聖なる剣のルミエール

月芝

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23 動き出す者 Ⅱ

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 長姫レベッカ。
 彼女の容姿や能力は妹らとどっこいどっこいながらも、母親の家の格がわずかに低いというだけで周囲から一段低く見られていることに、内心ではずっと業腹しており、長女である自分こそが次期女王に相応しいと思い込んでいる娘。
 そんな彼女だが年齢的な問題ゆえに、勇者争奪戦においては一番不利に立たされる。実際には丁度つり合いがとれるぐらいなのだが、「男は若い女を好む」という一般論が彼女を不安にさせているようなので、顔を合わせる度にそこをちょいと突いては神経を逆なでし続けてやった。
 そして頃合いを見計らって、私は彼女が喜ぶ言葉を投げかける。

「貴女さまにこそ次期女王の座は相応しい。ですが王は年齢を理由に候補から除外するおつもりらしい。なんと愚かなことか! 国益を損なうに等しい選択だ! 勇者という強大な乗り物を御するには、レベッカさまのような器量がなければいけないというのに。なによりガトーが気の毒だ。好いた御方と一緒になれずに、意に沿わぬ相手との婚儀を強いられることになるのだから……」

 もっとも玉座に遠いということを知らされて意気消沈しているところに、思いもよらなかった事を知らされてレベッカの心が大きく波打つ。彼女の表情を見ていればそれが手に取るようにわかった。ちなみにそんな事実はない。完全なでっち上げである。
 実は密かに勇者から慕われていた……。
 そのことを知って表面上は取り繕っているが、ソワソワとしていることを隠しきれない長姫。
 このままでは暴虐な王のせいで、二人は一緒になれない。
 勇者と姫君の悲恋物語。
 さながら自分が悲劇のヒロインにでもなったかのような心持ちであろう。
 そんな彼女の耳元で私は囁く。

「このままでは民も国も勇者も、そして貴女さまも不幸になる。だからお立ちなさい。なあに、かまうものですか。かつてジェニング王がやったことと同じことをするだけでいいのです。知っていますか? 近頃では王のなさりように巷には怨嗟の声が溢れているということを。だからこその好機なのです。今ならばきっと民衆は貴女さまを厚く支持なさいます。きっと喝采をもって英邁なる新女王を迎え入れてくれることでしょう」

 私の言葉を受けて、レベッカの瞳に妖しい光が燈るのを見届けてから辞去する。
 盛大に焚きつけたので、放っておいても勝手に燃えあがるであろう。
 
 王城へと戻る途中で、市井に紛れている仲間のうちの一人と連絡をとる。
 彼の一派には勇者の動向を見張るように頼んであった。とはいえ通常の尾行では気づかれるので丸一日遅れにて、ガトーの軌跡を辿るという消極的なものではあったが。実際にそれぐら距離をあけてさえなお、追跡者の気配を悟られる恐れがあるのが勇者なのだ。
 報告により無事に故郷に向かっているということ聞き安堵する。
 あとは王都と彼の故郷を結ぶ中間地点に仲間を配置して、こちらからの情報の一切を遮断する算段だ。
 
 ジェニング王が調子にのってルイを引き回しの上で、その首を刎ねた。
 勇者の元妻のシーラも同じ日に火災で自死を遂げた。
 これらを知ったガトーがどう動くかがまるで予想がつかない。
 怒ってこちらに剣を向けるか? それならそれで別にかまわない。王国と聖剣の勇者が揉めるだけのこと。我らはそれを高みの見物するのみ。
 だがちょうどいい具合に国内が揉めているところに駆けつけられて、これを納められるのは困る。せめて五つの陣営で内乱が勃発して、見かねて他国が介入してくるぐらいまでの時間は稼ぎたい。そのための情報封鎖だ。
 我らは数こそ少ないが強い。仲間たちはきっと成し遂げてくれることであろう。
 これにより布石はすべて整った。後は待つだけでいい。



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