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46 武闘会一日目
しおりを挟む城内が殺気立っています。
大会参加者たちはもちろんのこと、運営側の係の者たちや裏方さんたち、メイドのお姉さま方や事務方に食堂の同僚たちも……、なにせこちとらほとんど徹夜なので。
ある意味、この日のために体調を万全に調整してきた選手らよりも、城内を徘徊している城勤めの人たちの方が、どこか鬼気としてやばいオーラを放っております。なお私の住まいである地下牢は臨時の仮眠室として大好評、ちょっとしたカプセルホテルのようにして開放すると、連日の大盛況。
この副業の売り上げはすべて職場の忘年会のための貯金箱に溜め込まれるので、おかげでうちの食堂の忘年会のグレードがグングンうなぎのぼり。ラメダさんによれば全員で二泊三日の社員旅行に繰り出そうかという話になっているんだとか。
「でかした! エレナ」と職場のお姉さま方からも大層褒められましたよ。いいぞ、もっと甘やかしておくれ。私は褒めると調子に乗ってスクスク伸びるタイプなのですよ。
大会予選は城内にある大演武場に設置された石舞台の上で行われます。
七つのステージで同時にバトルロイヤルが開催され、それぞれのステージで生き残った上位二名の方が決勝ステージに駒を進めます。通常は八つのステージなのですが、今回は予選免除のスペシャルゲストが二人もいるので、その分だけ狭き門となっているのです。
しかしこのバトルロイヤル形式というのが曲者みたい。強ければ勝てるというワケではないようで、なまじっか名前が売れていたり強かったりすると周囲から狙い撃ちにあって、真っ先に消されるという展開もあるんだとか。
ルールは戦闘不能に陥ったり、ステージ上から落ちたら失格となるそうです。あと故意に相手を傷つけたりするような非人道的行為も失格の対象になるんだとか。チカラこそが正義! とか叫んであんまり調子に乗ってヒーハーしちゃうと、即座に怖い騎士たちが群がってボコボコにするんだそうです。たまに祭りの雰囲気や血や戦闘に酔って興奮しちゃう方がいるんだそうで、医療班とともに制圧班も常時ステージ脇に待機しているとのこと。
そして客席を埋め尽くした人々が見守る中で始まる予選会。
歓声と怒号が渦巻く中で交差する様々な想い。ある者は栄誉のため、ある者は研鑽のため、ある者は更なる高みを目指し、ある者は野心を秘め、各々が武器を手に取り、一匹の獣となりて眼前の敵へと立ち向かう。
まあ、こっちは仕事に追われてそれどころではありませんけれどもね。
参加者らの控室などにも料理を提供しなければなりませんし、会場内に特設された売店からの応援要請もあって、じゃんじゃんと仕上げては届けるの繰り返し。
騎士たちの大部分は出動しているので、食堂こそはいつもより閑散としていますが代わりに厨房内がえらい事になっております。中華鍋を振るう紅蓮の料理人の笑い声が止まりません。その赤髪を振り乱して狂喜する様はとてもではありませんが旦那さまに見せるわけにはいかない。きっと離婚危機に発展しますから。あの顔を見て、なお抱けるのならばアンタは勇者だ。
激務続きにつき調理人が二人ほどダウンして、食堂の隅っこに臨時に設置された休憩所にて浜に打ち上げられたアザラシのようにのびております。そのお二人の介抱をしつつ私は姉御に命じられるままに各作業のヘルプとして奔走中。
疲労困憊につき、頭がぼうっとして、なんかもう誰が勝とうが負けようが告ろうが振られようがどうでもいいかなあ、と思い始めた頃を見計らったかのように、予選結果の報せが届き始めました。
「第五隊カイン副長。予選突破」
「第五隊アデル副長。予選突破」
「第五隊レスト隊員。辛くも予選通過」
「第八王子、予選敗退」
……次々と予選を制して本選出場を決めていく人たち。
