寄宿生物カネコ!

月芝

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251 カネコ、サクサクいく。

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 ワガハイの影が泡立ち、あふれてきたのは黒い何か。
 ドロリとしており、ヌメヌメじっとり、しっとりヒンヤリ、ねちゃっとしてべちょり。うっかり顔に張りついたら窒息しそうにて、見た目はコールタールっぽいけど無臭だ。そのくせほとんど重さを感じない変幻自在のダークマター。
 こんなのだけど、掃除能力はとても優れており、にゅるんと呑み込んでモグモグ、ペッとすれば、あら不思議!?
 新品同様にピッカピカに!
 台所の頑固な油汚れや、お風呂場のしつこい水アカや黒カビ、長い歳月にて染みついたくすみどころか、魂の穢れすらをも払ってしまう。
 それがワガハイの闇の生活魔法により召喚された、黒のベトベトさんの能力だ。

「さぁ、やっておしまい――だにゃん」

 ワガハイが命じるなり、黒のベトベトさんが動く。
 しゅるしゅるしゅる、雑巾を絞るようにして立ち上がったとおもったら、バサリと大風呂敷を広げる。
 超大な暗幕と化したベトベトさん。そのまま倒れ込むようにして、件(くだん)の屋敷へと覆いかぶさった。
 その姿は、さながら漆黒の大津波に呑み込まれるかのよう。
 一瞬にして屋敷はすっぽり黒のベトベトさんに包まれた。
 この光景を前にして――

「あいかわらずデタラメじゃのぅ。おぬしの喚ぶベトベトさんは」

 ちょっと呆れ顔なのは、えらい学者先生である。

「これが闇の生活魔法? クリーン? わたくしの知っているものとは、ずいぶんとちがいますわね」

 小耳には挟んでいたそうだが、初めて目にした黒のベトベトさんに、さしもの仮面の令嬢も驚きを隠せないようである。
 そんなふたりを横目に、ベトベトさんは屋敷の洗浄を開始した。

 モグモグモグモグ………………ち~ん。

 はい、作業完了。
 かかった所要時間は、十分ほど。
 そして劇的ビフォーアフター。
 あらわれたのは新築と見まがう輝きを取り戻した邸宅。
 あぁ、なんてことでしょう。瘴気と陰気に苛まれ続けていた不気味な屋敷は、もうどこにもない。優しい陽射しが降り注ぎ、爽やかな風が吹く。
 これならば壊れているところを修繕すれば、すぐにでも新しい住人を迎え入れられることであろう。
 まあ、それはさておき……

「ちっ、ここはハズレだにゃん」

 第一候補は空振りだ。
 シシガシラらしき存在は確認できず。
 いたの性質の悪そうな死霊どものみだが、それも丸っと浄化されて強制昇天済み。

「というわけで、次に行くのにゃあ~」

 ワガハイは黒のベトベトさんを呼び戻しがてら、アイテムボックスからカネコモービル・エボルヴを取り出す。
 第二候補があるのは第三区は北東部だ。ちんたら歩いていたら陽が暮れてしまう。
 夕暮れ刻の墓地とかイヤであるからして、サクサクっとね。

  〇

 キキーッ。

 ひっそりと静まり返っている墓地に、カネコモービルの甲高いブレーキ音が響いた。
 はや、第二候補に到着。
 下車し、一行はさっそく共同墓地内の探索を開始する。

「うーん、おもっていたよりも広いのにゃん」
「とはいえ、身を潜められそうな場所は限られておるぞ」
「一番怪しいのは、ズバリ、霊廟ですわね」

 いろんな種族が混在し、信仰の自由が常識の範囲内にて認められているエスカリオ国。
 ゆえに墓の形も多種多様にて、弔い方もまたしかり。火葬、土葬、水葬、樹木葬、塔葬、鳥葬みたいなのもあるんだとか。

 ――えっと、鳥葬はともかく塔葬ってなに?

 あー、塔葬というのは遺体に塩をかけて乾燥させたあとに、霊塔に安置する葬儀のこと。ミイラの簡略版……とは、ちょっとちがうか。アレは復活を前提にした処置だし。
 ワガハイの前世の世界では、身分の高いヒトが対象だった特別な埋葬方法だったけど、こちらの世界では一般的な葬儀のうちのひとつらしい。

 いろんな弔いがごちゃまぜの墓所。
 共通しているのが霊廟の存在だ。
 霊廟とは、亡くなった人々の鎮魂を祈り、お祀りするための建物のこと。
 儀式が行われる所にて、葬儀のおりに利用されている。

 霊廟は墓地の奥まったところにある。
 向かう道すがら、ピクピクっと耳が反応したもので、ワガハイは立ち止まりカネコイヤーを発動した。
 カネコイヤーは地獄耳、遠く離れたところで落ちた小銭のチャリン音も聞き逃さない。
 それに気がついたえらい学者先生が「ん、ワガハイ、どうかしたのか?」
 
 仮面の令嬢も足を止めた。
 ワガハイは「しっ」とみなに静かにするように指示してから、耳を澄ます。
 すると聞こえてきたのは、霊廟内にて蠢く何者かの気配であった。

「誰かいるのにゃあ~」

 もしかしたら当たりかも。
 一同の間にサッと緊張が走った。


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