150 / 1,029
150 白薔薇の君
しおりを挟む高月の地にはかつて四つの高校があった。
まるで四方を守るかのようにして東西南北の方位を冠していた学び舎たち。
しかし時代の変遷と少子化の影響にて、現存しているのは東と南の二校のみ。
高月東高校。
生徒の自主性を重んじるという建前のもとのゆるい校風。体育と美術と音楽が選択制にて苦手なことを無理強いしない。それでいてそこそこの進学率を誇り、部活動も盛ん。市内および近在から青春を謳歌したい若人が集っている学び舎。
ちなみに男子はむっさい黒の学生服で、女子はセーラー服である。
なおセーラー服のスカーフは一年生が白、二年生が青、三年生が赤となっており、とっても華やか。
高月南高校。
市内のみならず近隣にいるちょっと頭のいい子らがこぞって入学するバリバリの進学校。東と同じく生徒の自主性を重んじる校風ながらも、その中核にあるのは律の精神である。
律の精神とは「守るべきは守りつつ、許される範囲内にて自由を楽しむ」というもの。
制服は男女ともにブレザー。女子生徒のみ学校指定のおしゃれなカーディガンを持つ。
この二校、仲は可もなく不可もなく。
べつに張り合っているわけでもなければ、反目しているわけでもない。かといって格別仲もよろしくはない。生徒らの個人的なつき合いはあるものの、それとても生活圏のズレから目立ったものではない。
けれどもそんな両校がガッツリ交わるのが伝統の交流戦である。
いろんな種目にて代表同士を競わせて、切磋琢磨しつつ親睦を深めようというお祭り企画。
四校が揃い踏みしていた時代には華やかなりし一大イベントであったが、それも昔のこと。いまでは球技大会の延長で、体育祭よりちょい下ぐらいのあつかい。
それでも延々と続けているのは、なまじ伝統の数字がかさんでいるから。
◇
本日はお日さまサンサン、絶好の運動日和。
ところは高月南高校の校庭。
壇上にてにこやかに挨拶をしているのは、黒の艶髪にエンジェルリングが浮かぶ、正統派美少女。
「本日は天候にも恵まれ、第三十九回交流戦を迎えられたことをうれしく思います」
よく通る声である。聞く者の耳を惹きつける天分の才があるのか、いつもはガヤガヤとにぎやかな東高校の生徒たちもおとなしく拝聴している。というか男子どもの大半はヨダレも垂らさんばかりに見惚れている。
この周囲の状況に「さすがだわ。南の白薔薇の君」とミワちゃんこと山崎美和子が小声でぽつり。
「しろばらのきみ?」
すぐ前に並んでいた芽衣が小首をかしげる。
「そう、彼女こそが南校はじまって以来の才媛との誉も高い、出灰桔梗さん」
受験の成績は歴代トップであったのみならず、入学後もぶっちぎり。
先代が自ら身を引き譲る形にて、一年生にして生徒会長に就任。
たちまち校内を掌握し、津々浦々にまで浸透させたのがやや形骸化していた律の精神である。
もちろん「生意気だ!」と反抗する一派もあったが、それらを正面から論破、ときに蠱惑の笑みにて篭絡、あるいは懐柔、親愛、心胆寒からしめ、わずかな時間にて一掃を完了。己が地盤を盤石とする。
「とにかくすごい支持率なんだって。信奉者たちが立ち上げた親衛隊もいるんだとか」
まるでマンガかアニメの中から飛び出してきたキャラクターみたいな完璧超人。
加えてあの呉服店「阿紫屋」の一人娘で家柄も良くてお金持ち。
二物も三物も天より与えられて、神さまからこれでもかと贔屓されまくっている美少女。
人呼んで白薔薇の君。
ミワちゃんの説明に「あっ! 誰かに似ていると思ったら、あの竜胆さんのところの……。なるほどねえ、納得のべっぴんさんだ」と芽衣もうんうん。
駅向こうの高月城北商店街にて呉服屋を営む一方で、商工会議所の会長も兼任しているだけでなく、キツネの一門も率いており、高月の地では絶大な影響力を誇る美貌の女傑。それが出灰竜胆というお人。尾白探偵が苦手としている人物のうちの一人でもある。
芽衣とミワちゃんがひそひそ話。「けっ」と面白くなさそうな顔をしたのはミワちゃんのうしろに並んでいたタエちゃんこと白妙幸である。
「なぁにが白薔薇の君だよ。あいかわらずスカしやがって。いけ好かない女だぜ」
金髪リーゼントという見た目こそはヤンチャだが、面倒見が良く、マジメに学校には通うタイプの不良であるタエちゃんが、いつになく悪態をつく。
彼女がこんな風に誰かの悪しざまに罵る姿は非常に珍しい。
芽衣とミワちゃんからじーっと見つめられたタエちゃん。
無言の「なんで? どうして?」攻撃を受けて早々に降参したタエちゃんがしぶしぶ白状したところでは……。
◇
小学生時代の頃、かつて二人は同級生だったことがある。
いかにも男勝りで荒くれ者といったヘビ女と、楚々としたお嬢さまであるキツネ女。
対照的な二人が仲良くなれるわけもなく、ことあるごとに反目し合うことになるまで、たいして時間はかからなかった。
こうなると自然と産まれるのがクラス内派閥。
しかしせっせと自分の周囲を固めるキツネ女とはちがって、ヘビ女は来るもの拒まず、去る者追わずの姿勢を貫く。ぶっちゃけタエちゃんは「小さい世界で上だの下だのと、くだらねえ」と思っていた。
結果、タエちゃんは孤立することになるのだが、それでもへっちゃら。
この状況にイラ立ち、先にキレたのがキツネ女である。
自分がコツコツがんばっているというのに、そんな自分を嘲笑うかのようにしてひょうひょうと過ごしている白妙幸に、心底腹を立てた。
かといってイジメなんてしようもないマネはしない。
かわりに行ったのはよもやの決闘である。
お嬢さま然としていた桔梗、じつは内面は超負けず嫌いの塊みたいな女だった。
そして華奢な見た目に反して強かった。
決闘の結果は引き分けに終わる。
で、少年マンガとかならば友情が育まれてめでたしめでたしの展開になるのだが、現実はなかなかそうはいかない。
ボコり合った結果、両者の溝はますます深まり、時間を経るほどにずんずん広まる始末。
出灰桔梗と真正面からぶつかり合ったからこそわかる、あの女の本性。
それを知る数少ない人物であるがゆえに、先ほどのタエちゃんの「けっ」なのであった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー
コーヒー微糖派
ファンタジー
勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"
その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。
そんなところに現れた一人の中年男性。
記憶もなく、魔力もゼロ。
自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。
記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。
その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。
◆◆◆
元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。
小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。
※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。
表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる