おじろよんぱく、何者?

月芝

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099 高月空中大決戦

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 我ら動物が使う化け術にも、いろんなタイプがある。
 たとえば芽衣のように人間に化けるもの。
 この場合、変態は素体に準拠した容姿となる。けっして好き勝手な姿に化けられるわけじゃない。
 つまりちんちくりんの毛玉が化けたところで、ちんちくりんの小娘になるだけのこと。
 人間には化けられないけれども、物には化けられるタイプもいる。
 または他の動物にだけ化けられるやつもいる。
 そして変わり種なのがおれのようなタイプ。 
 おれは人間に化けて、そこからさらに重ね化けをし自転車やらバイクやらになれる。しかも性能や質量などが本物と遜色ない化けっぷり。これは相当なもの。
 ただし消費カロリーがすさまじく、すぐに疲れてしまうので、あまり長い時間は化けていられないのが玉にきず。

 カラス女より銃口を向けられ「何か空を飛ぶ道具に化けろ!」と無茶ぶりをされたおれがドロンと化けたのは……。
 ハングライダーに三輪車がくっついて、プロペラとエンジンを載せた乗り物。
 モーターハングライダー。
 ハングライダーで逃げた怪盗ワンヒール。
 同じハングライダーになって追いかけたとて、きっと追いつけない。
 ならばどうする?
 と考え、ひねり出した答えがコレであった。

  ◇

 ちょこんと操縦席に収まったのは探偵助手の芽衣。
 無免許で大型バイクを乗り回すタヌキ娘はためらうことなくエンジン全開。「ひゃっほぅ」
 ヘリポートを縦断し助走。
 そのままふわりと浮かんで、地上三十階から飛び立つ。

「あははははは、すごいすごい。街がジオラマみたい。そして人がアリのようだ」

 高さ百メートル以上を飛ぶタヌキ娘は超ご機嫌でハイテンション。
 一方で化けているおれの方は、内心でビビりまくり。「風が、横風がっ! 高い! 怖い! あとなんだかあちこちがスースーする!」

 じつはモーターハングライダー、見た目のもっさり具合とは裏腹に運動性能は極めて高い。時速七十キロほども速度が出る。
 ゆえにたんに風に乗って進んでいるだけのハングライダーなんて敵じゃない。
 すぐに追いついてしまった。

「御用だ! 神妙にしなさい、怪盗ワンヒール」
「………………」

 芽衣の言葉には一切反応せずに、ひたすら前を向いたままで飛び続けている変態紳士。
 何度か呼びかけるもなしのつぶて。
 あまりの反応のなさにかえってこっちが怪訝となる。あんまりにも無視されるもので芽衣がちょっと涙目だ。
 しかしヘンだな。女性相手にはかなり愛想のいい怪盗ワンヒールらしくない態度。いつもなら「へい、モダンガール」とかいって陽気に会話に応じて、オカッパ頭の田舎娘をおちょくるのに。
 もしかして風やエンジンの音で聞こえていないのか?
 っていうか、後方からエンジン音が近づいてきたら、ふつうはふり返って確認するものなのでは……。
 内心で首をひねっているうちにも、ついに並走状態となった逃亡者と追跡者。
 で、芽衣が「あーっ!」と叫んで、おれも「なーっ!」と叫んだ。
 ハングライダーにて空飛ぶ変態。
 中身がニセモノ。出来の悪い等身大の人形だったからである。
 くるくる丸めた毛布のカラダにタキシードを着せて、小さい子どもが遊ぶようのゴムボールの頭がくっついている。
 ボールの表面に油性マジックで描かれたへのへのもへじ。顔がへらへら揺れて、いっとうムカつく。

「うそっ、いつのまに入れ替わったの」
「冗談だろ! 空の上だぞ。イリュージョンにもほどがある。もう、いっそのこと世界に行けよっ! おまえだったら充分に通用する。お願いだから高月から出ていけっ!」

 探偵と助手、おおいに困惑しそこそこ混乱。
 するとそのとき横合いからかなり強めの風がびゅるり。
 ほんの一瞬ながらも叩きつけるようなソイツを受けて、ニセモノが乗るハングライダーの先端がぐらっと傾く。
 近距離にて並走飛行をしていたこっちへと急に流されてきた。

「あっ!」「げっ!」

 夜の高月の街は上空にてもつれあう二つのツバサ。
 危ないのですぐに引き離そうとするも、なぜだかまとわりついてくるへのへのもへじ。
 わちゃわちゃしているうちに高度はずんずん下がり、気づけば早や視界の先には極太な黒帯地帯が!
 高月の地は最南端をかすめるように流れるのは、琵琶湖から始まる一級河川、淀川よどがわ
 流域面積がとてつもなく広く、流域沿いの人口もめちゃくちゃ多い。ようはそれだけ長くて川幅もあり、水量も豊富で流れもけっこうキツイ川だということ。
 かの伊藤若冲が京都伏見から大坂天満橋までの淀川下りの風景を延々と描いた「乗興舟じょうきょうしゅう」がとみに有名。あの写真のネガフィルムのような奇妙な絵は一見の価値あり。

 夜の海とか川って真っ暗。
 ゆえに水の流れが黒帯のように見えたわけ。
 でもって、川の上空ってのは遮るものが何もないから、風も元気いっぱい!
 ふらふらしているところに、上流から下流へと向けて流れる水たちを追いかけるようにして吹く風たちが「おらおら」と容赦なく蹴りをかます。
 あっというまにひっくり返されたモーターハングライダーとニセモノが団子になったシロモノ。
 たちまち失速、浮力たちからあっさりバイバイされて、きりもみしながら落ちてゆく。

 ひゅるるるるるるる………………、ドボン。


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