騎士ってだけで序盤では狙い撃ちにされるそうですから、副長たちはともかくとして、レストは大健闘といっていいでしょう。第八くんに関しては、こんなもんかな? というぐらいです。なお各々の詳細は後で決勝トーナメントの組み合わせとともにクノイチさんが教えてくれる手筈になっているので、いまはとりあえず結果だけで満足しておくとしましょうか。
大会初日にして多くの参加者らがごっそりと退場になるので、一時的にこちらにも余裕が生まれます。その隙に職場のお姉さま方は休息をとって祭りの後半に備えるのです。
しかし若い私は食堂にてクノイチさんと優雅に甘味と紅茶を味わっての報告会。
クノイチさんのお話ではカインさんとアデルくんは無難に勝ち上がったそうです。なにせ近衛隊の第五隊は荒事に従事することが多いので、バトルロイヤル形式のような乱戦はかえって得意なんだそうです。餓狼はその字名を示すがごとき闘いぶりで周囲を圧倒し、アデルくんは迅雷のごとくステージ上を駆け巡り危なげなく、すみやかに撃破なさったとのこと。レストは序盤こそ集中砲火を浴びて苦戦したそうですが、途中から冷静に状況を見極め、うまく敵を攪乱誘導しては同士討ちを誘い不和を引き起こして数を減らし、最後にはきちんと決めたそうです。
クノイチさん曰く、「意外にも将来的にはいい指揮官に育つかもしれない」とのこと。なんだかんだ言っても、彼もまた曲者揃いの第五隊の隊員なんですよね。
「それで隣国の第八王子はどうでしたか?」
訊ねた途端にクノイチさんがケラケラと笑いだしました。
あまり感情を表には出さない方なのですが、これは珍しい。
「いやー、あれは可笑しかった。ある意味、会場中の注目を独り占めだな」
なんでも第八王子、試合開始早々に「俺は王族だ。勝ちを譲れば士官の口を世話してやるぞ」と居丈高にのたまったそうです。これにはステージ上にいた参加者のみならず、観客らの目も点になったそうです。
いえ、彼の立場を考えれば実際に雇われるかどうかの真偽はともかくとして、それほど悪い手ではないのですよ。相手が勝手に信じて闘いを放棄したりステージを降りてくれたら儲けものですから。ですがそこには大切な信憑性が決定的に欠如していたのです。彼の阿呆っぷりは近隣諸国に轟いているらしく、もはや血筋以外に価値はないとまで言わしめるほど酷いとのこと。そんな人物の言うことを、どこの間抜けが信じるというのでしょう。せめて裏でこっそりとかやっていればまだイケたかもしれませんが、明らかに思いつきのような発言を前にして、まず会場中が嘲笑にてどっと沸いたそうです。次に参加者たちが顔を真っ赤にして怒ったそうです。なにせ自分たちのみならず大会に参加した全員を侮辱するかのような発言なのですから。
そりゃあ、もう盛大に怒ったそうです。おかげで栄えある武闘大会にて、まさかの公開リンチが披露されるという事態に。あんまりにも酷い光景ゆえに審判と騎士たちが渋々止めに入ったほど。ズタボロにされてパンツ一丁の姿になった第八くんは彼の側用人たちに担がれて、そそくさと会場から退散したそうですが、とりあえず命と体に別条はないそうです。どうやら武人揃いだったおかげか、その辺の力加減が絶妙だったようですね。
クノイチさんがくすくすと思い出し笑いをしています。その際の姿がよほど面白かったのでしょう。とりあえず第八くん撃退計画は無事に終了したようです。どうかこれに懲りて、もう二度とルディアちゃんにいらぬちょっかいを出さないようになってくれたらいいのですが……。
決勝トーナメントは十六名で競われるそうですが、カインさんとアデルくんは見事にブロックが分かれて決勝まで勝ち上がらないと戦えないとのこと。二人共順調に勝ち上がったところで準決勝でカインさんが剣聖と、アデルくんが流星と当たる鬼畜な組み合わせ。レストは二回戦に駒を進められたら次のお相手が剣聖になるというお話。もう、これって王様の作為以外の何者も介在していないよね?
……おとなげのない権力者って本当に怖いです。
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