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140 晴天の霹靂
しおりを挟む「なんですかこの珍妙な遊具は」
夕刻の尾白探偵事務所にて、おれが持ち帰った写真を眺めながら素っ頓狂な声をあげたのは学校帰りの芽衣である。
「何って、イルカかニワトリかウマかリスかウサギかイヌ、あるいはその他の動物とおぼしき、ホニャララなスプリング遊具だよ」
「ホニャラララって、そんないい加減な」
依頼の内容を説明がてら子どもたちから得た情報をそのまま伝えると、芽衣が心底呆れ顔。
「でもなぁ、高月市役所の都市創造部公園課にも問い合わせたんだが『スプリング遊具に関してはナンバーで登録されているだけで、何の動物かまではわかりかねます』と言われちまったんだよ」
とりあえず消えた遊具の行方を追うにしても正体がわからないと。
そう考えて市役所に電話を入れるも有益な情報は何も得られなかった。設置された時期は古く、部署の人員はすでに総とっかえされており、当時のことを知る人間はひとりも残っておらず、年齢的にも大半が定年退職を迎えているっぽい。
「いやぁ、じつはうちでも前々から『何だありゃあ』という声は出ていたんですよ。年に何度かお子さまからの問い合わせもありまして。それでいちおう調べてはみたのですが……」
結果は芳しくなく、そのままナゾのまま現在へと至っていると市職員。
「ネットカフェに寄ってざっと画像検索をしてみたんだが、コレはというのは出てこなかったんだよなぁ」
おれはアゴ先の無精ひげをいじりながら、眉根を寄せる。
広大なインターネットの海。
本気で時間をかけて探せば、あるいは答えを得られるかもしれない。
が、さすがに百万件以上もの検索結果のすべてをチェックしていたら、目ん玉がドライアイで干しブドウみたいになっちまう。
で、アプローチ方法を変えることにした。
次におれが探りを入れたのは市内某所にある鉄スクラップなどの買い取りをしている業者のところ。
しかしこちらも空振りの終わった。
妙ちきりんな遊具なんぞを持ち込めば、いやでも目立つ。
盗品の類とわかっていて気づかないフリをして取引をするケースもなくはないが、リスクをともなうので相応のうま味がなければ、業者はまず買い取りに応じない。
そして消えた遊具はひとつきり。大量とかでもなければわざわざ引き取るメリットが業者にはない。
ならばネットオークションとかによる個人売買の線もついでに洗ってみたが、こちらもハズレ。それらしいモノが出品されている形跡はなし。
「だったら四伯おじさん、じつは高名な芸術家の無名時代の作品で、出すところに出せばウン千万円もしちゃうとか」
そんなタヌキ娘の夢のある話におれは首を横にふる。
「いちおう商店街の画廊の店主にも写真を見せて相談してみたんだけど、そんな話は知らんとよ。あそこは店構えこそはこじんまりとしているけど、親子三代に渡る芸術バカだから、人格はともかく見識だけはたしかだ」
「へえー、あのうさん臭いヒゲの画商さん。じつはちゃんとした人だったんですね。ぜったいにインチキだと思ってました」
「おまえ……、頼むから本人にそのこと言うなよ。あの人、サルバドール・ダリの大ファンでヒゲのことをイジられたらブチ切れるんだから」
おれと芽衣は「あーでもない」「こーでもない」と消えた遊具の行方について知恵を出し合う。しかしなかなか「これは!」という妙案が浮かばない。
っていうか、タダ働きなのでいまいちやる気が起きない。
いいや、むしろタダのわりには、けっこうがんばった方だと自分で自分を褒めてあげたい。
だからそろそろ本日の業務は切り上げて、飲みに出かけようかと考えていたときに芽衣が言った。
「でも個人の熱狂的なコレクターとかが犯人でしたら、抱え込んでまず表には出てこないでしょうね」
その言葉を聞き流しているうちに、おれはあることに気がつく。「あっ!」
あわてて写真の中から探し出したのは、犯行現場を撮影したもの。ついでに子どもたちに撮っておいてもらったのだが……。
「犯人、そう犯人だよ。うっかりしていた! 盗られた品の行方ばかりに気をとられていた。よくよく考えてみれば、安全のためにガッチリ土台にはめ込まれて埋められてあるスプリング遊具だぞ。ホイホイ気軽に出来る犯行じゃねえ。
かといってスコップなんぞで掘り出していたら時間がかかり過ぎる。
いくら深夜の犯行だとしても、住宅街のど真ん中にある公園でザクザクやっていたら、誰に気づかれるかわかったものじゃない。だとすれば小型の重機でも使ったはずだ。よし、一丁、そっちの線で追ってみるか」
◇
今後の方針が決まったところで、モヤモヤした胸のつかえがとれたおれは本日の業務を終了とし、そのまま飲み屋にくり出そうとする。
しかしその日に限って、馴染みの店が臨時休業だったり、満席だったり、貸し切りだったり……。
かといっていまさら事務所に戻ってひとり飲みをするのもちょっと。
いい機会だし新規開拓するのも悪くはないが、はてさてどうしたものかとブラついていたら、背後からクラクションの音。
誰かとおもえば覆面パトカーに乗ったカラス女である。
消えた女性銀行員の行方はようとして知れないまま。一昼夜走り回っている安倍野京香の顔にも疲れの色が濃い。
だからだろうか、「あの公園近くの防犯カメラの映像が欲しい」とダメ元で頼んでみたら、あっさり「いいだろう」とのこと。
しかもその場でスマートフォンを取り出し、ちゃちゃっと手配までしてくれた。
カラス女が過大な見返りを求めることもなく、素直に協力要請に応じてくれる。
自分で頼んでおいてなんだが、こんなのありえない!
おれはおもわず空を見上げた。
夜空を移動している点滅はナイトフライトへと赴くツバサ。
うーん、季節外れの雪どころか飛行機でも落ちてくるんじゃねえの?
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