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47 武闘会二日目、そして地獄の蓋が開く。
しおりを挟むぶっちゃけていい? 大会の決勝戦は剣聖さんと流星さんの対決になった。
どちらも一進一退の攻防だったらしいんだけど、最後の最後で剣聖さんに運が傾いた。なんと流星さんの剣が砕けちゃった。
準決勝で当たったアデルくんとの闘いで、どうやら気づかぬうちに愛用の剣にダメージが蓄積されていたみたい。
互いの渾身の一撃同士がぶつかった拍子にそれがパキンとね。
いかに伝説の女冒険者さんとはいえ無手で大剣豪と戦えるわけもなく、彼女はそこであっさりギブアップ。こうして優勝は下馬評通りに剣聖さんに、そして私も微々ながら賭けの配当金の恩恵を受けることになりました。
いくらなんでもダイジェストが過ぎるだろうですって? こちとらそれどこじゃないんですよ! 大会の後には地獄の後夜祭が待っているんです!
後夜祭といっても二種類あるのです。
お城の上の方で開かれる決勝トーナメント出場者たちと貴人らが参加してキャッキャうふふする優雅なパーティーと、予選参加者やら一般の人たちが入り混じって行われる立食形式のパーティー。そちらが城の大庭園の一角を開放して行われるもんで、その準備でウチは大わらわ。
なにせ来場者らの八割が体育会系、しかもめったに味わうことの出来ない王城の料理を愉しめるとあって、みな気合十分で腹をすかして乗り込んでくるのです。
百戦練磨のラメダさんや職場のお姉さま方からして「アレは悪夢だ……」と遠い目をさせちゃうほどの修羅場。料理が入った大皿に群がる飢えた獣ども。出した端から空になり、もっと寄越せと轟き叫ぶ。ある意味、予選のバトルロイヤルよりも激しい闘いが繰り広げられるという。
しかも酒と食い物が絡んでいるので性質が悪い。
毎回、そこかしこで乱闘が必至なのだとか。そのくせちょっとでも料理が滞ると、途端に一致団結して食器を打ち鳴らし「メシよこせ」コールの大合唱。
例え空よりも広く海よりも深い慈愛を持つという聖女さまでも、きっとぶち切れると言わしめる、そんな状況を少しでも緩和するために、ウチは一丸となって事に当たっているのです。正直、他人の色恋に首を突っ込んでいる暇なんて微塵もありません。
皮をむいてもむいても芋の山がなくならない。ピーラーがすでに三個もお亡くなりに。このペースだと手持ちの弾が先になくなりそうな勢いです。お姉さま方も包丁を手入れしている暇がないので、使い捨て状態で次々と取り換えているような状況。
「いっそのこと眠り薬でも盛って全員黙らせましょう」
あまりの大変さゆえに思わずそんな言葉が私の口から飛び出します。するとラメダの姉御がしばし考え込んだ。駄目だ! すでに上司の思考もブラックに流れつつある。それだけ彼女も追い詰められているということ……、こいつはいよいよヤバイかもしれません。
先日と同じように臨時報連相委員会のメンバーたちが、次々と続報を持ってきてくれるのですが、ほとんど耳を傾ける余裕がありませんでした。
だから詳細は後日、クノイチさんにお願いすることにして私は職務に邁進する所存です。それから今回を無事に乗り切ったら、私はじっちゃんと共に大量の食材を処理できる便利グッズの開発に着手する所存です。
武闘大会の興奮も冷めやらぬまま、王都中がお祭りムードにて一夜を過ごし、陽が昇ると当然のごとく夕方には尊顔を隠し、ついに悪夢が幕を開け、地獄の蓋が開く。
やれることは全部やった、あとは野となれ花となれ。と開き直った私の気持ちをあっさりと打ち砕き、踏みつぶし、念入りに粉々にして吹き飛ばす残酷な現実。
こちらの見通しが甘かったのだろうか? いや、そんなハズはない! しいて原因を上げるとするならば剣聖と流星が出場した影響がこんなところにも及んだということ。
伝説級の人物が二人も出揃う。その姿をひと目見ようと、あるいは願わくばその強さの一端にでも触れたいと思った武芸者どもが、通常の大会よりも多く集った。参加者数が歴代屈指となり、そのしわ寄せがすべてこちらに押し寄せた。
城内のお姉さま方の楽しみにしていた、ウフフな色恋ネタの大部分を潰しただけでは飽き足らず、コツコツと裏で頑張っていた私たちにまでこの仕打ち……、まさに鬼畜、まさに外道。おのれ剣聖と流星めっ! そんな恨み節すらもチカラに換えて私たちは頑張りました。
テーブルに並べる前に運んでいる途中で我先にと料理に群がって来る野郎どもを、私が片っ端から容赦なく蹴り飛ばし、厨房では連日の疲れがピークに達したお姉さま方がケタケタ奇声を上げながらフライパンをふるい、お鍋をかき回す。ラメダさんはすでに無念無想の境地にて中華鍋と真摯に向き合い、淡々と料理を吐き出すだけの機械人間と化していた。
お城の上層部にて一部の方々がキャッキャうふふと優雅に過ごしている、その足下には確かに地獄があった。喰っても喰っても満たされることのない亡者どもが集う餓鬼地獄が。
そしてそんなところにまで律義に情報をもってくる臨時報連相委員会の伝令たち。なんだか上の方の会場では色々と面白イベントが進行していたそうですが、最下層の底を這いずり回っている住人にはキラキラ光る天界の様子なんて、眩しすぎて涙が滲んでちゃんと見えやしないよ。
だからせめてもの道連れにと途中から、伝令の方々を「相互補助の精神にのっとり」強引に厨房に引きずり込んでやりました。なにせ洗いモノを片づける手はいくらあっても困らないので。
どんなに絶望的な状況でも、決して自棄になってはいけない。
明けない夜はない。陽はまた昇る。
夜通し続いた後夜祭は東の空が白染み出す頃になって、ようやくお開きとなりました。
こうして悪夢の一夜はついに終わったのです。
しかし私たちの戦いはまだまだ終わらない。
だって後片付けが残っているんだもの。
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