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44 特別会合
しおりを挟むメイドや事務、その他諸々のお姉さま方が集まる特別会合が開かれました。
これは非常に珍しいことです。個々での接点はあるものの、部門ごとの代表者格が揃うなんて、よっぽどのことなのでしょう。
そして私は職場の代表として出席させられています。時間外労働につき同僚たちが単純に誰も行きたがらなかったからです。
それでわざわざ皆が集められた理由が、いよいよ来週へと迫った武闘大会への意気込みと決意表明という妙ちきりんなモノでした。
報告、連絡、相談の報連相を同士間にて徹底する旨が周知され、当日は何かと忙しくて見に行けない不憫な方のところにも、随時、伝令が走ってくれて速報やら号外を流してくれるとのこと。「なにもそこまでしなくとも」とうっかり私が零したら、すぐ隣にいたお姉さまが「こうでもしないと不平不満が爆発して大変なことになるの。そうアレは忘れもしない六年前のこと。あれは暑い夏のことだった……」と語りだした内容によりますと、なんでも六年ほど前に開かれた武闘大会にて、事前に申請していた休暇届けをことごとく却下されて当日を迎えた人たちから不満が噴出して、あやうく城内が完全に機能不全に陥りかけたことがあったそうです。
王様が慌てて連絡網を確保し、広報や印刷部門に無理を言って号外などをじゃんじゃん刷って、情報を素早く拡散することでどうにか事態を最悪一歩手前で押さえたんだとか。
これ以降は大会のたびに臨時報連相委員会が発足され、従業員一同が「相互補助の精神にのっとり」情報をすみやかに伝達し共有することが決まり、また武闘大会の開催期間中の休暇は、厳選なる抽選によって選ばれることが義務付けられたという。
あれ? でも私の場合は休暇届けを提出したそばから、上司であるラメダさんにくしゃくしゃポイってされていましたけれども。厳選なる抽選はいずこへ?
「何事にも本音と建て前があるの。制度として確立しているからって、ちゃんと機能しているとは限らない、それが組織というものよ」
会合に参加なさっていたお姉さまのお一人からありがたいウンチクを戴きました。いくら認められているとはいえ、それをホイホイと行使出来ないのが組織人、なんとも深いお言葉ですね。すべては直近の上司の気分次第なのです。
会合の場では武闘大会の組み合わせも発表されました。大会はギリギリまで参加者を募るそうですが、事前に知られている注目株らは早々に振り分けが完了しているそうです。
カイン副長、アデル副長、レスト、第八王子、みなが綺麗に別ブロックに分かれておりました。なお剣聖と流星の御二方は予選免除なので本選からの出場となります。
お約束のような展開に雲上人の作為をおおいに感じましたが、王様とて興行主としての側面を持つ以上は大会を盛り上げる必要があるので、この辺が妥協点なのでしょう。
潰すのが目的ならば初っ端から全員を同じブロックに放り込めばいいだけですから。でもそれをすると大会の目玉が減ってしまう。本選である決勝トーナメント内のイケメン率を下げることは運営側としては致命傷になりかねません。むさいハゲのガチムチの活躍なんかで盛り上がれるのは、ごく一部のマニアだけです。大部分の観客はミーハーで見た目重視なんですから。
会合の途中で司会者の方から名指しで呼ばれました。
何事かと思えば「アデルくんの剣の具合はどう?」との質問。彼の剣の痛みが酷くて有名鍛冶師のところに修繕に出されていたことを指してのこと。「すでに最終調整に入っており、良好です」と答えたら露骨にほっとした空気が会場内のそこかしこから漏れました。どうやら内心で心配していたファンの方が多数いたようです。
「今回は剣聖とか流星とかの邪魔者のせいで、いささか盛り上がりに欠けるかもしれないけれども、油断せずにいきましょう」
司会者のこの言葉に「はいっ!」とみなで元気よく応えて、特別会合という名の決起集会は終了しました。
それにしてもはっきりと邪魔者扱いされたお二方、どうやら司会の彼女はカイン副長とクラウセン隊長との恋の行方にハラハラドキドキしていた方のようです。成就するにしろ悲恋に終わるにしろ、せっかくのキッカケを奪った剣聖と流星は彼女の中では敵認定されてしまったようです。
当のご本人たちはこのようなことになっていようとは夢にも思わないでしょうが、人間ってどこで誰の恨みを買っているのかなんてわからないものですよね。
これを教訓に私も今後はもうちょっと用心しようと思っています。
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