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234 カネコ、修理する。
しおりを挟む王都へと向かう道すがらに立ち寄った街、そこの場末にあるガラクタ屋にて見つけたお人形さん。
壊れたパペットっぽいそれ……じつはある男の残した品。
男の名をサレーオといった。
〇
サレーオとは……
生前はとある王国でゴーレム錬成技師の第一人者として、世界中にその名を轟かせた不世出の天才である。
彼の持つ技術と知識、次々に造り出されるゴーレムたちは、それまでの『鈍重で、いまいち使えない』という常識を覆したばかりか、国そのものにも大いなる変革をもたらす。
ゴーレム駆動エンジンの運用は画期的にて、経済や物流、軍事などなど。
各方面に多大な影響を及ぼす。
これにより、サレーオが所属していた王国は一躍、大国の仲間入りを果たす。
魔法学にも造形が深く、探求心旺盛であった彼だが、惜しむらくは人の縁に恵まれなかった。
仕えた主――王さまはゲスの極みのような男にて。
言葉巧みにサレーオを騙しては、こき使ってずっと搾取していたのである。
ばかりか気まぐれでサレーオの妻にちょかいを出し、デキた子を托卵で育てさせるという鬼畜外道であった。
没落貴族出の妻は妻とて夫のサレーオを敬うこともなく、平民と蔑み、バカにしては、亭主元気で留守がいいと公言してはばからぬ。
生まれた子は子で、そんな母親に育てられたせいか、父をあなどり便利なATM扱いする。
家に居場所がないサレーオは、その鬱憤を晴らすかのごとく仕事にのめり込むも、その成果を享受するのは、もっぱら王さまなのだから皮肉な話だ。
がんばればがんばるほどに、ドツボにはまっていくサレーオ。
だがしかし、ついに秘密が露見する時がきた。
すべてを知ったとき……
サレーオの味わった絶望たるや、筆舌にしがたく。
彼は血の涙を流し慟哭する。
さすがに温厚で人の好いサレーオもブチ切れた。
「おのれ、この恨みはらさでにおくべきか!」
結果、サレーオは出奔し王国は滅んだ。
当時、国の津々浦々にまで浸透していたゴーレム駆動によるシステムが、一斉にシャットアウトしたばかりか、自壊する。
そうなるように仕向けたのは、もちろんサレーオだ。
彼によって産み出されたシステムに細工を弄するのなんて、ちょちょいのちょいである。
王国は大混乱に陥り、さなかに周辺国からタコ殴りにされて瓦解した。
とはいえ、これは王さまの自業自得にも等しい。
なぜなら高度なゴーレム技術を背景に、居丈高に振る舞っては周辺国にちょっかいを出していたからだ。
驕れる者久しからず、であった。
かくして愚王は首級を城門前にさらされた。
なおサレーオの妻子については、消息不明である。
都が陥落する際の混乱に巻き込まれて死亡したか、まんまと生きのびたのか。
すべては歴史の闇の彼方へ……
〇
そんなサレーオの遺体と彼が残した『魔術大全』を発見したのが、このワガハイである。
晩年、サレーオはメテオリト大森林の第六層にかまえた隠れ家にて隠遁生活を送り、そのまま誰にも看取られることなく、ひっそりと息をひきとっていた。
サレーオの造ったゴーレムたちは、すべて自壊してしまい、いまはまともに残っているモノはひとつもない。卓越した技術もまた失われてしまい、その後、誰も再現できず。愚か者たちのせいで永遠に幻となってしまった。
……はずであった。
事実、ガラクタ屋でゲットした品もまたしっかり壊れており、ウンともスンともいわない。
けど……
「このワガハイの眼力は誤魔化せないのにゃあ~。たしかにあちこち草臥れてるし、ずいぶんと古ぼけてボロっちいけど、おそらく中身は……メイン回路とかは無事なままなのにゃん」
とどのつまり、このパペットはたんに電源が落ちているだけの状態にて、少し整備をしてやれば、まだまだ動く、再生可能だということ。
もっともその整備をする知識や技能すらもが、世界から失われてひさしいのだけれども。
だがしか~し、サレーオのゴーレム技術の一端を継承しているワガハイであれば、それがデキちゃうのだ。
「……とはいえ、サレーオの造ったゴーレムに直接触れるのはワガハイも初めてだから、ちょっと緊張するのにゃん。ドキドキ」
髭をヒクヒク震わせながら、ワガハイは慎重にパペットを解体していく。
するとにらんだ通りにて、二重構造になっていた内部はキレイなものであった。
「いくつか魔道回路が断裂しているのと、魔晶石が割れてしまっているのにゃあ。へー、ほー、こうやって石をカットすると運用効率があがるのかにゃあ。なるほど、なるほど、勉強になるのにゃあ~。
ふんふん、それ以外のパーツは特に問題なさそうにゃんねぇ。
これならすぐに修理できるのにゃん」
チマチマと細かい作業に没頭しているうちに、気づけば早や陽が傾き始めていた。
そしてまるで修理が完了する頃合いを見計らかったかのようにして、えらい学者先生が宿に戻ってきたところで、いよいよパペットゴーレムを再起動することにした。
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