23 / 33
23 動き出す者 Ⅱ
しおりを挟む長姫レベッカ。
彼女の容姿や能力は妹らとどっこいどっこいながらも、母親の家の格がわずかに低いというだけで周囲から一段低く見られていることに、内心ではずっと業腹しており、長女である自分こそが次期女王に相応しいと思い込んでいる娘。
そんな彼女だが年齢的な問題ゆえに、勇者争奪戦においては一番不利に立たされる。実際には丁度つり合いがとれるぐらいなのだが、「男は若い女を好む」という一般論が彼女を不安にさせているようなので、顔を合わせる度にそこをちょいと突いては神経を逆なでし続けてやった。
そして頃合いを見計らって、私は彼女が喜ぶ言葉を投げかける。
「貴女さまにこそ次期女王の座は相応しい。ですが王は年齢を理由に候補から除外するおつもりらしい。なんと愚かなことか! 国益を損なうに等しい選択だ! 勇者という強大な乗り物を御するには、レベッカさまのような器量がなければいけないというのに。なによりガトーが気の毒だ。好いた御方と一緒になれずに、意に沿わぬ相手との婚儀を強いられることになるのだから……」
もっとも玉座に遠いということを知らされて意気消沈しているところに、思いもよらなかった事を知らされてレベッカの心が大きく波打つ。彼女の表情を見ていればそれが手に取るようにわかった。ちなみにそんな事実はない。完全なでっち上げである。
実は密かに勇者から慕われていた……。
そのことを知って表面上は取り繕っているが、ソワソワとしていることを隠しきれない長姫。
このままでは暴虐な王のせいで、二人は一緒になれない。
勇者と姫君の悲恋物語。
さながら自分が悲劇のヒロインにでもなったかのような心持ちであろう。
そんな彼女の耳元で私は囁く。
「このままでは民も国も勇者も、そして貴女さまも不幸になる。だからお立ちなさい。なあに、かまうものですか。かつてジェニング王がやったことと同じことをするだけでいいのです。知っていますか? 近頃では王のなさりように巷には怨嗟の声が溢れているということを。だからこその好機なのです。今ならばきっと民衆は貴女さまを厚く支持なさいます。きっと喝采をもって英邁なる新女王を迎え入れてくれることでしょう」
私の言葉を受けて、レベッカの瞳に妖しい光が燈るのを見届けてから辞去する。
盛大に焚きつけたので、放っておいても勝手に燃えあがるであろう。
王城へと戻る途中で、市井に紛れている仲間のうちの一人と連絡をとる。
彼の一派には勇者の動向を見張るように頼んであった。とはいえ通常の尾行では気づかれるので丸一日遅れにて、ガトーの軌跡を辿るという消極的なものではあったが。実際にそれぐら距離をあけてさえなお、追跡者の気配を悟られる恐れがあるのが勇者なのだ。
報告により無事に故郷に向かっているということ聞き安堵する。
あとは王都と彼の故郷を結ぶ中間地点に仲間を配置して、こちらからの情報の一切を遮断する算段だ。
ジェニング王が調子にのってルイを引き回しの上で、その首を刎ねた。
勇者の元妻のシーラも同じ日に火災で自死を遂げた。
これらを知ったガトーがどう動くかがまるで予想がつかない。
怒ってこちらに剣を向けるか? それならそれで別にかまわない。王国と聖剣の勇者が揉めるだけのこと。我らはそれを高みの見物するのみ。
だがちょうどいい具合に国内が揉めているところに駆けつけられて、これを納められるのは困る。せめて五つの陣営で内乱が勃発して、見かねて他国が介入してくるぐらいまでの時間は稼ぎたい。そのための情報封鎖だ。
我らは数こそ少ないが強い。仲間たちはきっと成し遂げてくれることであろう。
これにより布石はすべて整った。後は待つだけでいい。
1
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる