人生に脇役はいないと言うけれど。

月芝

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29 それは感性の問題

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 ただいまちょっとラメダさんに無理をいって食堂を抜けさせてもらって、メイドのお姉さま方の溜り場となっている休憩室にお邪魔しております。
 事前にそのことと主旨を告知しておいたら、あの汚部屋がスッキリと片づけられておりました。殿方にはちょっと見せられない用品で溢れていたゴミ箱も空です。
 お皿とフォークを持参して待ち構えていたお姉さまたちを「待て」と制し、ずらりとスイーツの数々をテーブルに出し並べます。それらを涎を垂らさんばかりの様子で凝視する彼女たちに、後で気に入った品の番号をメモって提出するようにと話してから「おあがり」と言った途端に、そこは戦場になりました。こっちとしましてはじっくりと味わって感想を聞かせて欲しいのですが……。
 私は身の危険を感じたので早々に部屋の隅っこに退避します。
 本日は新作スイーツの試食会。

 実はこの度、小さい頃から可愛がっていただいていたご近所のお姉さんが結婚なされるんです。しかもそれを機に新婚にて喫茶店をオープンさせるとのこと。
 そこでお姉さんに「お祝いに何か欲しいものがありますか?」と訊ねたら「目玉となる商品」とのちゃっかりしたお返事がきたので、今回の仕儀と相成りました。
 今回は生クリーム系は廃し、タルト系で固めてみました。これならキッシュとかと合わせて軽食としても提供できますし、なにより日持ちしやすく、持ち帰りも容易なので販売も可能となります。
 最悪、喫茶店がぽしゃってもタルト専門店として生き残る道もあるかもということは、さすがに縁起が悪いので伏せておきますが。

 八百屋のおばちゃん全面協力の季節のフルーツ盛だくさんタルト、滑らかスイートポテト風タルト、ほんのりとした苦味がクセになるビターなチョコタルト、あとは適当に目についた果物を用いた品が多数、個人的にはキャラメルを表面に塗ったヤツが自信作なのですが、インパクトがあるのはやっぱり盛だくさんですかねえ。女子は特に盛りを好む傾向がありますから……、なんてぼんやりと考えていたら、あっという間に食い尽くされてしまいました。
 おかしいですね、計算では軽く五十人前ほど用意しておいたはずなのに。なお休憩室におられるのお姉さま方は全部で十六人。
 太ったからって、あとで文句を言われても困りますからね。

 甘味をたらふく食べてホクホク顔のお姉さま方から集めたアンケートの集計結果は、第一位がやはり予想通りのフルーツ盛り盛りのタルト、次点が芋でした。そして第三位にまさかの品がランクイン。
 ハチとかイナゴの佃煮って知ってる? あれと似たようなのがこっちの世界にもあるんですよ。なんかもう考えるのが面倒になったので、調理場の片隅に転がってあったおつまみ用のそれを、ジャムで煮込んでドバドバとぶっこんでやったんですけれども、それが何故か選ばれておりました。味はいいんですよ、味は。
 問題はビジュアルです。ザックリと切り分けると断面にアレが一斉にこんにちわ。自分で作っておいてなんですが、コレだけはないわーと思っていたのに。

 メイドさんたちだけでは判断材料にちょっぴり不安だったので、職場のみんなにも味見をして貰いましたが、こちらでは佃煮のやつが一番人気でした。やはり酒飲みが多いのが原因でしょうか。なおちょうど原稿とイラストの下書きを見せに来たルディアちゃんとアシュリーちゃんにターニャさんにも試食をお願いしました。
 こちらは普段から、たらふく高くて美味いモノを喰っているから、さぞや舌も超えているからと期待したのですが、まさかのお三方も佃煮を選ぶという結果に……、しかもよほど気に入ったのか、ターニャさんにいたってはお土産まで持って帰られましたよ。
 あれ? もしかしてこれは私の方がオカシイのでしょうか。
 しかし選ばれた以上はしようがない、こいつのレシピも一緒に結婚祝いに潜り込ませておきましょう。採用するかどうかは相手の自己責任ということで。

 お姉さんの結婚式は彼女たちが新規オープンする店舗にて、親しい人たちを招いて行われました。その席で振舞われたのはアレでした。プロ目線にて地味に改良が施されており、中に入る佃煮の種類が増えて、その分だけバリエーションが増えていました。どうやらこのお店はアレをシリーズ化して前面に押していくようです。
 いや、本当に美味しいんですよ、味だけは。

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