おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
152 / 1,029

152 ブラコンリーゼント

しおりを挟む
 
 東と南、二つの高校による交流戦。
 結果は東のボロ負けである。
 野球、サッカー、バスケットボール、バレーボールなどの球技はズタボロ。わりといい線をいっていたのは卓球のみ。
 知的競技の類は端から勝負にならない。バリバリ進学校の南には基本的に賢い子が揃っている。ぼちぼち進学校? の東とでは地力に差があるのだ。
 一方で東が意気軒昂だったのが格闘技系。
 柔道、空手、剣道では東が南を圧倒し、合気道と薙刀ではとんとんといった成績に終わる。
 以上のことから、もうおわかりであろう。
 東は個人競技が、南は団体競技にめっぽう強いということが。
 ある意味、両校の校風を如実にあらわしていると言えなくもない。
 ともあれたいした混乱もケガ人が出ることもなく、平穏無事に交流戦は終了した。

  ◇

 芽衣、タエちゃん、ミワちゃんら三人娘はそろって東高へと戻る。
 でもミワちゃんはビブリオバトル参加者らによる打ち上げに顔を出すというので、ここでバイバイ。
 二人になった芽衣たちは学校を出て高月中央商店街へと。
 ニワトリが化けた店主が営む「鳥勝」でからあげ串を購入。百円で大きなからあげが三個も刺さっているソレをかじりながら、尾白探偵事務所へと向かう。
 アルバイトで助手をしている芽衣はともかく、どうしてタエちゃんがついていくのかというと、探偵さんにちょいとご挨拶をするため。

 近々に小学校低学年の課外授業にて社会科見学が行われる。
 これは体験学習を兼ねており、希望する職場にて一日お世話になるというもの。
 まぁ、ごっこ遊びの延長みたいなもの。だが中央および城北の両商店街はこの活動に賛同しており、毎回子どもたちを喜んで受け入れている。
 で、たいていのお子さまはケーキ屋だったり花屋だったりパン屋とかを希望する。
 女子からダントツ人気なのは食べ物関係。男子では警察や消防署とかが強い。
 探偵もそれなりに需要はあるが、この手のイベントごとの場合、業界最大手である桜花探偵事務所の支店の方へと話がいく。
 場末のうらぶれた雑居ビルの四階に居をかまえる、怪しげな探偵事務所を希望するお子さまがそもそもいない。
 だというのに今年は世にも稀な珍事が起きた。

「すみませんが、尾白探偵事務所というところで学びたいという生徒がおりまして」

 という連絡を小学校側から受けたとき、高月中央商店街の商会長は腰を抜かさんばかりに驚き、己の頬をつねりながら真顔で「悪いご冗談を」と答えたという。
 しかし本当だった。
 それも女の子と男の子が二人もっ!
 不健全と不衛生が凝り固まった掃き溜めのような場所で、幼子たちを預かる?
 いやいやいやいや、ありえない! 無垢な魂が穢れてしまうじゃないか! 将来どのような悪い影響が出るかわかったものじゃない! あまりにも危険すぎる……。
 なんとか翻意させようと商会長もがんばった。
 しかし「当人たちのたっての希望ですので」とついに押し切られてしまう。
 尾白四伯という男をそれなりに知る商会長は心底不安になった。
 そこでさっそく探偵事務所にスゴイ剣幕で怒鳴り込む。

「尾白、てめえ、いったい何をしやがった!」

 堅気にまったく見えない容姿の商会長。本職も裸足で逃げ出すような鬼の形相で来襲。
 これにびっくりした尾白。うっかり手にしていたカップラーメンを落としてズボンの股間がえらいことに。しかもよりにもよってカレー味……。

 もちろん、一連のことにはちゃんと理由なり原因が存在していた。
 尾白のところを希望すると言い出した女の子は、瀬尾愛。
 高月中央商店街にて開催された五百円祭のときに、亡き父の形見である黒猫のブローチの捜索を頼んできた依頼人。そして現在は摂津峡の乱を起こしたハムスター誅王の飼い主でもある。
 どうやら彼女はあの時の尾白探偵の仕事っぷりにたいそう感銘を受けてしまったらしい。
 するとそんな愛ちゃんに続いて「ぼくも」と手をあげたのが、もう一人の男の子。
 それが白妙幸の弟である望くん。
 今度、自分の弟がお世話になることもあって、一度ちゃんとご挨拶しておこうとタエちゃんは律儀にも考えた次第である。
 ついでにクギも刺しておくつもり。「もしも弟を危ない目にあわしたり、ヘンなことを吹き込んだら承知しねえからなっ!」と。
 金髪リーゼントの白妙幸は弟を溺愛している。
 そう彼女は重度のブラコンなのである。

