247 / 254
247 カネコ、レセプションに出席する。
しおりを挟む突如、聴聞会に乱入してきたアツァーリの王さま。
そのあとからひょっこり顔を出したのは、えらい学者先生である。
どうやらワガハイへの元老院の暴挙を聞きつけて、先生が王さまを連れてきてくれたらしい。
「おー、おまえさんだな? すごい魔道車を持っているというのは? ずっと会うのを楽しみにしておったぞ。
ガハハハ、なんだよ、シシガシラに似ていると聞いたが、ぜんぜんちがうじゃねえか。いっしょにするだなんて、そいつらの目はとんだ節穴だな」
議場に踏み込んできたとおもったら、アツァーリの王さまはいきなりワガハイの方へと詰め寄り、笑顔でムギュっと抱きついてきた。
挨拶のハグのつもりらしいだけど……ギチギチギチ、ぐ、ぐるちい。
ちょっと小柄でずんぐりむっくりしているけど、王さまってばもの凄い力にて。
「ったくよぉ、エスカリオのオークションで、珍しい出物があると聞いて、政務を放り出して飛んできてみれば、ちょうどおまえさんが王都に来ていると知ってな。
これぞ天の采配と感謝したものよ。
なのにお目当ての人物になかなか会えんではないか。
で、何度、申請を出してもあーだこーだと要領の得ぬ返答ばかりで、首を傾げておったのだが、よもやこんなところに引きずり込まれておったとはなぁ。
おかげでずいぶんと時間をムダにしてしまったわい」
フンっと鼻を鳴らしては、周囲をギロリとひとにらみ。
議場内のざわめきがピタリとやんだ。
饒舌だった元老院の長老方が、とたんに口をつぐむ。
う~ん、毒をもって毒を制すではないけれど。
いかに力を持つ元老院とて、他国の王さま相手では強くは出れない。
それを見越して、えらい学者先生が手配してくれたようだ。
「七日もやったんだ、もう十分だろう。こいつは連れていく。いいよな?」
物言いことはそこそこ丁重だが、有無を言わさぬ威圧が込められており、その意は「まさかとはおもうけど、オレさまに恥をかかすようなこと、しないよなぁ」である。
かくしてワガハイは聴聞会から解放された。
そして今度はアツァーリの王さまからの質問攻めに合うハメに……
〇
広々とした会場に流れるのは楽団による生演奏♪
照明は落ち着きのある色味の暖色系に統一されており、とってもムーディだ。
高い天井は全面がガラス張りにて。
見上げた先には夜陰に浮かぶ摩天楼の姿があった。
背景にあるブランカグア連峰のシルエットが、ライトアップされた高層建築の存在感をいっそう際立たせている。
会場の壁際には、いくつもの料理が盛られた皿があって、好きな物を好きなだけとって食べるビュッフェスタイル。
王城の料理人が手がけただけあって、どれもとっても美味しそう。
ところで知ってる?
ビュッフェとバイキングのちがいについて。
どちらも似たようなものだけど、じつはちょっとちがう。
ビュッフェはフランス語でセルフサービスの食事を指す言葉で、立食や着席の形式がある。
バイキングはそのもの、食べ放題形式の食事を表している。
――あれ? だったらやっぱり同じようなものじゃないの。
と思われるかもしれないが、両者の差はずばり料金である。
一定の金額を払ったら、好きなだけ食べていいのがバイキングスタイル。
対してビュッフェスタイルは食べた料理の数によって料金が変わる場合があるのだ。ばかりか『おかわり不可』なんてケースもある。
このように細々としたちがいはあるものの、現在ではビュッフェは立食、バイキングは着席スタイルと区別している。
なおバイキングスタイルの発祥は日本のホテルだったりもする。
首に蝶ネクタイをつけた格好で、ワガハイはレセプション会場に混じっている。
聴聞会からようやく解放されたとおもったら、今度はアツァーリの王さまからの質問攻めにあったあげくに、カネコモービルを一台用立てる約束までさせられたばかりか、その流れのままにパーティー会場へと連れてこられた。
このパーティーは賓客らをもてなすためのモノだ。
珍しい品が多数出品されるという今回のオークションに参加すべく、各国からけっこうな身分の者らが集まっている。
なかには王族などの国賓級もまじっている。
とはいえ数が数なので個別に歓迎していてはキリがない。
そこでまとめてやってしまおうと。
ようは前夜祭のようなものである。
アツァーリの王さまも主賓のうちのひとりだったもので、「陛下、そろそろお時間が」と側仕えの者が呼びにきたところで「ちっ、めんどうだがしょーがねえ。っと、そうだ、ついでだから、おまえさんもいっしょに来いよ」とワガハイも強引に誘われたという次第。
連日に渡って行われた聴聞会が終わったとおもったら、一転して華やかなパーティー。
う~ん、落差が激し過ぎる。
「めまぐるしいのにゃあ。おちおち食事も楽しめやしない」
などと言いつつ、ワガハイは壁際に張り付いては、パーティーそっちのけで料理を物色している。
そんなワガハイの脇をコツンと肘で小突いたのは、えらい学者先生だ。
「んにゃ? 何にゃん。先生もお肉が欲しいのかにゃあ」
「ちがう。アレを」
指差した先にいたのは、周囲とは一線を画した装いの人物にて。
仮面の令嬢であった。あいかわらずの異様っぷりにて、本日は能の般若っぽい仮面をつけている。
そんなご令嬢が、つかつかとこちらに近づいてきては「またお会いしましたわね。ごきげんよう」と優雅なカーテシーを披露した。
1
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる