人生に脇役はいないと言うけれど。

月芝

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12 昼下がりの爆弾

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 ある晴れた昼下がり。
 現在、食堂にてクラウセン隊長とカイン副長にアデル副長のお三方が出揃っております。副長の二人はともかく、隊長格ともなると士官用の食堂か、部屋に給仕を呼ぶことが普通なのですが、気さくな我らが兄貴は仲間内でワイワイと食べるのが好みらしく、たまにですがこうやって食堂に出没なされます。そんな親しみやすいところも、きっと彼の支持率の高さに一役買っているのでしょうね。

 で、このお三方なんですが席の取り方がちょっと面白い。
 クラウセン隊長はどこでも気軽に座ります。
 カイン副長は決まって彼の右隣りに腰を降ろします。アデル副長はそんな彼の正面向かい側を陣取るのです。
 何度か同じ配置を目撃しているので、間違いなく意図的なのでしょう。私としては心理学的な分析を所望したいところですが、あいにくとこちらの世界では、まだそのような学問はありません。よって勝手に妄想して推察しちゃいます。
 兄貴はたんに適当、でも必ず隣の席が空いているところを選んでいますので、一応はカインさんに配慮しているのでしょう。そしてカインさんは「ここはオレの定位置」みたいな感覚のようです、動物の示威行動みたい。アデルくんはたぶん意中の彼の姿を一番よく見える場所を陣取っていますね。
 そんなアデルくんですが、実は隊長さんをとっても尊敬なさっているご様子。
 つまり彼は秘めた想いと上司に対する想いにて、二重の責め苦を抱えていることになるのです……、これはいささか切ない。

「と、まぁ、こんな感じだと私は思うのですよ」
「どうでもいいから、早くこの皿を運びな」

 カウンター越しにラメダさんに話しかけたら、面倒くさそうに仕上がった料理が盛られた皿を渡されました。普段はそれなりに会話に乗ってくれる姉御なのですが、どうやらタイミングが悪かったみたい。なにせお昼時の厨房は忙しさでピリピリしていますから。
 そんなわけで無駄口を閉じて、せっせと料理を運んでいたら、そこに新たな登場人物が現れました。
 ロマンスグレーのちょい悪オヤジ風の偉丈夫が、のっそりと食堂に入って来ました。途端に野郎どもがお喋りをピタリと止めて場が鎮まりかえりました。そして全員が一斉に起立したのです。

「オービタル団長、どうしてこのような場所に?」

 緊張した面持ちの騎士たちを代表して、クラウセンさんが声をかけます。
 オービタルって、どこかで聞いた名前だなぁと思ったら、なんと近衛隊で一番偉い人でしたよ。七つある隊を統括する団長さんです。ちなみに将軍クラスにつき、こんな場末の食堂なんかには、まず顔を見せない雲の上のお方。そりゃあ、みんな起立して直立不動にもなるってもんです。
 なのにそんな空気を破る不躾な「チッ」という舌打ち音が! なんとうちの姉御が団長を苦々し気に睨んでの凶行に。

「この忙しいときに、何しに来やがった? クソ爺」

 しかも無礼な発言のオマケつき、姉御すげえ。

「わりい、オジサンも邪魔するつもりはなかったんだよ。だから許して、あとなんか喰わせて。ここんところ、うちのがうるさくて、やたらと味が薄いのばっかなんだわ」
「あとでバレて怒られても知らねぇからな。とりあえず鬱陶しいから、さっさと席につけ。すぐに出してやる」

 厨房の料理長に申し訳ないと、頭をへこへこ下げる騎士団長さま。
 そこには先ほどまでの威厳は欠片もなかった。ちょい悪オヤジが駄目オヤジに降格した瞬間を目の当たりにして、この場に居合わせた騎士たちが面食らっている。でもクラウセン隊長は平然としているところをみると、これが団長の素なのかもしれない。
 騎士団長はみなにかまわず食事を続けるようにとだけ伝えると、そのまま隊長の向いの席にどっかと腰を降ろした。
 そこにすかさず私が料理の入ったお皿を、さっと出し並べる。そのあまりの早業に団長が「おぉ!」と驚きの声をあげた。そのくせこんな給仕の小娘にもちゃんと礼を述べるオジ様。どうやら気さくな方らしい。ガツガツと目の前の料理を貪り喰らう姿も、普段から見慣れた野郎どもとあまり変わりません。
 そんな団長さまですが、さらりとクラウセンさんにとんでもない事を口にしました。

「もぐもぐ、あー、お前、こんどお見合いな。これ決定事項だから、ちゃんと催事用の騎士服を用意しておけよ」

 あまりの突然のことに「はぁ?」と間の抜けた声を上げるクラウセン隊長。
 カイン副長は動揺してお茶の入ったカップをひっくり返し、アデルくんは思わず横にいるオヤジをガン見していました。

『結婚したいランキング上位の隊長がお見合いをする』

 この一報はあっという間に城内を駆け巡り、おおいに耳目を集めることになります。

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