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14 近衛隊の式典
しおりを挟む本日は城の敷地内にある演武場にて、近衛隊の式典が開催されております。
隊ごとの行進に始まり、模範演武、摸擬戦、隊別対抗戦などが催されています。
これは年に二度ある恒例行事にて、主に王族や貴族たちに彼らの日頃の鍛錬の成果を披露するのが目的となっております。第三王女であるルディアちゃんや伯爵令嬢のアシュリーちゃんも当然のごとく観覧するとのこと。
第七隊以外の全員が揃うので、勇壮かつ華やかで大層な盛り上がり。客席からはお嬢様方の黄色い声援がなりっ放しです。
ですがそんな華やかな式典の裏では、私たち食堂組は地獄を見ます。
なにせ隊員ら全員の食事の準備だけでなく、関係各所にて奮闘する人たちの餌も用意しなければならないからです。他にも騎士団の身内の方や一般の招待客、メイドのお姉さまたちの分もありますし、とにかくとんでもない量を揃える必要があるのです。
偉い人たちの分は、偉い人たち用の食堂の料理人らが担当してくれるのですが、貴族の付き添いやら護衛の分はすべてこちらに丸投げ。
おかげで厨房は前夜から稼働しっぱなし、そして私は配達に奔走しっぱなし。夜食やらお弁当が仕上がりしだい、じゃんじゃん運び出します。放っておくとすぐに食堂がパンパンになってしまうので。台車のギアも普段の倍に設定し、多少、暴走気味に廊下を駆け抜けます。
たまにどんくさい騎士を跳ねますが、いちいち気にしてはいられません。なお要領のいいメイドさんらは、さらりとスカートの裾を翻して華麗に躱します。
あと不慣れな城内で道に迷っている方がゴロゴロ出没しますので、そちらの処理も配達のついでに手伝わされました。
こうしてようやく式典が終わっても、今度は懇親会という名の修羅場が始まるので、おかげで私たちは終日てんてこまい。厨房は殺気に満ちて一触即発状態。迂闊な行動をとろうものならば、すぐに包丁が飛んできます。最後の方なんて怖くてラメダさんの横顔が見れませんでした。
そんな理由でこちとら一切、野郎どもの活躍なんて見ちゃいません。ですが親切なメイドさんらが忙しい合間をぬって、ちょくちょく報告に来てくださいました。
それによると、どうやら隊別対抗戦はクラウセン隊長率いる第五隊が優勝したそうです。やっぱり強いですよね、彼らって。伊達に日頃から自分の体を虐め抜いているわけじゃないようです。なお模範演武はクラウセンさんがなさったんだとか、静と動が一体化した剣の妙技は、見物客らから喝采を浴びたそうです。あー、私も拝見したかった。
さて、そんな優秀な成績を収めたワケですから、第五隊の面々もさぞや懇親会で盛り上がっていることだろうと思ったのですが、さにあらず。彼らの一角だけがまるでお通夜会場のよう。
はて? これは一体……。ちょっとその辺にいる隊員Aさんを捕まえて、理由を聞いてみるとしましょう。
「あー、いや対抗戦で勝てたのは嬉しいし、日頃の成果が出せたのも良かったよ。でも明日からのことを考えると、どうにも憂鬱でなぁ」
「明日からのこと?」
「ほら、オレたちって活躍しちゃっただろう。だから女どもがいつも以上に騒ぐんだわ。毎度のことながら、つきまとわれて辟易するんだよ。あいつら、話がまるで通じないし、どこに隠れても見つけ出されるし、しつこいし、香水がキツいし、なにより怖いし」
そんな事を口にする隊員Aさんのグラスを持つ手が微かに震えています。彼の過去に何があったのかも気になるところです。それにしても、なるほどなるほど、にわかファンが急増するわけですね。そして狂った雌どもに追っかけ回されると。
寮という名の魔窟に逃げ込めばいいだけの話なのですが、彼らにもお仕事がありますからそうもいきません。それにしても百戦錬磨の猛者どもをも怯えさせるとは、ファン心理とはそれほどですか。これはうっかり巻き込まれないように注意しないと。
「まぁ、そんなことは置いておいて、ところでクラウセン隊長のお見合い話はどうなったのですか? あれっきり音沙汰がありませんけれども」
「そんなことって……、エレナちゃんはオレたちの扱いがちょっと雑過ぎる気がする……」
「気のせい気のせい、それでどうなってるんです?」
「うーん、それがはっきりしないんだよなぁ。相手が決まっているのは間違いないみたいなのに、どうやら当日まで秘密にするみたいなんだ。うっかり事前にバレると色々と問題が起こりそうなんで」
いわゆる横やりという奴ですね。公私のみならず男女も含む全方位からグサグサと入りそうなんだとか。とくに隊長さんを本気で狙っている貴族側からの妨害が酷いそうです。なにせこの国の貴族って血筋とかよりも個人の能力をちゃんと評価するんですよ。家柄だけが取り柄のパープリンなんて相手にもされません。さすがにある程度の高位になると、その辺の事情も絡んできますが、基本的には優れていることが大前提なのは一緒です。よってクラウセンさんを自分の家に取り込もうと考えているところも多いんですって。
私たち平民の知らない水面下にて、激しい攻防が繰り広げられているとかいないとか。
とにもかくにもカイン副長も、難儀な相手を好きになってしまったということです。想いが叶ったからって、すぐに二人の幸せとはならないのかもしれませんね。何気に障害が多そうで、これは大変そう。
とりあえず目的の情報は手に入れたので、わたしは再び仕事に戻ります。あんまり油を売っていると姉御が爆発しかねないので。
だからにっこり笑って、「みなさんが沈んでいる理由がわかりました。とりあえずしばらくは第五隊の皆様方には近づかないようにしますね」と告げたら、「やっぱりエレナちゃんが酷い!」って隊員Aさんが喚くのを尻目に、そそくさと退散しました。
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