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059 偽ラブレター
しおりを挟む公立高月東高校。
生徒の自主性を重んじるという建前のもとのゆるい校風。体育と美術と音楽が選択制にて苦手なことを無理強いしない。それでいてそこそこの進学率を誇り、部活動も盛ん。市内および近在から青春を謳歌したい若人が集っている学び舎。
ちなみに男子はむっさい黒の学生服で、女子はセーラー服である。
なおセーラー服のスカーフは一年生が白、二年生が青、三年生が赤となっており、とっても華やか。
お昼休憩中のにぎやかな教室。
仲のいいミワちゃん、タエちゃんと昼食中のこと。
お弁当のフランスパンをガジガジ恵方喰いしていたら、黒板上にある校内放送用のスピーカーからピンポンパンポーン。
『一年三組、洲本芽衣さん。昼食後でけっこうですので職員室まで顔を出してください』
いきなり名指しされた芽衣はモグモグしながら「はて?」と首をかしげる。「うーん、ひょっとしたらこのまえズル休みしたのがバレたのかも」
探偵事務所のアルバイトにて奈良くんだりまで出張したのはいいものの、不測の事態に巻き込まれてしまう。そのせいで結局、丸々一週間も学校を欠席するハメになった。
もしかしたら補講とか組まれるのかもしれない。
「そいつはありえねえ。『生理で体調崩した』ってウソで先公たちは納得してたし。たとえバレたとしても、そんなことでいちいち呼び出しなんかやらねえよ」
リーゼントを整えながら自信満々にそう応じたのはタエちゃん。
本名、白妙幸。
女ながらに気合いの入った金髪リーゼント、ロングスカートに薄いカバンを持ち歩く昭和スケバンスタイルの彼女。すらりと背が高く、目つき鋭く、やや口調はキツイが、さばさばした性格にてなんだかんだで面倒見がいい子。硬派ゆえに売られたケンカは買うが自分からは安売りしない。そして弱い者いじめとかも大嫌い。古き良き学校にはちゃんと通う系の不良なのである。
芽衣とは高校入学式のときに、おのぼりさん丸出しにて勝手がわからずウロウロしていたタヌキ娘を見かねて声をかけたのが縁で仲良くなった。
ちなみにその正体はヘビである。
「さっきの声ってば綾ちゃんだったけど……。補習の課題プリントはちゃんと提出したんだよね? メイちゃん」
メガネのレンズの奥から小さな瞳にてショボショボ、心配そうに見つめてくるのはミワちゃん。
本名、山崎美和子。
いまどき珍しい黒の三つ編みにメガネがよく似合う文学少女風の容姿。地味というか、どこに出しても恥ずかしくないふつうの子。とはいえあくまで文学少女風なだけで、図書委員だとか、文芸部だとか、特別本好きというわけではない。
能力、容姿、思考、その他もろもろがすっぽり平均値におさまっている女子高生にて、極めて常識的な言動をとる。
ちなみに彼女は生粋の人間である。よもや自分の友人たちが動物の化けているモノとは夢にも思っていない。
そんな山崎美和子がどうして白妙幸やら洲本芽衣というキワモノと仲良くなったのかというと……。
これを語るには相当数の文字数と時間を必要とするので、またべつの機会に。
◇
呼び出しを受けた芽衣。昼食をすませてから言われたとおりに職員室へと顔を出す。
そこで彼女を待っていたのは綾ちゃんこと、芝生綾。
現国の教師にて、おっとり美人で、マジメで生徒想いのいい先生。
それゆえに学校の内外にて広く人気がある。生徒たちからは「綾ちゃん」と呼ばれとても慕われている。
綾ちゃん先生から渡されたのは一通のお手紙。
「これは?」
たずねると「召喚状」という言葉が返ってきた。
召喚状……、ご大層な文字面だが、とどのつまりは呼び出し状である。
誰にかとおもえば尾白四伯となっていた。
「四伯おじさん? なんで?」
ハテナマークをいっぱい浮かべてキョトンとする生徒に教師がやんわり言った。
「自立心旺盛な洲本さんが親御さんのもとを離れて、高月に住み当校に通っていることは知っています。そんなあなたが身元引受人であるオジさんに義理立てして、彼が営む探偵事務所にてアルバイトをしていることも。ただ、ちょっと」
深夜の商店街を自転車で爆走したり、繁華街を徘徊したり、歓楽街をみすぼらしいおっさんとうろついていたり、むちむちプリンないかがわしいお店にいっしょに入っていったり、ヘンな煙を吐き出す怪しげな雑居ビルに出入りしたり……。
「あとはオートバイで暴走していたなんて話もあるんだけど。もちろん私は洲本さんのことを信じているわ。でもどこにでもやいのやいの言ってくる人がいてね。それで学校でもちょっと問題になって」
うるさ型とはたぶん教頭先生のこと。教育ひと筋うん十年のオールドミスは年上好きの熟女好きの生徒たちから絶大な支持を受けている人物。
教育熱心であるがゆえに、ちょいちょい生徒だけでなく教師たちも指導する。自分にも他人にも厳格だけれども、愛があるのでなんだかんだで慕われている。
教師陣の充実ぶりもまた高月東高校の魅力のひとつ。
でもって、ここいらでちょいと保護者にちくりとクギを刺しておこうとなった次第。
身に覚えがありまくりの芽衣は「アハハハハハ」と乾いた笑いにて、ついと目をそらした。
◇
職員室を辞去した芽衣。
教室に戻るなりすぐにタエちゃんとミワちゃんから「大丈夫か?」「どうだった?」と詰め寄られて、かくかくしかじか。
するとこれをゲラゲラ面白がったのがタエちゃん。
タエちゃんは側にいたクラスの女子たちに声をかけ、分けてもらったのはかわいらしいピンクの便箋。
でもって、これにミワちゃんに文字を書きかきさせる。
表には尾白四伯さまへ。
裏には芝生綾より。
見た目だけならばラブレターにしかみえない仕様にして、便箋の中に丁寧に召喚状をおさめ、トドメにハートマークのシールで封をした。
男心をもてあそぶイタズラ爆弾を手に入れた芽衣は、さっそくその日の放課後に事務所に顔を出してこれを投下。
一部始終をスマートフォンにて撮影。
その映像は翌日教室にて公開された。
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