おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
44 / 1,029

044 親の因果が子に祟る

しおりを挟む
 
 入り組んだ街の中、車幅ギリギリの細い路地を疾走する白のライトバン。
 運転席に座る相手をおれはおもわず二度見!
 メイドさんがハンドルを握っていた。ちゃらちゃらした雰囲気は皆無。たぶん本物だ。
 そんなメイドさんからバックミラー越しに目礼をされて、おれはちょっとドギマギ。

「あっ、あなたは」

 驚く一条卯之助。どうやら彼は彼女のことを知っているらしい。
 だが「ご挨拶はのちほど」とメイドさんがぴしゃり。
 運転に集中したいのだろう。察したおれたちはおとなしくシートに身を預ける。
 まぁ、カラス女がどっかと後部座席にてふんぞり返っていることからして、ここは任せていいのだろう。
 なお芽衣は空腹ゆえにぐったりしている。うまそうなニオイだけをかがされて、食べそこねた天理ラーメン。殺生な目にあわされてよほどこたえたようだ。その気持ちはおれにもよくわかる。

  ◇

 ライトバンがどこをどう進んでいるのか皆目見当もつかない。
 ただでさえ土地勘のないところに加えて夜間、しかも抜け道や裏道の類を選んで走っているからなおのこと。
 四十分ほども走っただろうか。
 ようやくクルマが停まったのは、とある寺の裏手。
 メイドさんに案内されるままに通されたのは、敷地内にある離れの一室。
 タタミにて十畳ほどの部屋。文机があり、丸窓があり、床の間があり、一輪挿しやら掛け軸やら。障子を開けた向こうに見える中庭にはコケむした景色と小池があって、時おり鹿威ししおどしがカコンと鳴る。
 いかにも時代劇に登場しそうな場所に匿われたのは、おれこと尾白四伯、タヌキ娘の洲本芽衣。カラス女の安倍野京香、シカ青年の一条卯之助。
 ここまでおれたちを連れてきたメイドさんは、しばし姿を消していたと思ったら、食べ物が入ったビニール袋を持って戻ってきた。

「すみませんが、ヘタに飲食店に出前を頼むとここを嗅ぎつけられる恐れがありますので、本日のところはこれでガマンしてください」

 出し並べられたコンビニ弁当を前にして、おれは嘆息。「やれやれ。結局こうなるのかよ」
 しかし背に腹はかえられないのでありがたく頂戴する。「いただきます」

  ◇

 和気あいあいとは程遠く、ガツガツ飢えた野良犬のごとく無言で食事をすませたおれたち。
 腹がくちたところで、ようやく自己紹介とあいなった。

宇陀小路瑪瑙うだのこうじめのうです。以後お見知りおきを」

 そう名乗って静かに頭を下げたメイドさん。シカが化けている女性。
 黒髪を三つ編みに結っており、銀縁メガネがたいそう凛々しい。いかにも仕事のデキる大人のメイドといったたたずまい。所作も洗練されている。
 ロングスカートのシックなデザインの衣装には、余計なひらひらは一切なし。華美は最小限にとどめあくまで機能が優先されている。
 年齢はちょっとわからない。見た目だけならば二十代後半、でもその落ちつきぶりからは四十前後の大人の女の色気を感じさせる。とにかくミステリアスなメイドさんだ。高月の歓楽街にいるなんちゃってもどきとはモノがちがう。
 そんな瑪瑙さんなのだが……。あー、これって当人がそう呼べといったからであって、けっしておっさんが図々しくも馴れなれしくしているわけじゃないから。
 で、この瑪瑙さん、じつは鹿島家のお嬢さま、紗月さん付きのメイドさん。
 瑪瑙さんがどうしておれたちを助けてくれたのかというと。

 阿呆な父親の思いつきによって、嫁獲り競争の景品にされてしまった哀れなお嬢さまは現在、屋敷にて絶賛軟禁状態。
 そんな彼女の耳に聞こえてきたのが葛王司(かつらおうし)の卑劣な行いの数々。
 ふつうであればこんな不正は許されないはず。
 が、そこはそれ、しょせんは動物のすることなので。
 それもこれも実力のうちと開き直られては、「うーん」となってしまう。
 惜しむらくは伝統行事の規約のどこにも「やっちゃダメ」とは書かれていなかったこと。
 もしかしたらそのせいで毎度毎度トラブルが起きて、伝統行事というわりには長らく実施されていなかったのでは? と勘繰りたくなるほどのザル具合。
 だからとて、よもやそれを逆手にとって臆面もなく卑怯な手段に走ろうとは。
 ぶっちゃけ葛王司は男の株をさげまくっており、底を打っているような状況。そのせいで裏では「クズ王子」と揶揄されているほど。
 ふつうの神経であればこんな屈辱にはとても耐えられない。だがヤツの暴走は止まらない。
 実家をも巻き込んで、あちらこちらに圧力をかけてのやりたい放題。
 そうまでして紗月を手に入れたいのか、たんに意固地になっているだけなのかはわからない。だが、とにかくまともじゃない。
 そしてそんなことに奈良はシカ王国屈指の名門の家が、どうして加担しているのかというと、因縁は父親の代にまでさかのぼる。
 クズ王子の父親もまた、かつて若かりし頃にとある一頭の牝シカに恋焦がれたことがあった。
 それが誰あろう紗月の母親であったのだ。
 が、結果はごらんのとおり。
 つまりクズ王子の父親である葛家の現当主としては、かつて自分に煮え湯を飲ませたにっくき恋敵が、鹿島紗月の父仁左衛門であったわけ。
 これにブチリと切れた。「父子そろってバカにされてたまるかっ!」
 かつて自分は叶えられなかった想いを息子には遂げさせてやろうという、親心というよりかは完全にみっともない逆恨みの私怨。
 かくして馬鹿と阿呆がくんずほぐれつ。奈良はえらいこっちゃ、という状況に。
 そんなさなかに幼馴染みの一条卯之助の身が危ういと知り、紗月の命を受けて瑪瑙さんが窮地に馳せ参じたという次第。

 瑪瑙さんから話を聴いた一条青年は「えっ、紗月がボクのために」なんて喜色を浮かべるものの、おれはげんなり、芽衣はスピーと途中から鼻ちょうちん、でもってカラス女は「みんな死ねばいいのに」とぼそり。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートの威力はすさまじくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...