。
でもって、これ以上はマズイと判断したときには、発起人の権限にて介入させてもらう。
あと立ち合いの時間は午前零時まで。延長はナシだ。
開始は十時ちょうどとする。爆竹を鳴らす、それが合図だ」
説明を聞き終えた芽衣と桔梗の各々は校舎内へ。
適当なところに陣取り二人は戦いの気運を高めながら合図を待つ。
ボストンバッグを担いでいる桔梗。おそらく中には扮装セットが入っているのだろう。彼女はあくまで禍つ風として今回の戦いに臨むようだ。
一方で芽衣はジーンズに茜色のスウェットパーカーというラフな格好。「ちょっとそこのコンビニまで」といったいでたち。
「ほぅ、常在戦場とはさすがだな」
トラ美がうんうん感心しているけど、それはタヌキ娘を買いかぶりすぎである。
二人の姿が見えなくなったところで、おれたちは昇降口辺りに待機して戦いの行く末を見守ることにする。
◇
開始までにはまだ少し間がある。
おれはタバコに火をつけつつ、検分役とゲストに話しかけた。
「で、トラ美とタエちゃんはこの勝負、どうみる?」
トラ美は「そうだねえ」とアゴに手あてつつ「あたいは芽衣のチカラは知ってるけど、あっちの子はよく知らないからねえ。でも狐崑九尾羅刃拳のかなりの遣い手なんだってね。伏見の道場の秘蔵っ子って話じゃないか。とはいえ実戦経験の差がどうでるか」
うなづきつつもタエちゃんが気にしたのは場所のこと。
「でも地の利は桔梗にあると思う。死角の多い夜の建物内はきっと狐崑九尾羅刃拳との相性がいいはずだ。なぁ、もしかして尾白さんは勝負のバランスをとるために、わざとここを選んだのか?」
タエちゃんの言葉におれはにやり。
狐崑九尾羅刃拳は予備動作なしから最速技を放つを身上としている。
かまえなく、音なく、防御なく、ただ風となり攻めあるのみ。
古い歴史を誇る流派にて、時代によっては警護や暗殺などを生業としていたこともあるとかないとか。
実際に禍つ風と対峙し、あの身のこなしを目の当たりにした経験から、おれは本当かもと考えている。
それを踏まえて今回の舞台を整えた。
出灰桔梗の胸の奥に燻り続ける火種。
てっとり早く火を消すには強引に踏み消すか、より強い火勢で燃やし尽くしてしまうか。
彼女の場合は積年の鬼火種。中途半端はかえって大火災になりかねない。
そんなわけでキツネのお嬢さまにはガッツリうちのタヌキ娘と戯れてもらうことにした。
芽衣にとってもきっといい経験になるだろう。
そうこうしているうちに時間がきた。
おれは爆竹の導火線にタバコの火を押しつけると、そいつを投げた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
稲荷狐の育て方
ススキ荻経
キャラ文芸
狐坂恭は、極度の人見知りで動物好き。
それゆえ、恭は大学院の博士課程に進学し、動物の研究を続けるつもりでいたが、家庭の事情で大学に残ることができなくなってしまう。
おまけに、絶望的なコミュニケーション能力の低さが仇となり、ことごとく就活に失敗し、就職浪人に突入してしまった。
そんなおり、ふらりと立ち寄った京都の船岡山にて、恭は稲荷狐の祖である「船岡山の霊狐」に出会う。
そこで、霊狐から「みなしごになった稲荷狐の里親になってほしい」と頼まれた恭は、半ば強制的に、四匹の稲荷狐の子を押しつけられることに。
無力な子狐たちを見捨てることもできず、親代わりを務めようと奮闘する恭だったが、未知の霊獣を育てるのはそう簡単ではなく……。
京を舞台に繰り広げられる本格狐物語、ここに開幕!
エブリスタでも公開しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる