おじろよんぱく、何者?

月芝

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022 屯田団地

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 高月の街のいいところ。
 市バスはどこまで乗っても料金が一律二百十円なところ。なお子ども料金は百円だ。
 とはいえ、おれと芽衣の二人分だと往復で八百四十円にもなる。ショーンに払う分も合わせるとこれは地味に痛い出費だ。
 しようがない、帰りは自転車にでも化けるとしよう。
 なんぞと考えつつバスに揺られること二十分ほど。
 目的の屯田団地行きのバスは終点へと到着。
 平日の午後三時前後という中途半端な時間帯ということもあって、バスはガラガラだった。
 虫取り網を持ったおれが先にバスを降り、つづいて芽衣がトリカゴ片手にぴょんと飛び降りた。

「さてと、お目当ての場所は……っとアレか」

 周囲をキョロキョロするまでもなく、目に入ったのはデーンとそびえる砦のような建造物。
 あれが変電所。壁の高さがその辺の一戸建ての屋根よりも高く、おまけに壁の上には有刺鉄線まで張り巡らされていやがる。クルマで体当たりしても破れそうにない鉄の扉。そして壁の向こうには物々しいコンクリートの塊。
 間近にするともの凄い威圧感がある。
 本当にこの建物内では電気だけをあつかっているのだろうか?
 そう疑いたくなるような堅牢な造り。

「うわー、なんですかこれ? まるで悪の秘密結社みたいです」

 芽衣の率直な感想にはおれもうなづかざるをえない。
 そんな変電所施設を越えた先にてちょこんと仲良く並んでいるのが、屯田団地の九十七棟と九十八棟。
 国語辞典を横に立てたかのような姿は鉄筋コンクリート製の五階建て。
 エレベーターはなし。
 階段を挟んで左右に五戸ずつ。マンションやアパートなどのように横につながる廊下はなく縦だけの構成。そのせいで階段が異なる別の五階の部屋を訪ねるには、いちいち下までおりてからまたのぼる必要がある。
 その階段が今風のやさしい仕様ではなくて、どこぞのお城の天守閣へと通じるかのような急なもの。そのせいなのか屯田団地の住人たちは、やたらと太ももやふくらはぎの筋肉が発達しているとかいないとか。
 ひと棟につき階段が四本あるから、建物一つにつき計四十戸。
 すべての部屋がまったく同じ間取りにて2DK。
 ダストシュートはあるが昔にけっこうな事故を起こしてからは使用禁止となり封印されている。
 どうしてこんなに屯田団地について詳しいのかというと、おれが高月の地へと流れついたときに物件探しのおりに調べたから。
 環境や家賃などの条件は良かったのだが事前審査にはねられた。ちくしょうめ!

  ◇

 おれと芽衣はまず九十八棟の正面付近を調べる。
 団地の前面は道路を挟んで横一列の駐車場になっている。その周辺に植えられてある木々は緑豊かな環境を演出するためのもの。
 手分けをして次々と木を調べてゆく。
 おれはくわえタバコにて根元に立ち、見上げては枝葉のあいだに九官鳥の姿を探す。
 あのオレンジのくちばしはとにかく目立つ。それを目当てに視線を彷徨わせるも、それらしい姿はどこにもない。
 身の軽い芽衣はするする木登り。
 うん? タヌキって木登りが得意だったっけか。アライグマはそんなイメージがあるんだが、はて。
 高みから周囲を探ってみるがやはり成果はなかったらしく、芽衣はすぐに降りてきた。
 そこで今度は九十八棟の裏へとまわってみる。
 こちらは空き地となっており、建物のそばには花壇やらちょっとした畑なんぞが作られている。
 団地の裏手は放課後ともなれば元気なガキどもの絶好の遊び場になるのだが、少しばかり時間が早いせいか、いまはまだ誰の姿もない。
 こちらにも何本か木があるので調べてみるも、結果は落胆。
 九官鳥どころかハトの一羽すらも見つけられなかった。
 だからもう少し捜索範囲を広げてみることにする。
 おれは近くにある公園へ、芽衣には九十七棟の方をまかせた。

  ◇

 ……が、公園付近にも求める相手の姿はない。

 ベンチでボーっとしているじいさんにも声をかけてみたが「わしゃ知らん」とのこと。
 せっかくだからと滑り台にのぼってシャーッと滑り降りてから、ブランコに揺られて風を感じ、シーソーは無視して、ジャングルジムの頂きをも制す。
 しかしヤツはいない。

「プリペーラ・オンブレ、どこに行きやがった」

 おれはぶつぶつ文句を垂れながら、二本目のタバコに火をつけたところで奇妙な光景を目撃する。
 それは大中小、三人組の男たちであった。
 容姿がそっくりの青年たち。なのに背丈だけが異なっている。三つ子かと思ったが、たぶんよく似た兄弟なのだろう。なかなかにインパクトのあるやつらだ。
 はじめのうち、三人組をおれはただ「おもしろいなぁ」とにやにや眺めていた。
 だが連中の動きを目で追ううちに、あることに気がつく。
 大きな男がワシやタカでも入れるのかというようなバカでかいトリカゴを背負っている。
 中くらいの男が幅広な手網を持っている。釣りとかで使いそうながっちりしたモノ。
 小さい男は首から双眼鏡をさげている。サイズからしてバードウォッチング用とおもわれる。
 そんな三人組がキョロキョロ、うろうろ。
 なにやら既視感のある姿におれは「むむむ」と男たちを凝視。
 すると小男が持つ双眼鏡がこっちを向いて、相手もこちらを視認した。
 とたんに風にのってぼそぼそと聞こえてきたのが……。

「うぉ! あんなところにヘンな男がいるぞ」
「本当だ。いい歳してジャングルジムなんかで遊んでるよ。ぷぷぷぷ」
「しっ、笑っちゃダメだ。きっと会社をリストラされて黄昏ているんだ。だからそっとしておいてやれ」

 ボロクソであった。
 だが、これこそが客観的に見た今のおれの姿でもある。
 公園のベンチにて座ったままのじいさんへと顔をむけたら、ムスっとしたままにてコクリとうなづかれた。
 あれ、なんでだろう。
 タバコの煙がやたらと目に染みやがる。


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