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20 魔女と呼ばれた女 Ⅱ
しおりを挟む昼夜を問わずに行われる嫌がらせに、すっかり怯えていた私は必要な買い出し以外には、極力、家の中から出なくなる。
その日、朝から表がなんとなく騒がしくて目が覚めた。
窓からそっと外の様子を伺ってみると、人々が連れだっては大通りの方へと向かっていくのが見えた。ガヤガヤと騒がしい彼らから漏れ聞こえてきたのは、罪人が市中引き回しの上に、公開で首を刎ねられ広場にて晒されるという話。
王都ではたまに行われる血の儀式。あまり趣味が良くないので私は好きではないのだが、残念なことにこれを愉しみにしている野蛮な人も少なくないらしい。
勇者関連がようやく収まったと思ったら、今度は処刑騒ぎ。
心底ウンザリした私は、そのまま自室に戻り寝なおすことにする。
ここのところ酔払いどもが面白がっては、夜更けにうちの玄関扉をドンと蹴るので、そのたびに起こされて寝不足なのだ。王都中の人々が公開処刑の方に注目してくれるのならば、しばらくは静かになるだろう。
夢の中で私はルイの腕に抱かれていた。
そんな幸せな夢の世界から私を引き戻したのは、またしても表から聞こえてくる人々の気配であった。
気だるげにベッドから抜け出すと、すでに世界が茜色に染まっていた。どうやら夕方までグッスリと寝入っていたらしい。久しぶりにちゃんとした睡眠がとれたので、気分がいい。
外は風が強いのか窓がガタガタと震えて音を立ている。窓にそっと近づき表の様子を伺う。すると朝とは逆の人の流れがあった。どうやら公開処刑が終わったのであろう。見物に行っていた人たちが家路についている。でもそんな人たちのうちの興奮した数人が発していた言葉を耳にして、私は呆然自失となった。
「ざまぁ見やがれってんだ。俺たちの勇者さまを裏切るだけじゃなくって、勇者さまに支給されるはずの金までちょろまかしていたなんて、ふてえ野郎だぜ」
「まったくだ。ルイなんとかって奴、あれでよく騎士さまを名乗れたもんだな」
「国賊めっ! 近衛隊の面汚しだな。他にも色々と悪事を重ねていたようだぞ」
「そりゃあ、温厚な王様も激怒するわな。晒し首にもなるってもんだ」
「面だけはよかったからなぁ。あちこちで派手に喰い散らかしていたんだとか」
「カーッ! 結局は顔かよ。これだから女ってやつは」
「あのツラで勇者の親友で近衛の騎士なんて肩書まであったら、たいていの女がコロっと騙されるってもんよ」
私は自分の耳を塞いで、その場にしゃがみ込んだ。
カタカタと体が震えるのを止められない。
ルイが死んだ? 公開処刑されて首を晒されている? どうして……。
そんなハズない。確かに私と彼は罪を犯した。さりとて公開処刑されるほどの罪ではない。あくまで夫婦間の問題であるはずだ。しかもすでに当事者同士が納得して別れているというのに、なのにどうしてルイが処刑されなければならないの? わからない、わからない、わからない、頭の中にいろんな感情が渦巻いてぐちゃぐちゃになって、思考が定まらない。声にならない声で彼の名前を呼び続けながら、溢れてくる涙を流し続けることしか出来ない。
夕方から強くなり始めていた風は、夜更けにかけてますます勢いを増し、嵐のような様相を呈する。
そんな中にあって、ルイの首はポツンと広場に晒されてあった。
周囲には誰もいない。
見張りすらも付けられていないということは、好きにしろということ。
ゆえに心無い民衆に石でもぶつけられたのか、ところどころに傷がついており、昔日の美貌は大きく損なわれている。だがそれは紛れもなく彼の首であった。
かつて私を見つめ、甘い言葉を囁き、愛していると言ってくれたルイが、物言わぬ姿にて冷たくなっている。
側の立て看板には王の署名入りにて彼の罪状がつらつらと書かれてあったが、私とのことや友人を裏切っていたこと以外は、全部が全部でたらめであった。
きっと死者を貶めることで、刑罰を行ったことを正当化するためなのであろうが、あまりにも酷い仕打ちである。
私はルイの首をそっと抱きしめると、そのまま自宅へと持ち帰る。
嵐の夜道を愛しい人の首を抱き抱えながら歩く。
そういえば彼とこうして二人で外を歩くのなんて初めてのこと。
愛しさが込み上げてきて、思わずギュッと彼を強く抱きしめ、その額に口づけをした。
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