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249 カネコ、憤慨する。
しおりを挟む仮面の令嬢の暗躍? により、事無きを得る。
気絶させられた騎士は、シレっと何処かへと運び出され、レセプションの方はつつがなく終了した。
その翌日のことである。
所は王城内にある離宮の客室にて――
「うんにゃあぁーっ!」
ワガハイ、怒りの雄叫び。
それを前にして、優雅にお茶を飲んでいるのは仮面の令嬢だ。
えらい学者先生も同席しては、ボリボリと茶菓子を食べている。
では、どうしてワガハイがプリプリ怒っているのかといえば、原因は昨夜の事件のせいである。
呪いを受けて錯乱状態にあった騎士。
貴賓たちが大勢い集まっていたパーティー会場で、刃傷沙汰なんぞを起こそうものならば、大事件にて国の面目丸つぶれである。
幸いなことに未然に防がれたものの、当然ながらそれでおしまいとはならない。
しっかり調査が行われた。
するとトンデモナイ事実が発覚したのである。
なんと! あの騎士はシシガシラの呪言に毒されていたのだ。
シシガシラとは――
体はスフィンクスで顔が厳つい狛犬っぽい容姿をしており、にちゃりとの厭らしい笑みを浮かべては呪言を放つ凶暴な魔獣にて、ワガハイとは似ても似つかない。
なのに、なぜだか世間ではカネコと混同されており、ワガハイは多大な風評被害を一方的にこうむっている。
カネコにとってシシガシラは敵だ。
もしも見かけたら、問答無用で抹殺してやろうとワガハイは固く心に誓っている。
まぁ、ワガハイの個人的な感情はともかくとして。
世間一般的にシシガシラはおっかない魔獣として認識されている。
そんな魔獣の被害を例の騎士は受けていたのだけれども、問題はそこではない。
一番の問題は、その騎士がここしばらくは王都から一歩も外へは出ていないということ。
それすなわち、危険な魔獣が都の中に潜んでいることを意味していた。
シシガシラは狡賢い。
そのくせ俊敏で、しなやかで、気配を消すのも巧みにて、捉えどころがない。
「気が付いたら、すぐそばにいた!」「暗がりの奥からじっとこっちを見ていた!」「ちょっと目を離した隙に焼きかけの肉を盗られた!」
なんて話をよく耳にする。
ある意味、カネコよりもネコっぽい。
だから、なにかのひょうしに王都内にまぎれ込むことも、なきにしもあらず?
この事態を受けて、騎士団は都の衛士隊と共に、都内の探索を開始する。
ただし、あくまで秘密裏に。
市井に情報が漏れたらパニックが起きる。そうなったらたいへんなので、都民には知られないように動き、すみやかに騒動の収束をはかる所存である。
けれども、その過程で早くも、シシガシラの呪言に冒された者らがちらほらと発見されたもので、被害が水面下で広がっていることが懸念されている。
さて、ことがそれだけであればワガハイが怒り心頭を発する必要はない。
ワガハイが激怒したのは、今回の出来事に付随して、いわれなき誹謗中傷が出回っていることを、仮面の令嬢から教えられたから。
「ねえ、聞きました? シシガシラですって、まぁ、こわい。……って、あら? そういえば現在、離宮に滞在しているのって、たしか……」
「シシガシラだと? そういえばそれっぽいのを見かけたな」
「おいおい、あいつが犯人じゃないのか。別物って話だったが、じつは魔王種だったりして」
重大案件との認識にて、すぐさま緘口令が敷かれたものの、ヒトの口には戸は立てられぬ。
なまじ隠そうとしたことが仇となり、ウワサが出回り、なかには悪意あるデマまで流布されることに。
こうなるとムキになって否定すれば否定するほどに、かえって怪しいと余計に疑われるからやっかいだ。
事実無根、ありえない誹謗中傷にさらされている。
呼ばれたから、わざわざ辺境から足を運んだというのに、この仕打ち……
理不尽この上なし!
ゆえにワガハイは「ふんがーっ!」と憤慨していたのである。
すると、そっとティーカップを置き仮面の令嬢が口を開く。
「お怒り、ごもっとも。しかし世間というものは、えてしてこういうものです。かといって衛士らに任せていたら、解決するはいつになることやら。
事は急を要します。
こうなったら自分で濡れ衣をはらすしかありませんわね」
真犯人をとっ捕まえる。
それが汚名を返上する一番の近道である。
「まんざら知らぬ仲でなし。わたくしも協力してさしあげましてよ」
そう言ったお嬢さまだが、仮面の奥の目が笑っていた。
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