寄宿生物カネコ!

月芝

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241 カネコ、王妃と語らう。

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 挨拶もそこそこに、王妃さまは急に砕けた態度となり言った。

「ところであなた……マイナンバーカードって知ってる? もしくは新しい五百円玉とか?」

 雰囲気がガラリと変わったことにも驚かされたが、何よりもその発言内容である。

(はぁ!? えっ! マイナって……。えっ、えっ、えぇーっ! もしかして王妃さまって……)

 ギクリ! 完全なる不意打ち。
 すっかり動揺したワガハイは額の目が泳ぎ「な、なんのことかにゃあ~」と声が上擦る。
 はっきり言って挙動不審にて、その態度が答えとなっていた。バレバレである。

「その様子だと、やはりそうだったみたいね。ふふふ。
 いえね、ちょいちょい届く辺境からの報告書を読んで、なんとなく発想とか行動が、それっぽいとはおもっていたのよねえ。
 ふつうのヤツなら『マスコットキャラクターになる!』とかいう、阿呆なことなんて言い出さないし、行動原理というか、ちょいちょい甘々な判断とかが、いかにも平和ボケした国の人間っぽいんだもの」

 ぐうの音もでない。
 それでもって、なんという慧眼であろうか。
 恐れ入谷の鬼子母神……ワガハイは「おみそれしやした」とハハーと平伏するも。

「ところで五百円玉が新しくなったのって本当かにゃあ?」

 若いヒトは知らないだろうけど、昔ってば五百円ってお札だったんだよねぇ。
 それが高度経済成長期による物価高の影響もあり、五百円玉の硬貨に変わったのが、1982年のことである。
 古き良き時代であった昭和の57年だ。
 当時、まだ幼かったワガハイは、そのメタモルフォーゼっぷりに、たいそう目を白黒とさせたものである。
 そんな五百円玉がリニューアルしただと?

「ええ、そうよ。たしか2021年の11月からだったかしら。ぱっと見には似ているんだけど、中にもうひとつ丸があってね。オモチャ感が増したというか、観光地にある記念コインっぽい造りになったというか。
 でも、これがまたやっかいでねえ。
 自販機や病院の駐車場の機械だと、ちゃんと認識しないでスルーされちゃうの。
 どうやら硬貨が新しくなるのに、機械のシステムの方が追いついていなかったらしくって。けっこうあちこちでトラブル続出だったわよ」

 五百円玉硬貨のリニューアルにともない起きた騒動の数々。
 妙に説得力があるところからして、実体験が込められているのであろうけど、ワガハイは頭の中がハテナマークだらけにてプチパニックである。
 なぜなら……

 マイナンバーカードの交付が始まったのが、2016年から。
 五百円玉が新しくなったのが、2021年から。

 カードのことはワガハイも知っている。
 発表があった時、「またぞろ国がめんどうなことを始めたぞ。ぜったいにおかしなことになるのにちがいあるまい」とおもったものである。
 事実、その危惧は的中する。

 やるならやるで一斉にスパッとやればいいものを「ああだ、こうだ」とちんたらしたおかげで、システム導入は遅々として進まず。
 しまいには「カードを発行してくれたら、ポイントでお金をあげちゃう」とかいう、とち狂ったことまで始めた。
 いやいやいや、ちょっと待て!
 その分のお金と手間があれば、もっと社会に貢献できること、いくらでもあるよね? 貧困家庭の救済とか、教育の無償化とか、地方医療の補助とか、その分のお金と手間があれば、もっと社会に貢献できること、いくらでもあるよね?
 と、ワガハイは心底呆れたものである。

 まぁ、それはさておき。
 問題は五百円玉のリニューアルの方だ。
 ワガハイ……知らない。
 少なくともワガハイがヒトの身であった頃にはなかったシロモノである。

 王妃さまとワガハイ。
 どちらも転生者。
 こちらの世界に転生したのは、王妃さまの方がずっと先である。
 なのに彼女はワガハイの知らないことを知っている。
 それすなわち……

「時代にズレがあるのにゃあ~。もしかして逆転現象が起きているのかにゃん?」

 どうやら時の流れは不変というのは、異世界転生においては当てはまらないらしい。
 う~ん、ややこしい。
 なお王妃さま、元の世界ではバリバリのキャリアだったそうで。
 死因は過労死。
 なのに、こっちの世界に生まれ変わってまで、またバリバリ働いてるだなんて。

「うわ~、根っからのワーカホリックだにゃん」
「ぐぬっ、否定できない。というか、私だってこんな生活なんて望んじゃいなかったわよ。だから生まれ変わる際に遭った女神さまには、『今度はシンデレラみたいにステキな王子さまとゴールインしたいわ』って、ちゃんとお願いしたもの」

 その願いはしっかり聞き届けられた。
 ただ誤算だったのは、王妃さまという立場はめちゃくちゃ多忙を極めたということ。
 また本人のマジメでがんばり屋さんな性格も災いし、気づけばこうなっていたと。
 おっふ、ご愁傷さまである。


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