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244 カネコ、聴聞会に出頭する。
しおりを挟む差し込む陽射しがやわらかい。
暑からず、寒からず、毛が乾燥してボワッとならない心地良い温度と湿度。
ガラス張りの温室テラスにて、優雅に朝食をいただく。
さすがは王城内にある離宮なだけあって、どこもかしこも贅が尽くされている。
もちろん料理の味も絶品だ。
特にタマゴ料理がよい。スクランブルエッグみたいなのだけどシンプルであるがゆえに、料理人の腕の差が味や食感に如実にあらわれる。
舌の上でとろける。
この上品かつ洗練された風味は辺境では絶対に味わえないだろう。
「むふ~ん、旨いのにゃあ。お城とか堅苦しそうなのにゃあ~と、ずっと敬遠していたけど。これならば寄宿してやるのもやぶさかではないのにゃん♪
……にしても、結局、先生は帰ってこなかったのにゃあ~」
王城へ到着し、離宮へと案内されたところで、何者かに呼び出されたえらい学者先生。
それっきり、昨夜は戻ってこなかった。
「昨夜といえば、王妃さまにも驚かされたのにゃあ~」
王妃さまは才色兼備の森人にして、ワガハイと同じ転生者であった。
幸いなことに、ワガハイは王妃さまのお眼鏡にかなったらしいが、もしも「あー、ダメだこいつ」と意に沿わぬ存在と判断されていたら、その場で剣姫によって首チョンパされていたかもしれない。
と、あとで知った時には心底肝が冷えたものである。
しかし、そこは人格者にして大人であるワガハイの資質のおかげで、窮地を切り抜けることができた。
さすがはワガハイである。
けれども幸せな時間は長くは続かない。
朝食をたらふく食べ、食後のお茶を楽しんでいた時のこと。
ついにお迎えがきてしまった。
〇
迎えにきたのは、ふたりの騎士たち。
愛想のない屈強な男らに連れられて、広い城内を行く。
長い廊下を進んだ先の行き止まりにある大きな扉を開ければ、そこが聴聞会の議場だったのだけれども……
「にゃ! にゃんだこれ? これじゃあまるで法廷みたいなのにゃあ~」
月からの脅威について詳しい話を聞きたい。
という名目で辺境から呼びつけられた。
呼んだのは元老院の方々。
王印が押された召喚令状が発行されたことからして、彼らにかなりの権力があることは容易にうかがい知れるというもの。
そこまでは、まぁ、いい。
だが、問題は招かれた場所だ。
薄暗い室内に窓はなく、明かりは設置されてある照明のみにて。
入って正面奥にて二段ほど高くなっているのは法壇だ。これは裁判官や裁判員の着席するところ。
その手前の一段さがったところにあるのが、書記官席だ。
入り口扉から向かって右側は弁護人席、左側が検察官席にて、それらに囲まれるようにして室内の中心に証言台がある。なお傍聴人席はない。
証言台の位置がいちばん低い。
三方からつねに見下ろされている。
まるですり鉢のよう底だ。
しぃんとした室内は異様な雰囲気に包まれていた。
怪しさを助長しているのが目隠しカーテンの存在。
法壇、書記官席、弁護人席、検察官席……すべてに設置されており、証言台からではそこにいる相手の姿が見えないようにされているが、おそらく向こうからは丸見えなのだろう。
そんな証言台のところにワガハイは通された。
ばかりか、斜め後方にて立つ騎士たちが、いきなり抜刀しては切っ先を床に突き立てるようにして持ち、直立不動の姿勢となる。
背後からヒシヒシとものすごいプレッシャー!
その真意は「もしもウソ偽りを申したら、即座にズバッといくぞ」といったところか。
パワハラ全開! とんだ圧迫面接にて、とてもではないがウェルカムなムードじゃない。
「空気が重苦しいのにゃあ~。髭がピリピリするのにゃあ~。えらいところに来てしまったのにゃあ~」
王妃さまから「元老院の連中は老獪だから気をつけろ」と云われていたけれど、よもやよもやである。
頼みの綱であったえらい学者先生はいない。
ひょっとして意図的に分断されたか?
ワガハイは孤立無援にて、聴聞会に臨むハメになった。
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