おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
140 / 1,029

140 晴天の霹靂

しおりを挟む
 
「なんですかこの珍妙な遊具は」

 夕刻の尾白探偵事務所にて、おれが持ち帰った写真を眺めながら素っ頓狂な声をあげたのは学校帰りの芽衣である。

「何って、イルカかニワトリかウマかリスかウサギかイヌ、あるいはその他の動物とおぼしき、ホニャララなスプリング遊具だよ」
「ホニャラララって、そんないい加減な」

 依頼の内容を説明がてら子どもたちから得た情報をそのまま伝えると、芽衣が心底呆れ顔。

「でもなぁ、高月市役所の都市創造部公園課にも問い合わせたんだが『スプリング遊具に関してはナンバーで登録されているだけで、何の動物かまではわかりかねます』と言われちまったんだよ」

 とりあえず消えた遊具の行方を追うにしても正体がわからないと。
 そう考えて市役所に電話を入れるも有益な情報は何も得られなかった。設置された時期は古く、部署の人員はすでに総とっかえされており、当時のことを知る人間はひとりも残っておらず、年齢的にも大半が定年退職を迎えているっぽい。

「いやぁ、じつはうちでも前々から『何だありゃあ』という声は出ていたんですよ。年に何度かお子さまからの問い合わせもありまして。それでいちおう調べてはみたのですが……」

 結果は芳しくなく、そのままナゾのまま現在へと至っていると市職員。

「ネットカフェに寄ってざっと画像検索をしてみたんだが、コレはというのは出てこなかったんだよなぁ」

 おれはアゴ先の無精ひげをいじりながら、眉根を寄せる。
 広大なインターネットの海。
 本気で時間をかけて探せば、あるいは答えを得られるかもしれない。
 が、さすがに百万件以上もの検索結果のすべてをチェックしていたら、目ん玉がドライアイで干しブドウみたいになっちまう。
 で、アプローチ方法を変えることにした。
 次におれが探りを入れたのは市内某所にある鉄スクラップなどの買い取りをしている業者のところ。
 しかしこちらも空振りの終わった。
 妙ちきりんな遊具なんぞを持ち込めば、いやでも目立つ。
 盗品の類とわかっていて気づかないフリをして取引をするケースもなくはないが、リスクをともなうので相応のうま味がなければ、業者はまず買い取りに応じない。
 そして消えた遊具はひとつきり。大量とかでもなければわざわざ引き取るメリットが業者にはない。
 ならばネットオークションとかによる個人売買の線もついでに洗ってみたが、こちらもハズレ。それらしいモノが出品されている形跡はなし。

「だったら四伯おじさん、じつは高名な芸術家の無名時代の作品で、出すところに出せばウン千万円もしちゃうとか」

 そんなタヌキ娘の夢のある話におれは首を横にふる。

「いちおう商店街の画廊の店主にも写真を見せて相談してみたんだけど、そんな話は知らんとよ。あそこは店構えこそはこじんまりとしているけど、親子三代に渡る芸術バカだから、人格はともかく見識だけはたしかだ」
「へえー、あのうさん臭いヒゲの画商さん。じつはちゃんとした人だったんですね。ぜったいにインチキだと思ってました」
「おまえ……、頼むから本人にそのこと言うなよ。あの人、サルバドール・ダリの大ファンでヒゲのことをイジられたらブチ切れるんだから」

 おれと芽衣は「あーでもない」「こーでもない」と消えた遊具の行方について知恵を出し合う。しかしなかなか「これは!」という妙案が浮かばない。
 っていうか、タダ働きなのでいまいちやる気が起きない。
 いいや、むしろタダのわりには、けっこうがんばった方だと自分で自分を褒めてあげたい。
 だからそろそろ本日の業務は切り上げて、飲みに出かけようかと考えていたときに芽衣が言った。

「でも個人の熱狂的なコレクターとかが犯人でしたら、抱え込んでまず表には出てこないでしょうね」

 その言葉を聞き流しているうちに、おれはあることに気がつく。「あっ!」
 あわてて写真の中から探し出したのは、犯行現場を撮影したもの。ついでに子どもたちに撮っておいてもらったのだが……。

「犯人、そう犯人だよ。うっかりしていた! 盗られた品の行方ばかりに気をとられていた。よくよく考えてみれば、安全のためにガッチリ土台にはめ込まれて埋められてあるスプリング遊具だぞ。ホイホイ気軽に出来る犯行じゃねえ。
 かといってスコップなんぞで掘り出していたら時間がかかり過ぎる。
 いくら深夜の犯行だとしても、住宅街のど真ん中にある公園でザクザクやっていたら、誰に気づかれるかわかったものじゃない。だとすれば小型の重機でも使ったはずだ。よし、一丁、そっちの線で追ってみるか」

  ◇

 今後の方針が決まったところで、モヤモヤした胸のつかえがとれたおれは本日の業務を終了とし、そのまま飲み屋にくり出そうとする。
 しかしその日に限って、馴染みの店が臨時休業だったり、満席だったり、貸し切りだったり……。
 かといっていまさら事務所に戻ってひとり飲みをするのもちょっと。
 いい機会だし新規開拓するのも悪くはないが、はてさてどうしたものかとブラついていたら、背後からクラクションの音。
 誰かとおもえば覆面パトカーに乗ったカラス女である。
 消えた女性銀行員の行方はようとして知れないまま。一昼夜走り回っている安倍野京香の顔にも疲れの色が濃い。
 だからだろうか、「あの公園近くの防犯カメラの映像が欲しい」とダメ元で頼んでみたら、あっさり「いいだろう」とのこと。
 しかもその場でスマートフォンを取り出し、ちゃちゃっと手配までしてくれた。
 カラス女が過大な見返りを求めることもなく、素直に協力要請に応じてくれる。
 自分で頼んでおいてなんだが、こんなのありえない!
 おれはおもわず空を見上げた。
 夜空を移動している点滅はナイトフライトへと赴くツバサ。
 うーん、季節外れの雪どころか飛行機でも落ちてくるんじゃねえの? 


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】 少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。 次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。 姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。 笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。 なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

処理中です...