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252 カネコ、修羅場にドキドキ。
しおりを挟む抜き足、差し足、忍び足。
息を殺し、そーっと霊廟へと近づく。
霊廟には換気用の小窓はあるものの、鉄格子がついている。
出入り口は正面の観音扉がひとつきり。逃げ道はない。
扉の両脇に張りつき、ワガハイたちは互いに顔を見合わせる。
えらい学者先生は棍棒を手にし、仮面の令嬢はメリケンサックみたいなのを拳に装着、ワガハイは爪をジャキンとのばしたところで。
ダンッ!
扉を蹴破り、中へと飛び込むなり――
「そこまでだにゃん! 神妙に縛につくのにゃあーっ!」
時代劇の捕り物のごとき物言い。
じつはコレ、ワガハイのなかにある『一度は言ってみたい台詞、ベスト10』にランクインしているうちのひとつだったりする。
ちなみに第一位は『ここはオレに任せて、先へ行け』である。
めっちゃ死亡フラグっぽいけど、漢ならば一度は言いたいであろう、この勇ましい台詞を。
というのは、さておき。
勢い込んで踏み込んだワガハイたちであったが、直後に三人そろって目をぱちくりさせることになった。
なぜなら、霊廟内にいたのはシシガシラなんぞではなくて、乳繰り合っている男女だったからである。
とてもではないが良い子たちには見せられぬ姿にて、おっふ。
「きゃーっ! きゃーっ! きゃーっ!」と若い女の悲鳴。
「なっ、まさかカミさんが雇った連中か!」と中年男の方は狼狽している。
こんな所で逢引をしていることといい、その言葉といい、どうやらこのふたり、道ならぬ恋の真っ最中であったようだ。
どうやら第二候補もハズレだったようである。
ワガハイ、えらい学者先生、仮面の令嬢は……
「カーッ、ペッ」
「ちっ、まぎらわしい。このバチ当たりどもが」
「ふぅ、粗末なモノを見て、目が穢れてしまいましたわ」
悪態をつきながら、ばたんと乱暴に扉を閉めて霊廟をあとにする。
そして第三候補へと向かうべく、墓地の出口へと歩いていた時のこと。
向こうから髪を振り乱し、ドタドタと走ってくるご婦人と行き合った。
顔は真っ赤にて、目尻が吊り上がっており、こめかみには青筋が浮かんでいる。
もの凄い剣幕、見るからに怒っており、発する気が尋常ではない。
もしも深山の奥で出会っていたら「ヤマンバ!」と叫んで、ワガハイはきっと逃げ出していたことであろう。
そのヤマンバ……もといご婦人が尋ねてきた。
「この辺でうちの甲斐性なし、見かけませんでしたか?」
問われて、パッと脳裏に浮かんだのは、ついさっき目撃した光景である。
だからワガハイたちは無言のままで、霊廟の方を指差した。
するとご婦人は会釈にて礼を述べてから、もの凄い勢いでそちらへと駆けて行った。
あっという間に遠ざかっていくその背を見送りつつ、仮面の令嬢ばぼそり。
「……新しいお墓が増えないといいんですけど」
う~ん、修羅場ですな。ドキドキ。
このあとの展開が非常に気になるところだけれども、いまはそれどころではないので、ワガハイたちはうしろ髪引かれつつ、共同墓地をあとにした。
〇
シシガシラが潜伏しているとおぼしき、第三の候補地は第三区は商業地区にある倉庫街だ。
しかし、行ってみるなり、「ここにはもういにゃいかも」とワガハイ。
ここのところ倉庫荒らしが頻発している。
それをぼんやり見過ごすほど、商人たちはおおらかではない。
また役人任せにしたりもしない。
自警団みたいなのを結成しては、倉庫街を巡回し、不審者がいないか目を光らせている。
そして、そんなところにワガハイたちがノコノコ出かけて行けばどうなるのかといえば……
「おのれ、怪しいヤツめ、もしやてめえらが盗人か!」
いきなり殺気だった連中に囲まれた。
だがワガハイたちは無実である。それどころか逆に犯人を捕まえにきた救世主のようなもの。
しかし悲しいかな、その主張は通らない。
なにせヒトは見た目で物事を判断しがちな生き物。
でもって、我ら一行の容姿といえば……
三つ目に三本の尻尾、アムールトラばりの大きな獣姿にて、ことあるごとにシシガシラ呼ばわりされているワガハイ。
眼鏡の奥のしょぼしょぼ目が、どうにも油断ならない老爺であるえらい学者先生。
仮面の令嬢については、今更であろう。ちなみに本日の仮面は黒い狐面っぽいので、こ~ん。
うさん臭さ120パーセント越えにて。
これで「ボクたちを信じて!」はいささか、いや、かなり無理がある。
結果、ワガハイたちはそのまま商業ギルドの事務所へと連行されてしまった。
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