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03 麗しき騎士たち

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 騎士たちはとにかくモテる。
 それはもう、モテてモテてモテまくる。
 なにせ彼らは格好いい。
 日々、鍛錬に鍛錬を重ねて虐め抜いた肉体は鋼のごとく頑強にて、腹筋なんて六つに割れているのが当たり前。鎧姿にて腰に剣を差し、精悍かつ職務に邁進する彼らの姿は、そりゃあもう同性異性を問わずに心をおおいにときめかせます。
 しかも騎士という言葉には幻想が絶えずついて回る。
 物語やお芝居の騎士たちは、それはもう格好いい。強く、誠実で、優しくて、スマートに手を差しのべては微笑みます。およそ女性の理想を体現したといっても過言ではない存在、それが騎士。
 ですがこれはあくまで想像上でのお話……、現実はちょいと違います。

 まず騎士のお仕事は、華やかさばかりが目につきがちですが、実際には血と汗と泥に塗れる極めて厳しいもの。
 日々、鍛錬にて己の肉体と精神を追い込み鍛え上げ、任務で一歩外へと出たら、そこに待つのは切ったはったの命懸けの現場。喧騒と怒号と剣戟が飛び交う戦場です。
 事件は昼夜を問わず年中無休で起こるので、その度に駆り出される彼らの生活も必然的に不規則になりがち。
 基本的に鍛える、喰う、寝る、戦う、を繰り返すだけのヘビーローテーション。
 たまの休みにはぐったりとなって、溜まった洗濯物に埋もれて眠るだけという有様なのが実情。
 また騎士という職業に対する世間と当人らとの意識の差も大きいのも問題です。
 騎士とは自身のすべてを投げ打って王や国に忠義を尽くす者たち。
 それこそ家族、恋人、友人すらも時には捨て去り、駆けつける覚悟を持って職務に当たっています。騎士団とはいわば決死隊のようなものなのです。
 なのに騎士という身分や見てくれに惹かれては、寄って来る有象無象の盛った雌ども。
 あまりにも熱心だから、ついついほだされて付き合ってみれば「思ってたのと違う。なんかガッカリ」とか言われて一方的に振られる。
 そんな経験を大なり小なり繰り返すうちに、彼らの中に芽生えるのは女性に対する不信感、それがやがてスクスクと育って女性を嫌悪するに至るまで、たいして時間はかかりません。

 そんな理由にて騎士の中には、異性よりも同性を好む傾向が自然と高まりました。
 苦楽をともにするうちに芽生える気持ち、お互いのことを誰よりも深く理解できる間柄、そこに常に危険と隣り合わせの現場につき、吊り橋効果にてポイントプラス。
 とどのつまり騎士団はボーイズラブの巣窟なんですよ。
 どうやらこれもまた、うちの職場が女性人気が異様に高かった理由でもあったようです。なにせここならば騎士たちの恋愛事情を堂々とガン見できますからね。イケメンパラダイスにつき眼福ものにて、おもしろそうな噂話にもこと欠かない。
 
 ああ、言い忘れていました。こちらの世界では同性婚がキチンと認められています。
 なにせ神様の教義からして「愛こそすべて」みたいなところがあるので、よほど人の道を踏み外さないかぎりは問題ないようです。なお家の存続のためには子供が必要なので、二号さんとしてお妾を囲ったり、養子縁組をしたりするケースも多いんだとか。貴族といっても血筋だけでなく能力を重視する傾向があるおかげで、その辺はあまり気にしないんだそうです。
 この辺は私の前の世界よりもずっと進んでいますね。
 あっちだと建前だけは立派でしたが実態は……、なんてガッカリなことがざらでしたから。

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