244 / 266
244 カネコ、聴聞会に出頭する。
しおりを挟む差し込む陽射しがやわらかい。
暑からず、寒からず、毛が乾燥してボワッとならない心地良い温度と湿度。
ガラス張りの温室テラスにて、優雅に朝食をいただく。
さすがは王城内にある離宮なだけあって、どこもかしこも贅が尽くされている。
もちろん料理の味も絶品だ。
特にタマゴ料理がよい。スクランブルエッグみたいなのだけどシンプルであるがゆえに、料理人の腕の差が味や食感に如実にあらわれる。
舌の上でとろける。
この上品かつ洗練された風味は辺境では絶対に味わえないだろう。
「むふ~ん、旨いのにゃあ。お城とか堅苦しそうなのにゃあ~と、ずっと敬遠していたけど。これならば寄宿してやるのもやぶさかではないのにゃん♪
……にしても、結局、先生は帰ってこなかったのにゃあ~」
王城へ到着し、離宮へと案内されたところで、何者かに呼び出されたえらい学者先生。
それっきり、昨夜は戻ってこなかった。
「昨夜といえば、王妃さまにも驚かされたのにゃあ~」
王妃さまは才色兼備の森人にして、ワガハイと同じ転生者であった。
幸いなことに、ワガハイは王妃さまのお眼鏡にかなったらしいが、もしも「あー、ダメだこいつ」と意に沿わぬ存在と判断されていたら、その場で剣姫によって首チョンパされていたかもしれない。
と、あとで知った時には心底肝が冷えたものである。
しかし、そこは人格者にして大人であるワガハイの資質のおかげで、窮地を切り抜けることができた。
さすがはワガハイである。
けれども幸せな時間は長くは続かない。
朝食をたらふく食べ、食後のお茶を楽しんでいた時のこと。
ついにお迎えがきてしまった。
〇
迎えにきたのは、ふたりの騎士たち。
愛想のない屈強な男らに連れられて、広い城内を行く。
長い廊下を進んだ先の行き止まりにある大きな扉を開ければ、そこが聴聞会の議場だったのだけれども……
「にゃ! にゃんだこれ? これじゃあまるで法廷みたいなのにゃあ~」
月からの脅威について詳しい話を聞きたい。
という名目で辺境から呼びつけられた。
呼んだのは元老院の方々。
王印が押された召喚令状が発行されたことからして、彼らにかなりの権力があることは容易にうかがい知れるというもの。
そこまでは、まぁ、いい。
だが、問題は招かれた場所だ。
薄暗い室内に窓はなく、明かりは設置されてある照明のみにて。
入って正面奥にて二段ほど高くなっているのは法壇だ。これは裁判官や裁判員の着席するところ。
その手前の一段さがったところにあるのが、書記官席だ。
入り口扉から向かって右側は弁護人席、左側が検察官席にて、それらに囲まれるようにして室内の中心に証言台がある。なお傍聴人席はない。
証言台の位置がいちばん低い。
三方からつねに見下ろされている。
まるですり鉢のよう底だ。
しぃんとした室内は異様な雰囲気に包まれていた。
怪しさを助長しているのが目隠しカーテンの存在。
法壇、書記官席、弁護人席、検察官席……すべてに設置されており、証言台からではそこにいる相手の姿が見えないようにされているが、おそらく向こうからは丸見えなのだろう。
そんな証言台のところにワガハイは通された。
ばかりか、斜め後方にて立つ騎士たちが、いきなり抜刀しては切っ先を床に突き立てるようにして持ち、直立不動の姿勢となる。
背後からヒシヒシとものすごいプレッシャー!
その真意は「もしもウソ偽りを申したら、即座にズバッといくぞ」といったところか。
パワハラ全開! とんだ圧迫面接にて、とてもではないがウェルカムなムードじゃない。
「空気が重苦しいのにゃあ~。髭がピリピリするのにゃあ~。えらいところに来てしまったのにゃあ~」
王妃さまから「元老院の連中は老獪だから気をつけろ」と云われていたけれど、よもやよもやである。
頼みの綱であったえらい学者先生はいない。
ひょっとして意図的に分断されたか?
ワガハイは孤立無援にて、聴聞会に臨むハメになった。
1
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる