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255 カネコ、ひとつ戻る。
しおりを挟むようやく追い詰めたとおもったら、シシガシラにまんまと逃げられた!
いくらヤツが大胆不敵でも、しばらくは食糧庫には近づくまい。
また最初っからやり直し、ふりだしに戻る。
「ぐぬぬ」
ワガハイは歯噛みする。
そうしたら「いや、そうともかぎらんぞ」とえらい学者先生が言った。
「第一候補と第二候補は隠れ場所としては適切であったが、この第三候補の倉庫街はちがう。これまでの犯行からして、あくまで餌場との認識のようじゃ。
と、なれば……」
ポンと仮面令嬢が手を打つ。
「なるほど。でしたら寝床はここじゃない、別なのですわね。そして私たちが先に訪れた場所こそが、それである可能性がまだあると」
我が意を得たりとばかりに、えらい学者先生がにやり。
もしもこの仮説が正しいのであれば、ワガハイたちとシシガシラは行き違いになっていただけということになる。
第一候補地は、貴族街にある幽霊屋敷。
第二候補地は、共同墓地。
いちおう二択だが、幽霊屋敷の方は浄化済みなので、残るはひとつ。
「とりあえず墓地の方へ行ってみましょう」
仮面の令嬢の言葉に、ワガハイたちはうなづいた。
〇
すごろくならばマス目をひとつ戻る。
といったところか。
ワガハイたちはふたたび共同墓地へとやってきた。
とっくに陽が暮れており、墓地は夜陰に沈んでいる。
自分の足下もおぼつかないほどに闇が濃い。薄っすら霧まで発生しており、視界はあまりよくない。
しかし明かりをつけると、向こうからこちらの姿が丸見えになる。
そこで……
「カネコアイ、発動だにゃあ~」
カネコアイはジト目になればかなり遠方まで見通せる。遠近両用にて暗闇でもバッチリなのだ。
ワガハイが先導して一行は霊廟へと向かう。
その途中でのこと。
鼻をくんくん、えらい学者先生が「上等な酒のニオイがする」とつぶやく。
だからワガハイもマネしてみたら、たしかにかすかに酒精を感じた。さっき訪れたときにはなかったものである。
「そういえば倉庫荒らしの被害に遭われた方が、特級酒がどうのとか言っていましたわね」
と仮面の令嬢。
「どうやら当たりのようじゃな。おおかた戦利品で酒盛りでもしているのであろう」
盗人たけだけしいとは、まさにこのこと。
「ふてえ野郎だにゃん!」
ワガハイもタダ酒は好きだが、それとこれとは話がちがう。
そしてこんなヤツと世間から同類とおもわれていることが、とっても腹立たしい。
「必ずふん縛ってやるのにゃあ~」
鼻息荒く意気込むワガハイ。
するとそんなワガハイを「どうどう」となだめつつ仮面の令嬢が「そのことなのですけど、相手はずいぶんと逃げ足が速いようですし。ここはひとつ私から提案があるのですが」と言い出した。
より確実にシシガシラの身柄を抑えるための作戦。
ごにょごにょと耳打ちされたワガハイとえらい学者先生は、にへらとの笑みにて賛同した。
〇
霊廟が見えてきた来たところで、「では、手筈通りに」と三人は別れた。
正面は五十メートルほど離れたところで、ワガハイはスタンバイする。
しばらく待っていると、彼方よりチカチカと合図。
どうやらふたりとも配置についたようだ。
そこでワガハイはカッと額にある第三の瞳を見開き。
「カネコビーム!」
シュビビビビビビビビ~~~~ン。
第三の目より放たれし怪光線が闇を切り裂き、霊廟へと突き刺さるなり――
ちゅどーん!
霊廟は吹き飛んだ。
えっ、そんなバチ当たりなことをしていいのかって?
いいんです。
だってぶっ壊しても、お嬢さまがあとで新しいのを建ててくれるって言うんだもの。
そしてこれこそが作戦である。
まずはワガハイが問答無用でカネコビームをお見舞いする。
けれども相手はシシガシラだ。いかに不意打ちとて、そうそう決まるものじゃない。
だが、慌てて逃げ出したところで待ちかまえているのは、えらい学者先生と仮面の令嬢というわけだ。
いささか乱暴で大雑把だが、ようは穴熊猟みたいなものである。
案の定であった。
爆散する瓦礫の中から、煙にまぎれて飛び出す影アリ。
すぐさまふたりが動く。
ワガハイも手を貸すべく駆け出した。
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