寄宿生物カネコ!

月芝

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246 カネコ、突撃される。

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 聴聞会――
 初日、やくたいもない繰り言に終始する。物言いが回りくどい。ただただダルかった。昼飯抜きというのもあんまりだと思う。

 二日目、前日のおさらいから入ったので遅々として進まず。似たような質問ばかりでうんざりする。今日もお昼ごはんは出なかった。

 三日目、過去にトライミングで起こしたアレコレについて言及された。ネチネチ嫌味を言われる。やはりお昼ごはんは提供されず。イライラ。

 四日目、ようやく月の話になるも、めっちゃ疑われる。証拠は提出済みなのに……。そして今日もお昼ごはんはナシ。さすがにムカついたのでアイテムボックスから串焼きを取り出し、勝手にモグモグしたらめっちゃ怒られた。解せぬ。

 五日目、言うにこと欠いて、破人どもと示し合わせての陰謀論が飛び出した! ひどい! あんまりだ! こっちは良かれとおもって報告したのに!
 昼飯も当然のようにスルーされた。さりとて勝手に食べたら叱られるので、こっそり隠れてモグモグしたらニオイでバレた。
 しまった! タレ味じゃなくて塩味にするべきであったか。
 でもって、しこたま怒られた。なんだか、納得いかない。

 六日目、トンチンカンな陰謀論に妄想と尾ヒレがついて都市伝説化する。こうやってデマが誕生するのか。そのせいで議論が明後日の方向へ。
 なおやはり昼ごはんは出ない。
 だからワガハイは知恵を絞り「ちょっとオシッコ」と言って中座し、便所飯にて済ませる。ほろ苦い青春の味がした。そして腹が満たされるのと引き換えに、とっても切なくなった。うぐっ、学生時代のトラウマが……

 そして七日目……
 ワガハイがうつらうつらしていると、話がなんだかキナ臭くなっていく。
 破人の工作員疑惑や月の真相についてはさておき。

「寄宿生物カネコをこのまま野放しにするのはいかがなものか?」

 などという意見がシレっと出てきたとおもったら、あっという間に大勢を占める。

「希少な種族であることですし、ここはひとつ国で保護すべきでは?」
「さようさよう。今後のためにも、研究機関にて保護観察処分にするのがよかろう」
「そうですな。あくまで人道的見地から鑑みましても妥当かと」

 ようはワガハイに首輪をつけるということ。
 う~ん、これこそが聴聞会が開かれた本命であったっぽい。
 元老院の長老方はワガハイを国の紐付き、子飼いにするつもりであったのだ。
 それすなわち国に寄宿させるということ。

 一見するとそう悪い話ではなさそうである。
 が、そこはそれ、ワガハイはカネコであるからして……

 ワガハイは誇り高き寄宿生物カネコである。
 そして寄宿とは、他人の家に身を寄せて生活することである。
 家賃や生活費なんぞは銅貨一枚とて払わない。
 もしもそれを払ってしまったら、たんなる下宿人に成りさがってしまう。
 ワガハイが成りあがりたいのは居候だ。
 他人の家にタダで置いてもらい、ぐうたらしつつ、一番風呂に浸かり、寄食(食事の世話を受けること)する。だけどなんぴとにも縛られない。

『おんぶに抱っこで、自由な快適暮らし』

 寄宿生物カネコは、そんな生活の実現を目指す生き物である。
 けっして怠けたいわけじゃない。
 種の本能が「寄宿せよ!」と叫んでいるのだ。
 いわば魂の衝動のようなもの。

 そういった観点からすれば、今回の話はむしろウェルカムのように思われるかもしれないが、じつはちがう。
 ワガハイの、ワガハイによる、ワガハイのための寄宿でなければ意味がないのだ。
 主導権はあくまでワガハイにあり、気まぐれでフラリといなくなったりもする。
 風の向くまま、気の向くまま、その日の気分次第。
 根底にそれがあってこその寄宿。
『寄宿する』もしくは『寄宿してやる』のと、『寄宿させる』のとでは意味合いがまるで異なる。
 ゆえに国の都合によって、囲われるのはちがうのである。

「よって、そんな寄宿生活はまやかしなのにゃあ~」

 とのワガハイの主張に、元老院の長老方はそろって「「「えー」」」」
 かくして交渉は決裂した。
 ワガハイはきっぱりお断りをする。
 だが、元老院の方々もしぶとい。なおも食い下がろうとしたところで……

 バンッ!

 いきなり会場入り口の扉が開かれて、警護の騎士らの制止を無視し、ズカズカと踏み込んできたのは、ドワーフみたいな山人の男性であった。
 チェニックに一枚布を体に巻きつけたかのような服装は、古代ローマ風っぽい。
 サンダルを履いており、ごつい腕の右手首には豪奢な腕輪をつけている。
 妙に存在感と風格があるなぁ……とかおもったら、さもありなん。

「おいおい、いつまでこいつを独り占めするつもりだ。いい加減、待ちくたびれちまったぜ」

 この人物の正体は、技術大国アツァーリの王さまであった。
 月から持ち帰った希少な品々。それらが出品されるオークションに参加するために、わざわざみずから乗り込んできたんだってさ。
 へー。


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