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138 ネコまっしぐら
しおりを挟む猫守家の赤枝、黄枝、黒枝、熟女三姉妹に銀の大カギを届け、時計台の情報も伝えると「よくやってくれました」と赤枝から尊大にお褒めの言葉を頂戴する。
で、相手がホクホク顔なのをいいことにそれとなく探りを入れたら、どうやら彼女たちは遺言に関して父である翁が何かをたくらんでおり、それがけっこうヤバそうなモノであることだけは薄々勘づいていたそうな。だがどれだけ手を尽くしても詳細まではわからない。
そこでまずは荒事を得意としているトラ美こと弧斗羅美に声をかけたと。
なるほど、そういった事情でこっちに話が回ってきたのか。
ようやく得心がいったところで「じゃあ、おれたちはそろそろお暇します。報酬は指定の口座の方へ振り込んどいて下さい」と腰をあげる。
でも去り際にサービスでほんのちょっぴりお節介を焼く。
「あー、それで猫守家の今後についてなんだが、あんたたち三人でこのまま手綱を握るのがいいんじゃねえのか? こういっちゃあなんだが、高雄も勝も稔もどっこいどっこいだし、何より翁の血を継ぐ男だからなぁ。猫守家の野郎はいろいろ問題が多そうだし、いっそのことの女系家族に特化したらどうだい?」
白雪をダメ男たちの誰かと無理にくっつけようとしたら、きっとイヤがって彼女は出奔する。追手とか放ったところでオオカミ男の泰造さんにボコボコにされて返り討ち。とてもではないが連れ戻せないだろう。
そうなれば猫守グループは解体、猫守家の人間は経営から手を引くことになる。
となれば末孫娘の三華お嬢さんを巻き込んで、女同士でガッツリ組んでしまった方がまだマシというもの。
この提案に喰いついた三姉妹。額を付き合わせてごにょごにょ相談検討を始めたところで、おれと芽衣はそっと部屋をあとにした。
◇
磨瑠房楼を辞去したおれたちは、ネコ耳メイドロボ零号が運転する黒の高級外車にて最寄り駅まで送ってもらう。あれ? これもいちおう自動運転ということになるのだろうか。
駅前にておれたちを降ろしそのまま館へと引き返すのかとおもいきや、わざわざ駐車場に車を停めてホームまで見送りにくる義理堅いメイドロボ。
「大袈裟だなぁ。そこまでされるとなんだかこっちが照れるぜ」
とか言っているうちに電車が来たので、おれと芽衣は車両に乗り込む。
もう二度と来ることがないであろう猫守駅。
ぼんやり眺めているうちに、電車が出発進行。
ゆっくりと流れてゆく車窓の景色。次第に遠ざかる駅。
なのにホームにネコ耳メイドロボの姿はない。
それもそのはずだ。なぜなら彼女はおれたちのすぐ向かいの席に腰を降ろしているのだから。
いっしょに乗り込んできた彼女に「なにゆえ?」と問えば、「翁さまから用件がすめば、あとは好きにしてかまわないと言われていましたので」とのお返事。肩をすくめてみせる零号。「ぶっちゃけあそこに残っても、いいようにコキ使われるろくでもない未来しか想像できません。見ず知らずの研究者やら学者たちにカラダをいじくりまわされるのもゾッとしますし、いい機会ですので、そちらの街でご厄介になろうかと」
もしも翁の血族のうちの誰かが自ら乗り込んできたのであれば、誠心誠意御奉公するという選択もあったのだが、他人まかせで自分は高みの見物を決め込んだ時点で、その道は自然消滅。
だからどさくさに紛れて家を出ることにしたという。
うーん、これは……。
もしかしたら猫守家の連中は翁が残した最大の遺産を受け取りそこねたのではなかろうか。
まぁ、当人がそれでいいと言ってるんだから問題ない、のかな?
しかし今回はいろんな意味でヒドイ依頼だった。
雰囲気たっぷり陰惨なミステリーっぽい話が、サイエンスフィクションっぽい話になったと思ったら、今度はアドベンチャーな展開になり、怒涛のバトルアクションへと突入し、最後はコメディ。
あらゆる設定、凝った舞台、意味深な登場人物、伏線らしきあれこれ、それらすべてがものの見事にかみ合っていない。
まったくもって「なんだコレ?」である。
おかしいな。当初の予定では、数々の苦難を乗り越え、推理ゲームを制し、最後に「犯人はお前だ!」とビシっと決めて、ついでにヒロインから「おじさま、ステキ、抱いて!」とか言われてキャッキャされるはずだったのに……。いったいどの辺からおかしくなったんだろう。
おれは「こんなハズじゃなかったのに」とボヤかずにはいられない。
すると芽衣が電車に乗り込む前に購入した駅弁を頬張りながら。
「事実は小説よりも奇なりですよ、四伯おじさん。もぐもぐ」
◇
ネコ耳メイドロボを連れて高月へと凱旋したおれたち。
途中、奇異の目にさらされたのは言うまでもない。
京都駅構内での乗り換え時には、観光客たちや修学旅行生たちに幾重にも囲まれてたいそう難儀した。
あげくに荷物のふりして改札を押し通ろうとしたけど、しっかり零号の分も電車料金を徴収された。
「おいおい、ちょっと待てよ。こいつはロボットなんだから手荷物扱いだろう」
とのおれの抗議に駅員が毅然とした態度で「ノー」と言い切る。
「お客さん、冗談もたいがいにして下さい。ロボットだろうが人形だろうがコスプレだろうが着ぐるみだろうが関係ありません。自分の足で動いてる以上は人間相当とみなします」
そんな零号だが尾白探偵事務所にいたのはたったの一晩だけ。
翌日にはもう自分で働き口を見つけて出て行った。
いま彼女は古書店「知恵の森」にて住み込みで働いている。
老店主の母玄福郎は「頼りになるいい子が来てくれた。四伯? あんなしなびた探偵はもういらん」と大喜びだ。
かくして高月中央商店街に新たな珍住人が増え、おれはプチバイト先を失った。
なお猫守家の一族がおれの提案にのって女系化したことは、後日、白雪と三華の連名にて届いたお礼状にて知る。ちなみに時計台に隠されてあったのは、地下施設にも使用されてあったいくつかの新技術のデータ類と究極キャットフードのレシピ。
もともと猫守家はネコ関連の商材にて財を成した一族。
新生・猫守家はネコまっしぐらな新商品により、さらなる飛躍を遂げることであろう。
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