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253 カネコ、小耳に挟む。
しおりを挟むトライミングの商業ギルドに負けず劣らずの、厳めしい。
物々しい雰囲気は、まんまアレの事務所である。
おかげで、さっきからワガハイの脳内で「ちゃらら~ん♪ ちゃらら~ん♪ ちゃ~んちゃ~ん、ちゃらら、ちゃららら……」という定番のテーマ曲がずっとリフレイン中だ。
ワガハイたちは「しばらくここでおとなしくしていろ!」と云われて、とある一室に押し込められた。
ソファーとテーブルがあるだけの簡素な部屋にて。
「……にしても、ギルド内の雰囲気がピリピリしているにゃんねえ」
まるで、これからカチコミでもあるかのよう。
ワガハイがタメ息をつけば、えらい学者先生が「おうおう、ずいぶんと殺気だっておるわい」と顎の白髭をしごきつつ、にやにや。
「おそらく例の荷荒らしが、手を出してはならない荷に手をつけたか、あるいはそのせいで取引に齟齬が生じたのかもしれません。商業ギルドは信用と面子をことのほか重んじますから」
と、仮面の令嬢。
手にした扇をパチリパチリともて遊びながら言った。
王都の商業ギルドともなれば、商売相手もいろいろ。なかにはシャレにならない相手も含まれている。
そんなお客との商売を邪魔されれば、そりゃあお冠にもなろうというもの。
ワガハイは「ふ~ん」と素知らぬ顔にて、耳をそば立てる。
こっそりカネコイヤーを発動しては情報収集に務める。
すると、聞こえてきたのが……
「くそっ、どいつの仕業か知らねえが、よりにもよってあのタマゴにちょっかいを出しやがって」
「せっかく苦労して手に入れたのに、どうする?」
「念のために、別ルートからも入手できるように手配してある。そちらが問題なければ、そろそろ報せがくるはずなんだが……」
「ったく、やっかいな品を欲しがりやがる。これだから金持ちの悪食(あくじき)ってやつは」
「おいおい、そこはせめて好事家とか、美食家とぼかしておけよ。どこで誰が聞いているかわからんからな」
「へいへい、わかってるって」
……などという会話をワガハイの優秀な耳が拾った。
珍しいタマゴが被害にあった模様。
だが、タマゴと聞いてワガハイが真っ先に思い浮かべたのは、道中にて遭遇した商隊のこと。
ケラケラノドンのタマゴを盗んだせいで、群れから執拗に追われていた。
ちなみに魔獣のタマゴは珍味だが、無断で王都などの人里に持ち込むことは、御法度である。
なぜなら怒った魔獣たちが押し寄せかねないから。
それゆえにタマゴ専門の腕利きの狩猟人に依頼をせねばならぬし、役所への届け出などの煩雑な手続きを経ねば入手できない仕組みになっている。
ぶっちゃけ、まともに手に入れようとしたら、とんでもない金額と年単位での時間がかかる。
以上――
得た情報と、ワガハイたちが遭遇した出来事がタイミング的に合致している。
「先生、どうおもうのにゃあ?」
「どうもこうも、そのまんまじゃろ。いやはや、悪いことはできんもんじゃて」
えらい学者先生とひそひそと話していたら、「おや、ふたりだけで内緒話ですか」と仮面の令嬢が拗ねたので、ワガハイはかいつまんで自分たちが遭遇した出来事について説明する。
するとお嬢さまは「あらあら」と仮面の奥の目を細めて「いけない取引相手とやらは、きっとあの御方なのでしょうね。まったく、食道楽も度が過ぎましてよ」
仮面の令嬢には危険なタマゴを求めた依頼人に心当たりがあるようだが、彼女は「ふふふ」と意味深に笑うだけ。それ以上は語ろうとはしなかった。
でも、こうなるとかえって気になるのが人情である。
だから、なんとか聞き出そうとワガハイはネコ撫で声で「ごろにゃ~ん、教えて教えて」
などと、わちゃわちゃやっていた時のこと。
にわかにギルド内がざわつき始めた。
聞こえてくる声からして、どうやら例のドロボウが出現したらしい。
「これでワガハイたちへの疑いは晴れたのにゃあ」
「じゃな。ではそろそろお暇するとしようかのぉ」
「ですわね」
言うなり立ち上がった仮面の令嬢が向かったのは部屋の扉のところ。
スチール製っぽくて頑丈な造り。当然ながらカギがかかっており開かない。
それをお嬢さまは無造作に蹴り飛ばす。
長いドレスの裾がひらり。
一蹴にて固いはずの扉がベコリ、くの字にひしゃげて吹き飛んだ。
ササッと乱れた裾を直しつつ、ふり返った仮面の令嬢が「さぁ、参りましょう。いよいよ、真犯人とご対面ですわ」と言った。
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