  ◇

 雑居ビルの細い階段をのぼる芽衣とタエちゃん。
「ちょいちょい止まる」というエレベーターの話を芽衣より聞いて、タエちゃんは自分の足を頼りとすることを選択。

「うーん、やっぱり手土産のひとつでも持ってくるべきだったか」

 四階がもうすぐという段になってタエちゃんがつぶやく。
 すると芽衣がケラケラ笑いながら手をふる。

「あー、気にしなくていいよ。四伯おじさんってば、タバコの吸い過ぎですっかりバカ舌になってるから。せっかく美味しいモノを持ってきてもムダになるし」
「ソレなんだが、尾白さんってヘビースモーカーなんだろう? そんなので子どもなんて本当に預かれるのか?」
「大丈夫大丈夫。その辺はわたしがちゃんと監視するよ。それにいちおう客商売ってこともあって、なんだかんだでTPOはわきまえているから」

 TPOとは、時と場所によって服装や言葉を使い分ける意味の和製英語。
 昨今の喫煙事情や世の風潮をかんがみて、けっこう周囲に気を使っている愛煙家たち。これ以上、やり玉にされてはたまらない。
 芽衣の言葉に「なるほど。いろいろたいへんなんだな」と納得したタエちゃん。
 そこでようやく探偵事務所のある四階へと到着。
 さっそくドアを開けようとした芽衣、しかしタエちゃんの腕を引いてすぐに脇へと移動する。
 間髪入れずに扉がバタンと乱暴に開かれた。
 姿を見せたのは全身黒尽くめでサングラスをかけたスーツ姿の女。剣呑な気配をまき散らしている。

「とにかく何かわかったらすぐに報せろ、四伯」

 ふり返り室内に声をかけていたのは、高月警察の女刑事である安倍野京香。
 彼女はすぐに芽衣たちの存在に気がつくも、ろくに挨拶をすることなく、ただ「お前たちも気をつけろよ」とだけ告げ、さっさと行ってしまった。
 あとに残された二人は意味がわからずキョトン。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

推理小説家の今日の献立

東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。 その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。 翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて? 「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」 ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。 .。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+ 第一話『豚汁』 第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』 第三話『みんな大好きなお弁当』 第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』 第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』

御様御用、白雪

月芝
歴史・時代
江戸は天保の末、武士の世が黄昏へとさしかかる頃。 首切り役人の家に生まれた女がたどる数奇な運命。 人の首を刎ねることにとり憑かれた山部一族。 それは剣の道にあらず。 剣術にあらず。 しいていえば、料理人が魚の頭を落とすのと同じ。 まな板の鯉が、刑場の罪人にかわっただけのこと。 脈々と受け継がれた狂気の血と技。 その結実として生を受けた女は、人として生きることを知らずに、 ただひと振りの刃となり、斬ることだけを強いられる。 斬って、斬って、斬って。 ただ斬り続けたその先に、女はいったい何を見るのか。 幕末の動乱の時代を生きた女の一代記。 そこに綺羅星のごとく散っていった維新の英雄英傑たちはいない。 あったのは斬る者と斬られる者。 ただそれだけ。

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

高槻鈍牛

月芝
歴史・時代
群雄割拠がひしめき合う戦国乱世の時代。 表舞台の主役が武士ならば、裏舞台の主役は忍びたち。 数多の戦いの果てに、多くの命が露と消えていく。 そんな世にあって、いちおうは忍びということになっているけれども、実力はまるでない集団がいた。 あまりのへっぽこぶりにて、誰にも相手にされなかったがゆえに、 荒海のごとく乱れる世にあって、わりとのんびりと過ごしてこれたのは運ゆえか、それとも……。 京から西国へと通じる玄関口。 高槻という地の片隅にて、こっそり住んでいた芝生一族。 あるとき、酒に酔った頭領が部下に命じたのは、とんでもないこと! 「信長の首をとってこい」 酒の上での戯言。 なのにこれを真に受けた青年。 とりあえず天下人のお膝元である安土へと旅立つ。 ざんばら髪にて六尺を超える若者の名は芝生仁胡。 何をするにも他の人より一拍ほど間があくもので、ついたあだ名が鈍牛。 気はやさしくて力持ち。 真面目な性格にて、頭領の面目を考えての行動。 いちおう行くだけ行ったけれども駄目だったという体を装う予定。 しかしそうは問屋が卸さなかった。 各地の忍び集団から選りすぐりの化け物らが送り込まれ、魔都と化しつつある安土の地。 そんな場所にのこのこと乗り込んでしまった鈍牛。 なんの因果か星の巡りか、次々と難事に巻き込まれるはめに!

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

処理中です...