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12 王の側近 Ⅰ
しおりを挟む我々は強い。
だが個体数は圧倒的に少なく、大地は広大で人間たちはあまりにも多すぎる。
それに奴らには忌々しい聖剣と勇者がある。
破壊することもかなわぬ神の剣。それを手にした勇者は我らをも凌駕する存在となる。あれはもはや人間などでは断じてない、化け物の類であろう。しかも多大な犠牲を払いなんとか始末したとて、すぐに替わりが選定されるので戦う意味がない。
だから我らは考えた。
破壊することも葬ることもかなわないのならば、せめて監視し行動を把握し、自分たちにとってより望ましい未来へと誘導しようと。
王国内には多数の味方が入り込んで市井に紛れている。
自分もその一人だ。人間に擬態できる能力を活かし、潜入活動に従事している。
そうして首尾よく時の王であるジェニングの目に留まり、旗下に納まることに成功した後は、不本意ながらひたすら彼の期待に応え続け、ついには信任厚い側近の地位にまで昇り詰める。
彼の王は自分を賢いと思い込んでいるが、自分からすれば精々が凡王止まりであろう。本当に賢いのであれば無用な争いを引き起こすような真似はしまい。
結局、ジェニング王は他者を踏みにじり排することでしか、己を誇示できない類の人間なのだ。もっともらしい言い訳に「国のため」との御題目を掲げるが、それとても自身の虚栄心を満たすためのことにすぎない。
そんな者が聖剣の目覚めと勇者の出現を受けて、身の丈に合わない欲をかいた。
勇者を取り込む?
ふふふふ、阿呆なことを言い出したものだ。
どうして歴代の勇者らが王国の中枢と結びつかなかったのか、きっと奴は知らないのであろう。もしも知っていたのならば、おいそれとそのような行動は起こさないはずだ。
血を分けた兄弟らを殺めてまで手に入れた玉座。簒奪にも等しい行為のツケとして、重要な情報が先代より伝達されなかったようだな。この分だと王国と各国とで結ばれている密約についても知らぬようだ。
これは都合がいい。
過去には幾人も同様なことを目論む者がいた。だがその都度、邪魔が入ったのだ。
王家が必要以上にチカラを持つことを危惧する一派が動くこともあったし、我々が横やりをいれたことも一度や二度ではない。勇者が個として存在しているうちはまだ許せるが、これに国や王という要素が加わることは許容できない。
チカラと権力が結びつくことを良しとしない。王国がこれ以上、のさばるのを嫌う諸外国も多い。王国がそれらから裏でなんと呼ばれているのかなんて、きっとジェニング王は知りもしないのであろう。
「聖剣頼みの国」それが外部からの、この国の評価なのだ。
聖剣の恩恵ゆえに守られた温室。
彼は知っているのであろうか、他の国々が必死になって知恵を絞り災禍と対峙していることを。それゆえに急速に発展し続けているということを。
ここは表面上の国力こそは旺盛だが、その本質はまるで腐った果実だ。放っておいても勝手に生えてくるから、丁寧に育てることも守ることも収穫することもしない。実っては適当にもいで、喰い散らかし、大部分が腐り落ちるにまかせるを延々と繰り返すのみ。
そんな国の頂点に立つ男が奇妙なことを言い出す。
「勇者を娘の婿に迎え入れるために、妻を排除しろ。ただし禍根を残さぬようにあくまで自発的に離れるように仕向けよ」
自分はこれを利用することにした。
途中までは愚王の思惑通りに運んでやろう。だがラストは違う演出を施す。それによって勇者は国を去り、王国は衰退の一途を辿ることになるであろう。
聖剣と勇者に関しては「直接関わるな」との厳命を上の御方から受けている。下手に敵対なんぞをして、こちらの正体がバレるだけでなくて、根絶やしにされかねないとの考えのようだ。
それほどまでに勇者のチカラは恐ろしい。上の御方だけでなく、他国が警戒するのも当然だ。だから表だって行動はせずに、どこまでも水面下から仕掛ける。自分が直接関与することもしない。徹底して人を介し、ことを運ぼう。
なあに、きっと上手くいくさ。王は私を信じきっている。なにせ自分で私を見出し育てたと勘違いをしているのだから。
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