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232 カネコと雪国?
しおりを挟む「にゃぜにこうなった?」
「おっふ、これはまた、なんともはや……」
目の前の光景に、ワガハイとえらい学者先生は絶句する。
ケラケラノドンのタマゴを盗んで、王都へと持ち込もうとしていた商隊。
魔獣のタマゴを無闇に人里へ運び込むのは御法度!
よって悪だくみに気がついたワガハイたちは一計を案じて、タマゴを親御さんたちに返すことにした。
……まではよかったのだけれども、よもやこんな結果になろうとは夢にも思わなかった。
峠道でケラケラノドンの群れから襲撃を受けたところで、ワガハイたちは作戦を決行する。
混乱する現場、そのどさくさにまぎれて、うっかり荷車を壊し、中に収められていたタマゴを群れに返す。
その作戦はうまくいった。
が、ことはそれだけではすまなかったのである。
ボタッ……
ボタッ……
ボタッ、ボタッ、ボタボタボタボタ……
ケラケラという鳴き声とともに、空の上から降ってきたのは白と灰色が混じってドロリした物体。
糞である。
ケラケラノドンといえば糞害というぐらいに有名にて、たかがクソと侮るなかれ。
なかなかの酸性と浸蝕性にて、建物の屋根をボロボロにし、ときには吊り橋の要のワイヤーを腐らせて橋を落とすほどの威力を持つ。
そんなモノが大量に頭上から降ってきたものだから、現場は大パニックに陥った。
これを横目に、ワガハイはすぐさま地魔法にてカネコドームを造り、えらい学者先生ともども緊急避難する。
なお、定員は二名にて、他の連中は知らん。
……で、騒動が落ち着いた頃合いを見計らって、そーっと表に出てみたらご覧の有り様であったと。
「扉を抜けると、そこは雪国だったのにゃん」
某名作文学作品風にワガハイはつぶやく。
「くっ、くっ、くっ、ずいぶんとばっちい雪だがな」
えらい学者先生は鼻をつまみながら、肩を震わせた。
峠道は一面クソまみれ。
運よく荷馬車に避難できた者らは助かったものの、それ以外はみな全身べっちょりにて手痛い被害をこうむる。
ただし、唯一、車内にいたのにもかかわらず被害を受けた者がいた。
それは商隊を率いる商人である。
彼の乗っていた馬車は集中砲火を受けたようで、でっかい鏡モチみたいな形をしたクソの山に埋もれていた。
降ってきた衝撃と圧により、窓が割れ、車体が歪み、生じた隙間からじわじわと車内に糞害が及ぶ。
逃げ場のない車内で商人は「ぎゃーっ!」
閉じ込められたまま生き埋めになってしまった。ナムナム。
先にも述べたように、ケラケラノドンの糞害はしゃれにならない。
だからすぐに洗浄しないと危険だ。
水魔法を使えるメンバーは限られており、とてもではないが手が足りない。
けれども幸いなことに、峠を越えた先に泉があるそうなので、一行は急ぎそちらへ向かうことにする。
そのことを聞いて、ワガハイは「ぬ?」とうなり、こめかみがヒクり。
ワガハイ、泉にあんまりいい思い出がないのだ。
というか、泉がかかわるとロクなことがない。
なんとなく「厭な予感がするのにゃあ~」と思っていたら、案の定であった。
ほうほうの体で泉に辿りついた一行。
やれやれと安堵の吐息を漏らしたところで、水面が急にぷくぷく泡立ち、浮かんできたのは謎の金髪ロン毛の男か女かわからない中性的な麗人である。
泉の精霊。
見た目に惑わされて騙された者は数知れず。
欲深い者をおちょくってはほくそ笑む、イタズラな精霊さん。
じつは毎年、新人が何人も痛い目に合ってる。
トライミングの冒険者ギルド支部あるあるで、名物みたいなもの。
かくいうワガハイも被害に合った。
神出鬼没にて泉というか、水溜まりさえあればどこにでもあらわれる、まるでカメムシみたいなヤツ。
月で遭遇したときは、ワガハイも本当に面喰らったものである。
満面の笑みにて一行を出迎えた泉の精霊が告げた。
「この泉の水を使いたいのならば、とりあえず金目のモノを出せ」
あいかわらずの守銭奴っぷりに、ワガハイは「うわ~」
えらい学者先生もこれにはドン引きであった。
でもって、ワガハイたちは用がないので、泉の精霊と商隊がもめている隙に、こそっと一行から抜けて、すたこらさっさ。
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