寄宿生物カネコ!

月芝

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248 カネコ、看破する。

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「あいかわらず個性的な装いで、周囲から浮きまくりだにゃん」
「貴方ほどではありませんでしてよ、フフフ」

 などという再会の挨拶を交わす、ワガハイと仮面の令嬢。
 このお嬢さま……
 じつは王弟の息子の元婚約者だったりする。
 王族の血筋に連なる者とそういう関係にあったことからして、彼女の実家が高位なのは言わずもがな。そして貴族の結婚なんて、基本、家同士の結びつきだ。政略婚な場合がほとんど。
 彼女の場合もそうであった。

 そんなお嬢さまに対して王弟のバカ息子は、こともあろうに婚約破棄を言い渡したのだ。
 しかも貴族の子息子女らが通う学園の卒業記念パーティーという、晴れの舞台で!
 とんでもないスキャンダルである。
 だが、騒動はそれだけでは終わらなかった。

 バカ息子が他の女に入れ上げての暴挙だったのだけれども、その入れ上げた女というのが破人の変装した工作員であったのだ。
 工作員の目的はエスカリオ国を混乱させることと、そのどさくさにまぎれて王妃さまを暗殺すること。
 王族ゆえに、王妃さまと接近する機会があると考えての陰謀であった。
 ようは、まんまと乗せられて、暗殺に加担させられてしまったということ!

 実際、危ういところであったという。
 それを寸前で防いだのもまた、この仮面の令嬢であった。
 このお嬢さま、幼少期より厳しく育てられたもので、文武両道の才媛にて。
 暗殺者が突き出した凶刃を蹴り飛ばし、身を呈して王妃さまを守ったのである。
 かくして陰謀は失敗に終わった。

 ちなみにお嬢さまがどうして厳つい仮面をかぶっているのかといえば、生まれ持った膨大な魔力を制御するためなんだとか。
 なおその仮面はお嬢さまの手彫りだったりもする。出来映えは本職顔負けだ。

 ワガハイは突然の婚約破棄宣言で傷心した……
 というのは建て前にて、本音は「ウワサ好きのスズメどもがチュンチュンと、やかましいったらありゃしない」との理由にて。
 仮面の令嬢が辺境のトライミングで療養する際に、護衛として雇われていたことがある。
 それが縁で知己を得たわけだけれども、彼女もまたワガハイに負けず劣らずのトラブルを引き寄せる体質にて。

(ぶっちゃけワガハイ……このお嬢さまとはあんまり関わりたくないのにゃあ~)

 などと考えていた時のことであった。

「あら?」

 コテンと小首をかしげたのは仮面の令嬢である。
 その声に釣られて、彼女の視線を追えば、向こうの壁際は柱の蔭に立つひとりの騎士の姿が目に入った。
 服装からしてレセプションの参加者ではなくて、警備の者のようだけど。
 顔色があまりよくない。目の下にひどいクマもある。妙な脂汗もかいているし、ちょっとおつかれ気味なのかしらん。

「あの男がどうかしたのかにゃん?」
「いえ、何やら少し違和感を覚えたもので」

 そう言われたら、なにやら気になるのがヒトの性(さが)というもの。
 だからワガハイも、ついしげしげと騎士を眺めてしまった。
 するとはずみで鑑定さんがピコンと発動しちゃったのだけれども……

「――んにゃっ!? あの男、呪われているのにゃん!」

 呪いは、魔法学的には付与魔法の一種と考えられている。
 いい呪いはバフ効果を、悪い呪いはデバフ効果を対象に与える。
 だから呪いだからって、一概にダメなものとは言い切れない。願いや、おまじないの意味合いもあるのだ。
 もしかしたら大事なレセプションでの警備だから、気合いを入れてきたとも考えられるので、ワガハイはいま一度、騎士をじっと凝視する。
 そうしたら視界の隅に表示されたのは『やや錯乱状態』との情報であった。

 帯剣した錯乱騎士とか、何とかに刃物みたいなものである。
 まだ理性が働いているのか、懸命に自制しているみたいだけど、それも時間の問題といった感じだ。
 心配していたら案の定であった。
 錯乱騎士がふらふらと壁際を離れては、会場の中央へと移動を開始する。

「げっ、マズイのにゃん!」

 会場内にはドレス姿のご婦人方が大勢いる。どこもかしこも賓客だらけ。
 そんなど真ん中で抜刀なんてしようものならば、たいへんなことになる。
 だからワガハイはすぐに騎士のもとへ向かおうとするも、アムールトラばりの大きな体がわざわいして、うまく人混みを進めない。
 ワガハイの言葉を信じて、えらい学者先生も向かおうとするも、似たような状況に陥って足止めを喰らう。
 そんなワガハイたちを尻目にして、動いたのは仮面の令嬢であった。

 手にしていたシャンパングラスを反対側の壁へと投げつけては、パリン!

 みなの注意が一瞬、そちらへと向いた刹那のこと。
 仮面の令嬢の姿が消えた。
 と、おもったら天井にて逆さに張り付いており、そこからさらに跳躍。
 次にあらわれたのは錯乱騎士の背後である。

 シュタっと着地したと思ったら、手刀にて首トン。

 一撃にて錯乱騎士の意識を刈り取ってしまった。
 天井を利用した変則的な三角飛び!?
 凄腕のクノイチか、はたまた拳法の達人か!
 文武両道どころではない仮面の令嬢の動きに、ワガハイとえらい学者先生はあんぐり。


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